「流川がまた別れたみたいっすよ」
練習の後、近づいてきた宮城が唐突にそんな言葉をかけてきた。
高校のバスケ部で後輩だった宮城は、三井が回りに奇跡だと言われながらも大学に入った翌年に、同じ大学に進学してきた。
二度もチームメイトになったため、高校時代よりも親密な関係を築くことが出来たのだが、二人とも実業団入りは出来たモノの、違うチームに入団したため、大学を出た後は試合の後に軽く飲みに行く程度の付き合いしか出来なくなっていた。
しかし、一年程前に宮城が在籍しているチームに三井が移籍したため、また同じチームでバスケをするようになり、何かというと二人肩を並べて飲み歩くようになった。
喧嘩もしょっちゅうするが、それでも回りからはコンビのように思われている。それは少々、気にくわない事でもあるが。
とは言え、いくら親しい間柄だとは言え、突然のその問いの意味はさっぱりわからず、眉間に皺を寄せる。だがすぐに彼が言っていることがなんなのか分かり、ポンと軽く手を打った。
「あぁ、あの地下鉄の吊り広告に出てた彼女か?」
「どの広告を見たのかは知らないッすけど、多分そうっすね」
「へぇ……まだ三ヶ月経ってねぇのにな」
「相変わらずローテーション早くて、羨ましい限りっすよ。そんな男だって分かってるのに、なんで彼女が次から次へと出来るんすかねぇ〜〜」
「男は顔と身体と金があれば良いって事なんじゃねぇの?」
腕を組み、心底不思議そうに首を傾げる宮城にどうでも良さそうに返した三井だったが、すぐにその態度をガラリと変え、ニヤリと、意地の悪い笑みをその面に浮かべた。
そして、宮城の顔を覗き込むようにしながら言葉を続ける。
「だとしたら、お前は一生もてないだろうけどなぁ?」
「失礼な事言わないで下さいよ! 金はともかく、他のことは言われる程悪くないっすよ!」
からかい口調で告げた途端、宮城は噛みつくように言い返してきた。そんな宮城に、浮かべていた笑みを更に深くする。
そして、低い位置にある宮城の頭に手のひらをのせ、グリグリと、力任せに撫で回しながら嫌みったらしく言葉を発する。
「ほ〜〜。それはそれは。その顔と身体の何処にそんな自信があるんだかねぇ? 教えて貰いたいもんだ」
「このっ……!」
今更伸びる物ではないからと諦め、身長が低くても。むしろ低いからこそ出来るプレイがあるのだと豪語している宮城ではあるが、結構身長の低さを気にしているのだ。酒を飲み過ぎ、酔いに酔っているときには毎回、出来ることならばもっと身長が欲しいと訴える程に。
そんな後輩の心情を分かっていて問いかけた三井に、宮城はギリギリと奥歯を噛みしめた。
そして、頭にのせられている三井の手を、力任せに振り払う。
「だったら、三井サンはさぞおモテになるんでしょうねぇ! 俺より身長高いし、顔もそんなに悪くないし、三井サンの給料自体はそんなに高く無くても実家はお金持ちだし?」
「いや、実家だってそんなに金ねぇけど?」
「あんたレベルの話はしないでください。俺から見たら充分金持ちなんすよっ! とにかく、そんなもてる要素たっぷりの三井サンが、なんで彼女の一人もいないんすか? そこら辺、お聞きしたいもんなんですけどねぇ?」
最初は腹立ち紛れに。だがだんだん意地悪く。意地悪くと言うよりも、勝ち誇ったように告げてきた宮城の言葉に軽く首を傾げる。何をそんなにムキになっているのかと、軽く呆れながら。
なので、素っ気ない口調で返した。
「彼女なんて邪魔なだけだろ。時間も取られるし金もかかるし。今は腰据えてバスケがしてぇんだよ、俺は」
「またまた。強がり言って。ホントはもてねぇんでしょ?」
「お前が何を基準にしてもてるもてないって判断してんのかはしらねぇけど。結構頻繁に誘われてるぜ? 身体だけの付き合いでも良いからって奴とかも居るけどな」
「えっ!!」
告げた言葉に、宮城は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
そして暫し呆然と、三井の顔を見上げてくる。
「マジ……で?」
「ンな嘘ついても仕方ねぇだろ」
否定してくれと言わんばかりの眼差しで恐る恐る問いかけてくる宮城にあっさりと言い返せば、彼はさらに衝撃を受けた顔をした。
しばしその状態で動きを止めていた宮城だったが、三井の話に興味を覚えたのだろう。瞳に真剣な光を宿りながら問いかけてきた。
「――――で、誘いに乗ってるんすか」
「いや。簡単に身体の関係に持ち込もうとする奴は変な病気持ってる可能性も高いからな。乗ったことはねぇよ。つーか、そう言う付き合い方はガキ頃に散々してきたから。今更な」
「――――そうっすね。あんた、不良だったんすよね」
今まで忘れていたと言わんばかりの顔でそんな言葉を呟き、力無く項垂れた宮城だったが、すぐに気を取り直したらしい。ポンポンと、肩を叩いてくる。
「――――セフレはともかくとして、やっぱ彼女の一人くらい作っておいた方が良いッすよ。彼女も居ない男が一人でずっとバスケだけやってるなんて、寂しい人生っすよ?」
「そっくりそのまま返してやるよ」
「余計なお世話ッすよ!」
慰めるような、諭すような口調で告げてくる宮城に意地悪く笑いながら言葉を返せば、速攻で食いついてきた。そんな宮城に笑い返しながら、二人揃ってロッカールームへと歩を進める。
途中で止まってしまった流川の話を、再開させながら。
今日は懐かしい後輩の話を肴に酒を飲もうと、相談しながら。






それから数日後。
練習に来た三井は、着替えをしようとロッカールームへと向かった。そして、その扉を開け放ったところでビクリと、身体を震わせる。
「ちょっと三井サン!」
三井が来るのを待ちかまえていたのか。ドアを開けた途端、挨拶もなしに飛びかからん勢いで宮城にそう声をかけられ、驚きに目を見張った。
怒鳴るように声をかけてきた宮城の顔を見れば、彼はかなり怖い顔をしている。彼のそんな顔は、久しく見ていない。大学時代に超有名お嬢様学校との合コンだと連れだし、女装した筋肉隆々な男の群れに叩き込んだ時以来かも知れない。
いったい自分は何をやっただろうか。
記憶を探ってみたが、こんな顔をさせる程の怒りを買うような事をした記憶は無い。
ならばなんだろうかと宮城の顔を見つめていたら、彼は手にしていた週刊誌をがばっと開き、三井の眼前に突きつけてきた。
「流川が失踪したんすよ! 突然練習にも来なくなったって! 電話もなんも通じないし、家ももぬけの殻で、でも旅行とかに出かけた形跡もないとかで、もしかしたら誘拐かもって話になってるんすよ!」
「――――はぁ?」
なんだそれはと、突きつけられた週刊誌に目を向け字面を追って見れば、そこには確かにそんな事が書かれていた。
「――――あんなでかい男を誘拐する強者はいねぇだろ。目立ちすぎるし」
「ソレは確かにそうなんすけど。でも、だったらなんで居なくなったんすかね? 調子が悪いのが続いて試合に出られない日々が続いてたっつーなら、そんな状況に精神病んで自殺しに行ったとか言う事も考えられますけど、調子悪いどころか絶好調みたいだったし、そもそも、流川は自殺なんかするたまじゃねぇし……」
「ンな事俺が知るかよ」
三井に話をしている間に気持ちが落ち着き、それと同時に失踪の理由に興味が移ったのか。宮城は必死に考え出した。
だが、いくら考えても分かるわけがないだろう。なにしろ流川は、一般人の常識というモノが通じない男だから。
何を考えているのかも分からない、常識も通用しない男がなにも言わずに行動したら、誰もその後を追うことが出来なくなるのは仕方ない事だろう。
「ま、しばらくしたら帰ってくんじゃねぇの? 死んでなかったらだけどな」
「あんた……」
何か言いたげに顔を歪め言葉を発した宮城だったが、何を言っても無駄だと判断したのか。言葉を絞り出すように軽く息を吐き出した。
そして、さばさばした口調で言葉を発してくる。
「まぁ、確かにそうっすね。流川の事だし、なんか動きがあったらすぐにまたマスコミが騒ぎ出すでしょ」
「そう言うこと。それにアメリカと日本じゃすげー距離があるんだぜ? ここでやきもきしてたってなんの意味もねぇだろ。俺達に出来ることは、なんかの機会に流川が里帰りしたときに、『高校時代の先輩達は後輩だった流川に歯が立たなくなって面目丸つぶれです』なんて報道されないように、腕を磨くことぐらいだ」
「全くその通りですね。んじゃ、俺先に行ってますよ」
「あぁ」
三井の言葉にそれなりに納得出来る物があったのか、宮城は手にしていた週刊誌を適当にベンチの上に放り投げた。そして、練習場に向かって歩を踏み出す。
そんな宮城に軽く手を振って挨拶した三井は、彼が完全にロッカールームから出て行ったところで深々と息を吐き出した。そしてベンチの上で偶然開かれた、流川の失踪を告げるページに大写しされている流川の顔を、ジッと見つめる。
「――――なにやってんだよ、お前は」
いい加減バカなことは止めて、本腰入れてバスケをしろと、胸の内で罵声を飛ばす。
本人に直接伝えなければ意味は無いけれど。
直接伝える機会など無いと、思っているけれども。
それでも、言わずには居られなかった。






その日の夜。練習が終わった後、真っ直ぐに自宅のマンションに足を向けた。
大学に入ったときに親から与えられたそのマンションは、交通の便が良い事もあり、大学に入ったときからずっと住み続けている。
一度引っ越ししようかと思ったことはあった。現在のチームに入ることになったときに、もっと近くのマンションに引っ越そうかと。だが、結局引っ越ししないまま、このマンションに住み続けている。
別に引っ越す金が無かったわけではない。金が無くても、親に頼めば彼等が所有しているマンションの一つを譲って貰えたし、譲って貰わなくても、中古のマンションを買えるだけの蓄えは出来ていたから、引っ越すことは出来た。
なのに、今もまだそのマンションに住み続けている。
何故住み続けているのか。理由は分かっているのに、分かっていない振りをする。
その理由を認めてしまうには、自分のプライドが高すぎるので。
マンションの入口で鍵を取りだし、オートロックの扉を開けて建物内に入り、エレベーターへと乗り込む。
辿り着いた最上階でエレベーターを降り、真っ直ぐに家に向かって歩を進めていた三井は、自分の家のドアが目に入ったところでピタリと、足を止めた。
一番端にある自分の家のドアの前に、なにやら大きな固まりがあることに、気がついて。
どうやらソレは、人間の男らしい。それもかなり、身長の高い。
家の前でしゃがみ込んでいるソレは、長い足を窮屈そうに曲げ、立てた膝に顔を伏せている。その体勢でピクリとも動かないところから、ソレが完全に寝入っている事が知れる。
ゆっくりと、止めていた足を進め始めた。足音をたてないように、注意しながら。
そして、座り込む男の傍らで足を止める。
黒いサラリとした髪の毛に手を伸ばせば、指先にひんやりとした冷たさを感じる。そのまま指を滑らせてうなじの辺りに触れれば、仄かな温もりを感じた。
とは言え、普通の体温よりは低い。どれだけこの場に居たのか分からないが、身体は芯から冷え切っているだろう。
「――――なにやってんだ、バカ」
呟いた言葉が耳に届いたのか。それまでピクリとも動かなかった男の肩が小さく跳ねた。そして、もの凄い勢いでうなじに触れていた手を掴み取られる。
それと同時に、伏せられていた顔がガバリと上がり、切れ長の瞳が鋭い瞳で睨み上げてきた。
寝起きの彼には珍しい、シャンとした表情だ。
動きの速さと寝起きとは思えない表情に驚き目を見開いていたら、なんの前触れも無く突然、捕まれていた腕を強く引っ張られた。
「うわっ!」
予想外にくわえられたその強い力にバランスを失ってよろけた身体は、腕を引いた男がしっかりと受け止め、そのまま長い腕の中に抱き込まれた。
ひやりとした感触が、頬に、全身に触れる。
どれくらいこの場に座り込んでいたのか分からないが、衣服が冷え込む程にこの場に居たのだろう。
プロの運動選手のくせにそんな事をしてと軽く腹が立てていると、抱きしめてくる腕に力がこもった。
その行動で二度と放しはしないと告げられているのではと思う程強く必死な様子に、思わず抱きしめてくる男の背中に腕を回しそうになって、慌てて止める。そんなことをするわけには行かないと、思って。
「――――なにやってんだ。こんなところで」
冷え切っていた男の身体よりも冷えた声で問いかければ、男の身体は小さく揺れた。
だが、答えを返してこようとはしない。
しばらく待ってみたが全然返事を寄越しそうにないので痺れを切らした三井は、苛立って居ることがあからさまにわかる声で男の名を呼んだ。
「流川っ」
「寂しい」
名を呼んだ途端平坦な声で告げられた言葉に、ハッと息を飲む。
感情の色など見えない。だが、胸が痛くなる程寂しげな声だったのだ。
「流川……」
「センパイが居ないと、寂しい。センパイの声を聞けないのも、姿を見られないのも。最初はなんとも無いと思ってたけど、駄目だ。他の誰もセンパイの代わりにならないし、センパイの抜けた穴は何人居ても埋められねぇ」
「るか……」
「すいませんでした。あの時言ったことは、謝ります。もう我が儘いわねぇ。センパイにはセンパイの生活があるのも、分かってる。分かってたのに、甘えてた。ずっと側に居ろとか、俺についてこいとか、もういわねぇ。でも、俺のモノで居てくれ」
それだけで、良いからと呟く流川には、普段の尊大さが無い。
自分の身体を抱きしめていなかったら土下座せんばかりの勢いだ。
聞く人が聞いたら普段と全く声の調子は変わってないと思うだろう。そんな言い方で絆されるかと、逆に罵倒してくる者も居るかも知れない。
だけど、三井には分かった。
高校三年の夏から、二年くらい前まで付き合っていた男の事なのだ。分からないわけがない。
普段全く同じ調子で喋る彼が、深い悲しみに暮れている事が、分からないわけがない。
そんなに自分と別れたことが堪えたというのだろうか。あれだけ派手に浮き名を流していたというのに。
アレがやけくその行動だったことは、なんとなく分かっていた。本来人と関わるのが嫌いな彼だ。身体の欲を張らす為だけにコロコロと付き合う人間を変える訳がない。というか、欲を晴らすためだけに人と付き合うわけもない。
その彼があれだけ派手に女と付き合っていたのは、その姿を自分に見せつけるためだろうか。
いや、さっき彼が言っていたように、ただ単に空いた穴を埋めたいが為の行動だったのかも知れない。一人で平気だとうそぶいていた彼も、一度知ってしまった人の温もりは、忘れられなかったのだろう。

長い年月、知り合いにも覚られずに付き合っていた自分達が別れたのは、流川の言葉が原因だった。
日本とアメリカという長距離恋愛にいい加減面倒くささを感じたらしい彼が放った、言葉が。


「一々時間あわせて電話するのも面倒くさいし、こっち来て俺と暮らせ。日本の実業団に居たって将来があるわけでもないし、金にもならないんだ。バスケならこっちでも出来るだろ」


そんな言われ方をして、三井が頷けるわけがない。
巫山戯るな。そんなに面倒ならもう付き合わなければいいだろう。そっちにいる、いつでも好きなときに呼び出せる金髪美人とヨロシクやれ。例え金にならなくても、将来なんの保障がない職業でも、自分は今の仕事を辞める気はない。
そう言い返した三井に、流川も怒鳴り気味に言い返し、30分程怒鳴り合いをしたあげく、電話を叩ききった。
それ以来、一切コンタクトを取っていない。
こちらから電話をする気もメールをする気もなかった。流川が謝ってきたら、その謝り方によっては許してやらないでもないと思っていたが、謝罪の言葉はいつまで経ってもやってこなかった。
代わりに三井が目にしたのは、日本でも人気のアメリカ人歌手と流川が恋仲になったと言う、報道だった。
ソレを見た瞬間から流川の事は過去のモノとして認識し、より一層バスケに打ち込んだ。流川のように新しい恋人を作ろうかとも思ったが、面倒くさくて止めた。
元々、そう言う付き合いをするのは苦手なのだ。ベッタリと、一人の人間と深く付き合うような付き合い方をするのは。
ソレを押して、しち面倒くさい長距離恋愛などしていたのに。

別れてからしばらくの間はちょっと時間があればすぐに暗く沈み込んでいたのだが、移籍し、宮城と親しく付き合うようになって気持ちが大分上向いてきた。流川の報道を見るたびに感じていた胸の痛みと憎しみも、大分薄らいできた。
そこに、とうの流川がやってきた。
二年も経ってようやく、謝罪の言葉を告げるために。
シーズンオフでもない、こんな時期に。

「――――バカだろ、お前」

ボソリと呟きを落とせば、ピクリと肩が震えた。そして、僅かな緊張感が漂う。三井の言葉が自分にとって良いものなのか、悪いモノなのか。全く予想がつかなくて怯えているのだろう。
いつでも、どんなときでも尊大だった彼が。
自分の言葉に怯えている。
くっと、喉の奥で笑う。そしてゆっくりと、手触りの良い黒髪に指を梳き入れた。
「俺も、相当バカだけどな」
なにがと、問いたげな真っ黒い切れ長の瞳にニヤリと笑いかけた三井は、素早く顔を近づけ、二年ぶりに流川の唇に触れるだけのキスを落とした。
呆然と、流川の瞳が見開かれる。
今まで何度も、数え切れない程キスしてきたのに。出会ったときよりも大分年を取っているはずなのに、その表情は初めてキスしたときと同じくらいあどけないモノがあった。
そんな流川にニコリと笑いかけ、二年ぶりに自分よりも広く大きな背中に腕を回す。
そしてその身体を強く抱きしめながら、告げる。
「二年も経ってるし、お前の派手なお付き合いも知ってるのに、それでもまだ、お前の事が好きなんだから、相当バカだ」
「センパ…………」
「浮気は二度とさせねぇからな。身体だけの関係も許さねぇ。俺は案外、嫉妬深いんだぜ?」
笑み混じりに冗談っぽく告げた言葉は、本気のモノだ。
もっと人間関係には淡泊な性質だと思っていたのに、流川の報道を耳にする度に、胸の内で暗い炎が燃えさかってしまっていたのだ。嫌でも、自分の嫉妬深さを痛感した。それを隠す気は、もう無い。
その本気はちゃんと通じたのだろうか。三井の身体を抱きしめる流川の腕に、力がこもる。
「――――二度としねぇ。どれだけ離れてても。俺には、センパイだけ居ればいい」
「信じてやるよ。でも、二度目はねぇからな?」
「うす」
迷い無く頷かれた事に満足し、笑みを描く。
こんなに幸せな気分になったのは、久しぶりだ。
チームが優勝した時も、こんなに幸せだとは思わなかった。
それほど、自分は流川の事が好きだったのだ。
「離れて分かる事もある、ってな」
内心でそう呟いてから顔を上げ、流川の頬に両手を添えた。
そして流川の唇に、深い深い、口づけを落とす。
離れたいと言っても放してやるものかと、固く決意しながら。















*「100題・地下鉄」のその後








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はなれて分かることもある