「手って、同じようでみんな違いますよね。」
休憩時間、彩子が差し出すドリンクを受け取った所で突然そんなことを言われ、三井は軽く目を瞠った。
「あ?何だ、突然。」
「いえ、見てて、ちょっと思ったんですよ。指の本数とかはみんな同じなのに、その人によって印象は変わるもんなんだなって。」
「・・・・・・・・・そんなもんかねぇ・・・・・・・・・」
そう言われても、そんなことは気にしたことがないので良く分からない。
思わず自分の手をマジマジと見つめてしまったが、見慣れたモノなので今更何か思う所が出てくるわけでもない。チラリと見た彩子の手は自分の手とは大きく違って見えるが、そもそも性別が違うので比べるだけ無駄だろう。
ヒョイと顔を上げる。
そして、一番近くに居た男に向かって軽く手を振った。
「流川、ちょっとこっち来い。」
突然の指令に、流川は数度瞬いた。ろくに表情を動かしていないが、アレは驚いている顔だ。
なんでたかだか名前を呼ばれたくらいで驚くのだと突っ込みを入れたくなったが、三井が部活の休憩中に流川を個人的に呼ぶことは滅多にないから、彼の反応は当たり前かも知れない。
「・・・・・・・・なんすか?」
驚きながらも素直にこちらにやって来た流川にニヤリと口角を引き上げて笑った三井は、指先で彼の手を指し示した。そして、短く告げる。
「ちょっと手ぇ貸せよ。」
「手?」
「おう。」
コクリと頷くと、流川はホンノちょっとだけ眉間に皺を寄せた。なんでそんな要求をされたのか、理由を考えているのだろう。
だが、すぐに考えるのを止めたらしい。ズイッと三井の目の前に己の右手を突き出してきた。
その手を右手で掴み取り、ジッと視線を落とす。
確かに、自分の手とは違う。掌の肉の厚さも、骨格も、関節の感じも。指の長さも違うだろう。それ程大幅な違いは無いかも知れないが。
三井は、流川の掌を乗せていた己の右手をクルリと回した。そして、流川の右手の掌と合わせてみる。
そうたいして違わないが、少しだけ流川の手の方が大きいだろうか。自分の手も決して小さく無いのだが。
二つも年下の男の手よりも小さいと言う事実に、少々機嫌が悪くなる。
「あっ、流川の方が、ちょっと大きいわね。」
彩子が二人の合わさった手を見てそう呟きを漏らした。人に言われると余計に腹が立ち、これ以上手を合わせていたくなくなった三井は、流川の手を振り払うようにして彼との距離を取ろうとした。
だが、その行動は素早く絡まってきた流川の指によって留められる。
絡まった指から、良く知った体温が流れ込んできた。
「・・・・・・・・・・・・おい。」
何のつもりだと睨み付ける瞳で問いかければ、流川は目元をホンノ少しだけ綻ばせた。
三井は小さく舌を打つ。
どうやら人選を間違えたらしい。他人に興味は無いと言う顔をしながら、妙にスキンシップ好きなのだ、この男は。隙を見せたら鬱陶しいほどに絡みついてくる。
分かっていたのに、作ってはいけない隙を人前で作ってしまった。
「・・・・・・・・・・・流川。」
「うす。」
「放せ。」
睨み付けながらそう命令したが、口端を引き上げて笑うだけで放そうとしない。逆に、より一層力が込められた。
そんな流川の行動に、三井は内心で唸り声をあげた。
ここぞとばかりに人前でベタベタする気だ。この男は。三井がそう言うことが嫌いなのを知っていて。いつもすげなくしている三井に対する嫌がらせだろうか。これは。
そう考えながらギリリと流川の端整な顔を睨み付けていたら、彩子が楽しげに声をかけてきた。
「あらら。仲良しでしねぇ。」
「どこがだっ!」
彩子の笑み混じりの言葉に歯を向いて突っ込んだ。だが彩子はその突っ込みを聞き入れようとはせず、ニコニコと楽しげに微笑んでいて、取り合ってくれそうもない。
流川は流川でしつこく指を絡め取ってくる。
「・・・・・・・・・・・なんてヤナ後輩達だ・・・・・・・・・・・・」
センパイの言うことを聞かないなんて。そう胸の内で呟きながら、三井は流川を睨み付けた。
早く休憩の終りと告げる笛が鳴らないモノかと、祈りながら。
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《20041114UP》
指を絡ませる