昼休みに入ってすぐ。終了の挨拶もそこそこに教室をフラリと後にした流川は、なんの迷いもない足取りで屋上を目指した。
 秋の気配が近いからか風が少し冷たくなっていたが、気にするほどのものでもない。とは言え、少しでも温かい場所に行きたいと思うのが普通の人間の感覚と言うもので。屋上に出た流川は、風が少なく、日当たりが良いポイントに腰を下ろした。そして、ゴロリと横になる。
 待ち人はすぐに来るだろうから、眠る気はない。無いのだが、横になった途端眠気が襲ってきて、自然と瞼が閉じてしまった。
 眠かった訳ではない。一種の条件反射でだ。
 このままではやって来たあの人に帰られてしまうと気持ちが焦る。だが、閉じた瞼を持ち上げる事は出来なかった。
 そんな自分に苛立ちを感じた時、重い扉が開かれる音が耳に届いた。そして、こちらに人が歩み寄ってくる気配が。
「・・・・・・・・んだよ、もう寝てんのか?はえーよ、馬鹿。」
 呆れたように、ふて腐れたようにそう呟いた男の言葉に、目を閉じたままの流川の心臓がドクリと跳ねた。このままでは彼が立ち去ってしまうと焦って。
 だが、その心配は杞憂に終わった。男が流川の頭の横にしゃがみ込み、ジッと顔を覗き込んできたので。
 そして、誰に聞かせるでも無く、言葉を零す。
「マジに睫長ぇな、こいつ。下手な女よりも長ぇんじゃねーの?それでも女に恨まれねーんだから、顔のいい男は得だよなぁ・・・・・・まぁ、俺もそう悪かねーけどよ。」
 ケケケっと楽しげに笑う男の声は、かなり本気のものだった。コレが他の男が発した言葉だったら馬鹿にしたように鼻で笑ったかも知れないが、彼の言葉は流川もそう思う事柄だったので、内心で深く頷いておく。流川としては、綺麗だ格好いいと騒がれている自分の顔よりも、彼の顔の方が好きなので。
 そんな事を考えていたら、髪の毛をクシャリとかき混ぜられた。
「寝てる時は年相応な面してて可愛いんだけどなぁ・・・・・・・・なんで目を開けるとあんなに不貞不貞しくなるんだ?俺よりもデカイし。可愛くねー後輩だぜ。ったく。」
 ふて腐れたように呟きながらグリグリと頭を撫でまわしていた男は、そこでフッと息を吐いた。
「まぁ、桜木よりも可愛いけどな。アイツよりもちっちゃいし。」
 その言葉にムッとする。あんな奴と比べられたくなくて。それに、小さいと言ってもホンノちょっとだ。小さい呼ばわりされたくない。
 まぁ、横では結構負けているかもしれないが。
 それは密かに自覚しているので、指摘されると気分が悪くなる。コレは文句を言ってやらねばと、閉じていた瞳をこじ開けようと試みた流川の唇に、温かく柔らかな感触が触れてきた。
 その感触に驚き目を見開けば、そこには近すぎてぼやける三井の顔が。
 思わず言葉を発しようと口を開けた流川の口内に、するりと三井の舌先が入り込んでくる。その慣れた感触に、流川も舌を絡めた。
 長い間互いの唇を貪りあった後、三井がゆっくりと身体を起こした。そしてニヤリと、性質の悪い笑みを赤く濡れた唇に刻み込む。
「よう。お目覚めか?」
「な・・・・・・・・・・・」
 からかうような口調になんと言って返せば良いのだろうかと悩み、口ごもる流川に、三井はジンワリと瞳を細めて見せた。そして、普段の彼からは想像出来ないほど甘い声で囁く。
「やっぱ、お姫様が目覚めるのに必要なのは、王子様のキスか?」
「誰が姫だ。」
 ムッと顔を歪めながら上半身を起こすと、三井はウヒャヒャと楽しげに笑い声を上げた。そして、文句を言おうとした流川の言葉を留めるように軽い、触れるだけの口づけを寄越してくる。
 そんな三井の行動に驚き目を瞠る流川に向かって、三井はニッと口角をつり上げた。
「さっさと飯にしようぜ。寝るなら、その後だ。」
 他の人間よりも色素の薄い瞳がキラリと光った。楽しげに、ガキ臭く。
 その光に一瞬見とれた流川は、三井だけにしか分からないくらい小さく、口元に笑みを刻み込む。
「寝たら、また起こしてくれるっすか?」
「お前がお姫様ならな。」
 流川の問いに、三井は楽しげにそう答えた。その言葉にしばし考え込んで、コクリと頷く。三井からの口づけを得られるならば、その時くらい「姫」になっても良いかなと、思って。
 そんな流川の考えを読んだのだろうか。三井がクスクスと軽い笑い声を上げた。そして、流川の首に細く長い腕を回してくる。
「何だ、お前。俺にキスしてもらいてーの?」
「ウス。」
 問いかけに速攻で頷いたら、ニヤリと笑いかけられた。そして、流川の唇に三井のそれが寄せられる。
「・・・・・・・・素直な奴は、嫌いじゃないぜ?」
 囁きと共に触れてくる柔らかな唇を受け止め、己よりも細い。だが、女なんかとは比べモノにならない位力強い肉体を引き寄せる。
 バスケが出来て、強くなれて。
 強いチームメイトと出会って、強い奴等と戦えて。
 そして、この人と出会えて、手に入れられた。
 この学校に来たから。
 さしたる理由もなくこの学校を選んだ自分を、流川は心の内で褒め称えた。





















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目覚めの口づけをキミに