ガンッという硬い音が体育館に響き渡る。
 ソレと同時に、
「へったくそー」
 との罵声が。
 その心の底から馬鹿にし腐った感じの言葉と声音にカチンと来たが、それは確かなことなので文句の言葉を発しそうになるのをグッと堪えた。
 そんな宮城の尻を、声の主が容赦なく蹴りつけてきた。
「お前なぁ、俺の言った事聞いてたのか?肘が開きすぎなんだってのっ!だから軌道がずれるんだよっ!」
「・・・・・・・・・・分かってますよ。」
「分かってねーから直らねーんだろうが。バカヤロウ。」
「分かってても出来ねーから不得意なんすよ、3Pわっ!分かってすぐ直せりゃ、俺は既に立派な3Pシューターっすよっ!」
「んだと、てめぇっ!3Pをなめんなよっ!」
 上手くいかない苛々をぶつけるように怒鳴ったら、三井も応戦するように怒鳴りつけて来た。その事で宮城の頭にはさらに血が上り、三井の胸ぐらを掴み上げる。そんな宮城の行動に、三井も負けじと胸ぐらを掴み上げてきた。
 そして、飛ばした唾がかかるくらいの至近距離で怒鳴り合う。
「誰がいつ舐めたんすかっ!」
「あぁ?簡単に出来るとか抜かしやがったじゃねーか。てめーわっ!んな簡単に出来てりゃ俺は苦労してねーんだよっ!」
「ソレはこっちの台詞っすよ!ちょっと人よりも良く入るからって、偉そうにしてんじゃねーぞ、このっ!」
「誰が偉そうにしたってんだっ!ってか、なんだ?ちょっとってーのはっ!俺はちょっとどころじゃなくかなり入るんだよっ!」
「偉そうに自慢すんじゃねーぞ、このっ!」
「あぁん?だったらてめーも俺くらい3P入れてみろ、こらぁっ!」
「・・・・・・・・・・そのために練習してるんじゃないっすか?」
「「あぁ?!」」
 突如入った平坦な声の突っ込みに、三井と宮城は揃ってそちらに顔を向けた。
 柄悪く睨み付けながら。
 一般人だったら恐怖のあまりに泣き出しそうな程凶悪な顔で。
 その仲良く揃った動きに、声の主である流川が深々と息を吐き出した。
 そして、呆れのいろを大いに含んだような瞳でジッと二人の顔を見つめてくる。
「・・・・・・・・もうやらないんすか?」
「あ?」
「練習。」
「だったらなんだってんだよっ!」
 行き場を無くした、胸の内にくすぶる怒りを叩き付けるようにして三井が流川に問いかけた。そんな三井の態度を気にした様子もなく、流川はいつもとまったく代わらないテンションで言葉を続けてくる。
「片付ける。もう結構遅い。」
 言いながら指し示す流川の指を追えば、そこにある時計は既に九時を回っていた。そろそろ見張りの教師がやってくる時間だろう。インターハイ出場のバスケ部には甘い学校ではあるが、さすがにそれ以上の居残りは許して貰えない。
「・・・・・・・・もうこんな時間か。長くやってたわりにはあんま成果が上がらなかったな、宮城。」
「このっ・・・・・・・・!」
 煽るつもりはなく素直に言葉を発したのだが、今の宮城にそれを言ってはいけなかったらしい。途端に宮城の顔に朱色がさす。
 コレはヤバイと思って身を引いたが、宮城の動きの方が少し早かった。宮城の手は眼前まで迫っている。
 伸びて来た手に再度胸ぐらを掴み上げられるのだろうと思った三井だったが、その手は三井の身体にかかる寸前で別の誰かの手によってたたき落とされた。
 人気の薄い体育館に、乾いた音が響き渡る。
 伸ばした手を叩かれた宮城も、その行動によって掴みかかられずにすんだ三井も、思ってもいなかった展開に呆然となり身体の動きを止めた。
 そんな中、宮城の手を叩き落とした流川だけが普段通りの感情の色が窺えない、平坦な声でゆっくりと言葉を発してくる。
「いつまでもくっちゃべってねーでさっさと片付けろ。ドアホウ。」
 言うなり、流川はさっさと身を翻し、ボールを籠の中へと仕舞い始めた。その籠を倉庫の中へと片付け、モップを三本持ってくる。そして、三井と宮城の手に一本ずつモップを握らせたと思ったら、呆然としている二人を無視してさっさと床掃除へと移ってしまった。
 その姿を視線で追い、自分の手の中にあるモップを見つめ、互いの手の中にあるモップを見た三井と宮城は、チラリと視線を合わせた後に深々と息を吐き出した。
「・・・・・・・・やるか。」
「・・・・・・そうっすね。」
 そう呟き、頷きあった二人は流川に習うようにモップがけをし始める。
 これ以上騒ぐ気にはなれなくて。
 そんな二人の姿にチラリと視線を走らせた流川は、二人に気付かれないようにそっと息を吐き出した。
「仲が良いのか悪いのか・・・・・・・・・・」
 まったく、世話の焼ける人達だ。
 流川がそんなことを考えていると知ったら大激怒しそうな二人だから口にはしないが、本気でそう思っている流川だった。




































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そんな日常