「・・・・・・・・・・・・あ。」
次から次へと話題を提供していた口が短い言葉を漏らして押し黙る。
なんだろうかと傍らの男に視線を向け、彼の視線を追ってみたが、そこには流川の目を引くような物はなかった。
答えを求めてもう一度彼の顔を見つめると、その視線の動きに合わせるように三井がこちらに視線を向けてきた。
「さっきの車のナンバー。」
それだけ告げて一旦言葉を切った三井は、妙に嬉しそうに微笑んだ後、その先を続けてくる。
「666だったぜ。」
その言葉を耳にした途端、流川の眉間に深い皺が刻み込まれた。だからなんなのだと言いたくなって。
そんな流川の気持ちを察したからなのか、察していないからなのか。どちらなのか分からないが、三井は嬉々として言葉を発し続ける。
「なんかよ、同じ数字が並んでると妙に嬉しくなんねー?11月11日とかよ。22時22分とかよ。そういう時間にデジタル時計を見たら、『おお!』って思ったりしねぇ?」
そんな事で喜ぶような奴はガキだけだと内心で突っ込んだ後でふと気づいた。そう言えば、この人は十分にガキだったなと。
一人で納得し、流川は小さく頷いた。そして、しばし考える。
下手な事を言って怒らせるよりも、何も言わないでおいて機嫌が良いままで居て貰った方が何かと得だろう。何しろ、機嫌の良いときの三井は結構太っ腹だから。色々な意味で。
だからこの場は下手な突っ込みを避け、三井に好きなように喋らせておいた方が得策だと思う。自分は口が立つ人間では無い事は良く分っているから。深い意味なんか無い言葉でも三井の不興を買う事がザラにあるし。だから、下手な突っ込みをしないためにいつも以上に口を閉ざして置いた方が良い。
自分の考えに納得し、深々と頷く流川の姿を訝しむような顔で見ていた三井だったが、流川が自分の世界で何かしら考え込むのは良くある事だから気にしない事にしたらしい。気を取り直すように言葉を発してきた。
「そーいや、『666』ってなんか意味があったよな。」
「意味?」
「そう。悪魔の子、だったっけか?」
問われても、流川には良く分らない。参議院と衆議院ではどっちの議席が多いのかも分からないのだから、そんな雑学を知るわけが無い。
「・・・・・・・・・さぁ。知らないッス。」
だから素直に答えたのに、その答えは気に入らなかったらしい。三井がムッと顔を歪めて見せた。
「・・・・・・・使えねー奴だな、お前は。それくらい知っとけよ。」
「センパイだって知らねーくせに。」
「知らねーんじゃなくて記憶があやふやなだけなんだよ!」
それは知らないのと同義語なのでは無いだろうかと思ったが、突っ込むのは止めておく。
正論を吐いても三井には負けるから。だから口を閉ざして言葉の続きを待った。
そんな流川の耳に、何かを考え込むような三井の声が聞えてくる。
「・・・・・・なんか。昔の映画にあったよな。その数字を持った奴が出てくる映画。なんだったかなぁ・・・・・・・・・・・・」
ブツブツと呟き始めた三井は、流川の存在など忘れたように自分の足元を見つめている。
元々流川の存在を無視するようにして自分が喋りたいだけ喋り倒す彼ではあるが、今は本気で忘れられている気がしてならない。
早々に自分の存在をアピールしておかないと、このまま置き捨てられるのでは無いだろうか。
そんな懸念を胸に抱いた流川が自分の存在をアピールするために口を開いたが、その口から言葉が飛び出す前に三井が大きな声を上げてきた。
「そうそう、オーメンだよっ!」
「・・・・・・・・・・は?」
「だから、オーメン。映画のタイトル。3まであったっけ?」
「・・・・・・・・・さぁ。」
そんなものは見た事が無いので知りもしない。問われても困る。
適当に首を傾げた流川には最初から答えを期待していなかったのだろう。三井はスッキリした顔で頷きを繰り返していた。
「そうだそうだ。確かそうだ。どんなんだったか忘れたけど・・・・・・・・・・確か、ホラーぽかった気がすんだよなぁ・・・・・・・・・・」
またもや一人の世界に入った三井だったが、今度はすぐに流川の元に戻ってきてくれた。
傍らで事の成り行きを見守っていた流川の顔を覗き込むように視線を向け、ニコリと微笑みかけてくる。
「よし、今日は予定を変更して、家でビデオを見ようぜ。」
「・・・・・・・・・・・え?」
「別に滅茶苦茶みたい映画でもないしよ。だったら、レンタルで三本借りた方が安上がりだろ?」
「・・・・・・・・・・まぁ、それは。」
「よし。そうと決まれば早速レンタル屋に行って俺んちに行くぞ。今日は親がいねーから、昼と夜の分の飯を調達してかねーとな。」
嬉々としながらそう告げた三井は、流川の意見も聞かずにさっさと進路変更をした。
そんな彼の姿を、呆気に取られながら見つめる。いつそう決まったのだと言う突っ込みは、たぶん許されない事なのだろう。突っ込んだところで状況が変わるとは思えないし。
「・・・・・・・・まぁ、良いか。」
三井が言うようにその映画がメチャメチャ見たくて出てきたわけではない。ただ単に、三井と一緒にいたかっただけなのだ。
だから、一緒にいられるならどこでも良い。むしろ、人目のない三井の家だと自分にとってものすごく都合が良い。三井の機嫌さえ良ければ、ベタベタしても怒られないから。
流川の足取りが軽くなった。夜まで時間がたっぷりある。どうにかして甘い雰囲気に持っていって、久し振りにお泊り出来るようにしようと、硬く決意しながら。
本当は6日にアップしたかった話・・・・玉砕。
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六並び