城の見回りも兼ねて散歩をしていたボルスの目の前に、見知った男が現れた。彼の居住空間である医務室から彼が出歩いている事は珍しい。驚きに目を見張りながらも、ボルスは軽く頭を下げて挨拶をした。
「トウタ先生。こんにちわ。」
「こんにちわ。ボルスさん。身体の調子はどうですか?」
「はい。健康そのものです。」
 偽りの無い言葉を、ボルスは自信を持って返した。戦場では、先頭をきって馬を走らせているせいか怪我の絶えないボルスであったが、病気の類にはあまり縁がない。時々強力な風邪を引いて一日ダウンしたりもするが、基本的に健康なので一日大人しくしていたら翌日には治っている事が多い。身体の頑丈さは、ボルスが皆に自慢したいところの一つなのだ。
 とは言え、ボルスよりもパーシヴァルの方が風邪を引く割合が低い気がする。その上彼は、基本的に真っ向勝負を仕掛けないせいで怪我も少ない。そう考えると、パーシヴァルの方が自分よりも身体も丈夫で腕も立つ人物のように思えてくる。その事が、ホンノ少し面白く無いボルスだった。
 そんなボルスの胸の内を悟っているのか居ないのか分からないが、トウタはニコニコと、人の良さそうな笑みを浮かべながらボルスの顔を見つめていた。
「そうですか。それは良かったです。しかし・・・・・・・・・・。」
 そこで一端言葉を切ったトウタは、真剣な面持ちでボルスの顔を覗き込んでくる。突然のトウタの行動に驚き、目を瞬かせてトウタの顔を見つめていたボルスに、トウタは何か考え込むように低くうなると、短く告げてきた。
「ちょっと、ビタミンが不足してますね。」
「ビタミン・・・・・ですか?」
「ええ。疲れの色が見えていますよ。・・・・・ああ、そうだ。良いモノがあった。」
 大きく頷きを返してきたトウタは、何かを思い出したように両手を軽く打ち鳴らすと、ゴソゴソと懐を探って見せた。そして、包装紙にくるまった小さな錠剤を取り出してみせる。
「丁度今ビタミン剤を持っているので、差し上げましょう。さあ、どうぞ。」
「あ、はい。・・・・・・ありがとうございます。」
 ニコリと笑む顔に強烈な強制力を感じたボルスは、断る事も出来ずに差し出されたモノを受け取ってしまった。とはいえ、あまり薬に頼るのは趣味じゃ無い。懐にしまってこの場をやり過ごそうと思ったのだが、今この場で飲めと言わんばかりの態度に背中を押され、仕方なく直ぐさまソレを口にした。
 それを確認したトウタは満足そうに大きく頷くと、ジッとボルスの顔を覗き込んできた。
「どうですか?」
 いきなりそう言われ、困惑した。パーシヴァルと違って聡くない自分は、はっきりいって貰えないと相手の言いたい事が分からないのだ。
「どう・・・・・・、と、言われましても・・・・・・。」
「どこか、いつもと違う感じがしませんか??」
 問われたので、しばし考え込む。いつもと違うと言われても、何か変わった事はない。いきなり身体が軽くなったわけでもないし、力が漲ってきた分けでもない。
 そもそも、ビタミン剤にそんな力があるわけはないのだが。 
「・・・・いえ。全然。いつもと何も変わりありませんが?」
「・・・・・・・・・・・・そうですか・・・・・・・・・・。」
 ボルスの返答を聞いた途端、トウタは目に見えて落ち込んでしまった。
 なんだか悪い事をしてしまった気分になったボルスは、なんとかトウタを元気付かせようと言葉を探したのだが、良い言葉が浮かんでこず、結局口を開く事が出来ないで居た。
 そんなボルスが見守る中、大きな溜息をついたトウタは、気を取り直す様にニコリと笑みを浮かべると、ボルスに向かって話しかけてきた。
「では、次の機会には別の薬を持ってきましょう。その時もまた、飲んで下さいね。」
「え・・・?あ、はい・・・・・・。」
「じゃあ、僕はまだ仕事が残っているんで。」
 それだけ言うと、トウタはさっさと城の中へと歩き去ってしまった。
「・・・・・・・・なんだったんだ?」
 トウタの態度を不思議に思って首を傾げたが、そう気にする事もないだろうと判断し、今の出来事をさっさと脳から排除する。そして、中断していた散歩を再開させる為に足を動かし始めた。
 程なくして、ボルスはクリスとサロメ。そしてルイスの3人と鉢合わせた。
「クリス様!お仕事は、一段落付かれたのですか?」
 嬉々として話しかけてくるボルスに、クリスは小さく笑みを返してくれた。
「ああ。ようやくな。そういうボルスは休みだったのか?」
「ええ。しかしやる事もなかったので、見回りを兼ねて散歩をしていた所です。」
「そうか。熱心だな。とは言え、休めるときにはしっかり休んで置けよ。それも我々の仕事だからな。」
 そう言いながら、クリスがボルスの肩を軽く叩いて来た。
 その瞬間、耳にではなく、頭の中に直接クリスの声が響き渡った。
『その休めるときが、私には無いのよね・・・・・。』
「え?」
 クリスの、いつもと違う口調に、思わず問い返してしまった。しかし逆に、クリスに驚いた顔をされてしまった。
「な・・・なんだ?何か変な事を言ったか?」
「いえ、おかしな事は言っていないのですが・・・・・・。」
「だったら、なんだ?」
「・・・・・・いつもと、口調が違っていたので。聞き間違いかと。」
 その言葉に、クリスは小さく首を傾げた。
「・・・・そうか?いつもと変わらないと思うんだが・・・・・・。」
 問いかけるような視線は、サロメとルイスに向けられる。その視線に、二人とも力強く頷き返しているから、先ほど聞いた声は自分の幻聴だったのだろう。そう、思う事にした。
「それなら、良いんです。きっと気のせいでしょうから。」
「そうか?・・・・・・・なんか、様子がおかしいが・・・・。風邪でも引いたのか?」
 そう言いながら、クリスがボルスの額に触れてくる。
「熱は無いようだが・・・・・・・・。」
 不意に起こったクリスとの接触に、ボルスの心臓は早鐘のを打ち始めた。徐々に顔面に熱が登ってくる。その熱がクリスの手の平にも伝わったのだろう。クリスの眉間に、皺が徐々に刻まれていった。
「・・・・・・なんか、どんどん熱くなっていく気がするのだが・・・・・・」
『何か、悪い病気にでもかかったのかしら?』
 再び脳内で響き渡ったクリスの声に反論しようとしたボルスだったが、ボルスが口を開くよりも早くその手が額から退けられた。
「どうした?サロメ。」
 どうやらサロメがクリスの身体をボルスからやんわりと引き離したらしい。
 離れていったクリスの手の平にホッと溜息をつきながらも、どこか勿体なく感じていると、サロメがいつも変わらぬ冷静な口調でクリスに言葉をかけていた。
「体調が悪いようでしたら、早めに部屋に帰した方が良いでしょう。」
 その言葉に納得したように大きく頷いたクリスは、再びボルスへと向き直る。
「サロメの言うとおりだな。休みなのは丁度良いし。今日は部屋に戻ってゆっくり休んでおけ。自主トレは、控えるんだぞ。」
「・・・・・・クリス様が、そう仰るのでしたら。」
「クリス様。そろそろお戻りにならないと、また仕事が溜まりますよ。」
 クリスとボルスの会話を遮るように、サロメが言葉をかけてきた。その言葉に深い溜息を吐き出しながらも、クリスは小さく頷きを返した。
「分かった。もう戻る。・・・・ではボルス。ゆっくり休んでくれよ。」
「はい。クリス様も、ご無理をなさらないで下さい。」
「ああ。ありがとう。」
 ボルスの言葉にニコリと笑い返しながら、クリスが城内へと足を向けた。その後を、ルイスとサロメが付いていく。そのすれ違いざまに、サロメがボルスの肩を軽く叩いてきた。
「体調が悪いと思ったら、早めにトウタ先生に見て頂きなさい。」
「分かり・・・・・・・・・」
 サロメの言葉に頷きかけたボルスの行動は、途中で中断された。なぜなら、今度はサロメの声が、脳内で響き渡ったのだ。
『まったく。油断も隙もない。』
 と。忌々しげな口調で、そう言われたのだ。
 そんな事を言われるような事をした覚えのないボルスは、言葉をかける事も忘れて、ただただ立ち去る3人の背中を見つめ続けていた。
「・・・・・・なんだったんだ?今のは・・・・・?」
 ボルスに答えてくれる者は、その場にはいなかった。





















 部屋に帰り付いてもボルスは考え込んでいた。アレは一体なんだったのだろうかと。
 脳内に響き渡った、クリスとサロメの言葉。そのどれもが普段の彼等からは想像出来ない言葉だった。
 幻聴だったのだろうかと首を傾げる。そんなモノが聞えるようになるほど、自分は疲れていたのだろうか。
「・・・・ちょっと、トウタ先生に見て貰うべきかな・・・・・。」
 しかし、先ほど健康だと言い切っただけに、行き辛い。
「とはいえ、見て貰うなら早めに見て貰った方が良いだろうし・・・・・」
「なんだ、具合でも悪いのか?」
「うわっっ!!!!」
 突然頭上から聞えてきた声に、ボルスは思わず叫び声を上げてしまった。その声に五月蠅そうに顔を顰めたパーシヴァルは、それでもボルスの額にその手の平を伸ばしてきた。
「・・・・・・・・・熱は無いようだが・・・・・。食い過ぎか?」
 何故あえて食い過ぎを不調の理由だと考えるのだろうかと内心でムッとしながらも、ボルスは素直に言葉を返した。
「そうじゃない。そうじゃないんだが、でも変なんだ。」
 眉間に皺を寄せてそう呟けば、ボルスの額から己の手を退けたパーシヴァルが、軽く腕を組みながら小首を傾げて見せた。
「変とは?」
「・・・・・何がどうって言うのは分からないが、とにかくなんとかこう、いつもと違う。」 その返答に呆れた顔をしながらも、パーシヴァルはきちんと言葉を返してくれた。
「ソレじゃあ何がなんだか分からないだろう。そもそも、お前が他と比べておかしく無い時など、そうそう無いぞ?」
「なんだとっ!」
 思わずカッとなったボルスは、勢いよくその場に立ち上がり、目の前に立っているパーシヴァルの腕を引き、今まで自分が腰掛けていたベットの上にその、騎士にしては細身の身体をベットの上へと引き倒す。
 そんなボルスの早業に驚いた様に瞳を瞬いていたパーシヴァルだったが、すぐにその表情は苦笑へと作り替えられた。
「お前、そのすぐに熱くなるところをなんとかしろよ。」
「俺を怒らせるような事を言っているのは、お前だろうがっ!」
「まぁ、それはそうだが・・・・・・・」
 パーシヴァルが言いかけた言葉を、ボルスは唇を塞ぐ事で遮った。
『まったく・・・・・。困ったヤツだ・・・・・・。』
 脳内に、苦笑を含んだパーシヴァルの声が響く。なんだかいつもと違って優しい口調のその声に、ボルスは思わず顔を上げ、パーシヴァルの顔を覗き込んでしまった。
「なんだ?珍しく途中で止めるのか?」
 その視線に僅かに首を傾げながら問い返えされ、ボルスは慌てて首を横に振ってみせる。
「いや!止めたくは無い!止めたくは無いが・・・・・。良いのか?」
「昼間っからっていうのは趣味じゃ無いが。まぁ、たまには良いさ。」
 どういう風の吹き回しか、あっさりと承諾してくるパーシヴァルの言葉を嬉しいと思いながらも、不安を誘われた。何かウラが有るのでは無いのかと。
 とは言え、理由を尋ねて機嫌を損ねる事もしたくなかったので、素直に頷いておく。そして、中断していた口づけを再開させ、口内に進入させた舌を絡ませあった。
『あー・・・・・。まずい。鍵を閉めていなかった・・・・・・・』
「そうか。じゃあ、締めてくる。」
 パーシヴァルの言葉に、名残惜しみながらも唇を放したボルスは、少々慌て気味にドアへと向かい、ドアをしっかりと施錠した。これで誰かが部屋に入ってくる事は出来ない。変にオープンなこの城は、鍵を閉めていないと勝手に誰かに進入されてしまうのだ。部屋の主が居ようが居まいが、構わずに。犬までもがドアを開けて入ってくるから、驚きだ。
 施錠を完了してベットの方へと向き直ったボルスは、ベットの上に上半身起こしたパーシヴァルが、変なモノでも見るような目で自分を見つめている事に気が付いた。
「何だ?」
「お前、今・・・・・・・・」
「鍵は締めた方が良いだろう?」
 彼の言葉に従っただけなのだが。何か悪い事をしただろうか。
 訝しげに見つめてくるパーシヴァルの瞳の意味が分からず、首を傾げてそう尋ねる。すると、僅かな考え込むような間の後、パーシヴァルは自分の考えを振り払うように首を横に振って見せた。
「・・・・・・・・そんな事、あるわけ無いな。」
「パーシヴァル?」
「いや、こっちの話だ。」
 苦笑を浮かべて話を打ち切ってくるパーシヴァルの態度を訝しみながらも、ボルスはそれ以上尋ねる事をしなかった。藪は下手に突かない方が良いのだ。とくに、パーシヴァルという藪は。何が出てくるのか、さっぱり予測が付かないから。
 ベットに戻ったボルスは、再びパーシヴァルの身体をベットの上に押し倒した。
 慣れた手つきで彼が纏う衣服を脱がしていけば、文句を返された。
『・・・・・・こんな事ばかり上手くなりやがって・・・・・・』
「いつまでもまごついているよりは良いだろうが。」
 思わず言い返せば、パーシヴァルの身体がピクリと震えた。
「お前、さっきから・・・・・・・」
 パーシヴァルが何か言いかけたが、ボルスはあえてソレを無視して胸の飾りを口に含んだ。
 最初は良い感じに流れていっても、途中で言いくるめられて行為を中断させられた事が何度かあるから。だから、パーシヴァルには事の最中には喋らせない事が一番なのだ。
 そう学習していたボルスは、胸の飾りに軽く歯を立てて囓り付きながら、己の右手をそっとパーシヴァルの中心へと伸ばしていく。
「ちょっ・・・・・っ!ボルス!」
 身体をピクリと震わせ、ボルスの身体を引き離そうと抵抗を始めたパーシヴァルの動きを取り押さえながら、ボルスはパーシヴァルの顔をジロリと睨み付けた。
「ここまで来て、止めろと言うのか?」
「そうは言わないが、少しは人の話を・・・・・・・」
 その話がくせ者なのだと、ボルスは何かを言いかけた口を己の唇で塞いでやった。
 最初はその口づけを嫌がるように首を振って逃れようとしていたパーシヴァルだったが、ボルスのしつこい口づけに根負けしたのか、いつしか抵抗をしなくなった。
『・・・・・あー・・・・もう。ムカツクヤツだなぁ・・・・・・』
 その彼らしくない乱暴な口調に驚き、口づけを中断してパーシヴァルの顔を覗き込むと、彼は盛大な溜息をついてきた。
「・・・・・・・・・好きにしろよ。」
『こいつ相手に真剣になるのも馬鹿らしい・・・・・・』
「・・・・・おい・・・・・」
 その言い草はなんなんだと突っ込みを入れたかったボルスだったが、そこはグッと堪えた。この場でこれ以上機嫌を損ねると、本気で彼は逃げ出してしまうかも知れない。心も体もその気になっている今、放り出されるのはかなり辛い。
 そう思って、ボルスは再びパーシヴァルの薄い唇へと口付けた。
「・・・・・・・ッ・・・・・」
 執拗に口内を貪ると、パーシヴァルが抵抗するように僅かに身じろいだ。それでも唇を拘束し続けると、さすがに文句を言われてしまった。
『・・・・・しつこい・・・・っ!』
 それでもボルスは、その言葉を無視してパーシヴァルの唇を味わいながら、撫でるように彼の身体に己の手の平を滑らせた。
 ゆっくりと、焦らすように、パーシヴァルの反応をし始めたモノへとその指先を伸ばし、それと同時に口づけをパーシヴァルの薄い唇から、その首もとへと移していく。
 白い肌に、これでもかと言うくらい口づけを繰り返した。
『・・・・・・痕は付けるなよな・・・・・。』
 パーシヴァルの呟くような声に、ボルスはちょっとムッとした。
 そんな事、言われなくても分かっている。紅い痕は付けない。付けると、パーシヴァルが怒るのだ。
 一度これでもかと言う位に痕をつけた事があったのだが、情事の後にしこたま怒られ、その後一ヶ月間指一本触れさせてくれなくなったので、それ以来どんなに興奮しても痕を付けないように気を付けているのだ。それなのに念を押されると、なんだか腹が立ってくる。
 とはいえ、こんな状況で食ってかかる程自分もバカでは無い。食ってかかって怒らせるよりも、彼をギャフンと言わせる良い方法があるのだ。何しろ、今は自分が主導権を握っているのだから。
 勝ち誇ったような笑みを浮かべたボルスは、常よりも早いパーシヴァルの鼓動を彼の首筋から己の唇で感じながら、ゆっくりと舌先で撫でるように胸元へと、己の顔を運んでいく。
 既に立ち上がった胸の飾りは紅く色づき、ボルスにつみ取られるのを待っているように見えた。
 ソレを、望み通りに、口に含む。そして、立てた歯で噛みつき、歯の隙間から覗くその実を舌先でソッと舐め上げる。途端に、パーシヴァルの身体がビクリと震えた。
「・・・・・っつ!」
 小さく息を飲むパーシヴァルの様子に、ボルスの悪くなりかけた機嫌も浮上してくる。こんな時だけでも、二人の間で主導権を握れる事が溜まらなく嬉しい。普段彼に握られっぱなしなだけに。
 執拗に紅い実を攻め立て、握り込んでいたパーシヴァルのモノへも、ゆっくりと刺激を与えていく。
「っぁ・・・・・っ!」
『調子に、乗りやがって、この野郎・・・・・!』
 怒気の混じる声でそう言われたが、今のボルスは少しも気にならなかった。
 パーシヴァルは、自分の愛撫に反応を返している。さすがのパーシヴァルも、ここまでモノを立ち上がらせた状態で行為を中断しようとは思わないはずだ。
 とは言え、一回イッテしまったらそのまま逃げられてしまう可能性もある。そうされないように、事前に策を打たなくては。
 そう考えたボルスは、パーシヴァルの中心を握り込んでいた手をそっとずらし、双丘の中に隠されている蕾へと、そっと指先を伸ばした。
 入り口の襞を、掻き分けるようにしながら撫でる。ボルスの手の平を濡らしている、パーシヴァルが流した先走りの液体を擦り込むように。
「・・・・・いい加減、しつこいぞ、お前・・・・・。」
 上気する顔を隠すように右腕でその端正な顔を覆い隠しながら、パーシヴァルがそう呟きを漏らしてきた。
「ちゃんと手順を踏まないと怒るだろうが。」
「それはそうだが・・・・・お前はしつこすぎる。まったく・・・・・・」
『ナッシュでも無いのに・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・ナッシュ?」
 何故その名が今ここで出てくるのだろうかと思わず顔を上げて問い返すと、パーシヴァルはピクリと身体を揺らした。その表情は、右腕で隠されているので分からない。見えていたとしても、ボルスに読み取る事など出来ないだろうが。
「・・・・・いいから、お前はさっさと続きをしろ。」
「しかし・・・・・・」
「俺は、ここで止めても良いんだぞ?」
 ニヤリと、腕の隙間から見える唇が意地の悪い笑みの形に引き上げられた。
 そう言うからには、パーシヴァルは本気でこの行為を中断してくるつもりがあるのだろう。小さな事に拘っている場合ではない。気を引き締め尚したボルスは、中断していた作業へと戻っていく。
『・・・・・・・単純なヤツで良かった・・・・・・・』
 なんだか聞き捨てならない事を言われたが、突っ込むのは止めておく。
 どうせ突っ込むなら、建設的な突っ込みをしようと、少々親父的な事を考えて。男同士のまぐわりを、建設的だと言って良いモノかは悩むところだが。
「・・・・では、お前の言うとおりに、さっさと次の段階に移らせて貰おう。」
 そう呟いたボルスは、パーシヴァルの細く長い足を抱え上げ、先ほど撫で上げていた蕾へと、己の猛ったモノの切っ先を突きつけた。
 その行動に、パーシヴァルが顔を隠していた腕を外し、ギョッとした顔でボルスの事を見つめてきた。
「ちょっ・・・・・、ちょっと待て、ボルス。それはいくら何でも性急過ぎだぞ。」
「さっさとやれと言ったのは、お前だろう?」
「だから、それは言葉の文というもので・・・・・・・・・・・っあぁっ!」
 言葉半ばで、パーシヴァルは小さく悲鳴を上げた。
 それはそうだろう。殆ど慣らしていない、本来男を受け入れる器官では無いソコは、ボルスの進入を激しく拒んでいた。それなのに無理に突き通したのだ。己のモノを。
『バ・・・・・カ、ヤロッ・・・・・・・!』
 眦から透明な液体を零しながらそう呟いたパーシヴァルの唇に、ボルスは宥めるように軽い口づけを落とした。
 身体をずらした事で痛みが増したのだろう。パーシヴァルの身体がビクリと震え、眉間には深い皺が刻まれた。
 その眉間にも優しく口づけを落としたボルスの背中に、パーシヴァルの両腕がゆっくりを絡められた。そして、思い切り爪を立てられる。
「・・・・・っ!」
『・・・・・俺の方が、痛いんだよ・・・・・っ!』
 小さく息を飲めばそう、憎しみの籠もる声音で言われ、睨み付けられた。
「・・・・・悪い。でも、ここで止められない・・・・・・」
 そう言い返し、ボルスはゆっくりと腰を動かし始めた。
「・・・・あっ・・・・・・!」
 快感よりも痛みの方が多いのだろう。パーシヴァルは耐えるように瞳を閉じ、痛みをやり過ごそうとするようにボルスの背中に立てた爪に、より一層力を込めてきた。
 ボルスが激しく腰を突き入れるたびに、その背に紅い線が浮かび上がっていく。そして、パーシヴァルと結合した部分からも、紅い液体が滴り落ちる。
『この野郎・・・・・!てめーの欲求を晴らす事だけじゃなく、俺の身体の事も考えて、行動しろって言うんだ!』
 パーシヴァルが、怒気も露わにそう叫んでいる。
『後で、絶対、仕返しするからなっ!!』
 そう言いながらも、パーシヴァルは段々快感を覚えてきたらしい。強ばっていた身体が、少しずつ弛緩してきた。パーシヴァルの流した血液と、ボルスのモノからあふれ出す液体で動きがスムーズになってきたからからもしれない。
「仕返ししても良いから、今は俺につき合ってくれよ・・・・?」
 そっと、耳元でささやきかけた。
 その感触も性感を煽るのか、ピクリと身体を揺らしたパーシヴァルは、熱に浮かされ始めた瞳をボルスへと向けてくる。そして、ニヤリと笑みを浮かべた。
「・・・・・・・・今は、な・・・・・・。」
 そんな可愛くない事を言う唇を、ボルスは塞いでやった。
 





















「・・・・・・・・・・・なんか、いつもと違わなかったか?パーシヴァル。」
 情事の後にそう尋ねると、怠そうにベットの上に寝転がっていたパーシヴァルがチラリとこちらに視線を向けてきた。
「・・・・・・違うのは、お前だろうが。」
「俺?俺は、いつもと変わらないぞ?」
「それは俺の台詞だ。」
 気のない様子でそう返してきたパーシヴァルは、うつぶせの状態で枕に顔を伏せてしまった。
 その態度に首を傾げながらも、ボルスは言い返す。
「いや、絶対お前の方がいつもと違うぞ。やっている最中にあれだけ色々喋った事なんて、今まで無かったからな。」
「だから、俺はいつもとなんら変わりが無いと言っている。」
 吐き捨てるようにそう呟いたパーシヴァルは、ゆっくりとベットの上に起きあがり、その真ん中に胡座をかいた。そして、窺うような視線でボルスの顔を見つめた後、ゆっくりと、右手を持ち上げてくる。
「ボルス。手。」
「あ、ああ・・・・。」
 その手を差し出されたボルスは、思わず彼の手を取っていた。そうしないといけないと思う強制力がある気がしたのだ。
『バーーーーーーーーーーーカ。』
「なっ!なんだとっ!!!」
 いきなり言われた言葉にカッとなって怒鳴り返せば、パーシヴァルはいつも浮かべている薄い笑みを向けてきた。
「何を怒って居るんだ?俺は何も言っていないぞ?」
「見え透いたウソを付くな!今、人の事をバカとか言っただろうが!」
「言ってないさ。」
『口に出してはな。』
「・・・・・・・・何?」
 続けられた言葉の意味が分からず、ボルスは眉間に皺を寄せながら問い返した。そんなボルスの態度に、パーシヴァルは呆れたような顔を向けてきた。
「・・・・・・お前、本当に自分で分かっていないのか?」
「だから、何がだ?」
 本気でパーシヴァルの言っている事の意味が分からない。首を傾げて問い返せば、パーシヴァルは迷うようにその瞳を俯けた。
「・・・・・・・・いや。分かっていないのなら、それで良い。」
 しばしの間の後、パーシヴァルはそう答えた。そして、ニコリと笑みを浮かべてみせる。
 パーシヴァルがボルスにそんな笑みを見せる時は、大抵何かを企んでいるときだ。そうじゃなければ、何かを誤魔化しているときだろう。そうだと分かっているので、誤魔化されるたびにこの次は絶対に誤魔化されるモノかとおもうのだが、結局毎回誤魔化されてしまうボルスだった。
 パーシヴァルに笑顔を向けられる事など、そうないのだ。ボルスは。
 他の人達には惜しげも無く笑顔を振りまいているのに、自分と相対している時には滅多に笑いかけてくれないのだから。
 そんな滅多に見られないパーシヴァルの微笑みに見惚れ、ドキドキと胸を高鳴らせている内に、パーシヴァルはさっさと身支度を調えていった。
 服を全て纏い、愛剣を腰に下げたパーシヴァルは、乱れた髪を手櫛でざっと直しながら、信じられない事を口にしてきた。
「しばらくこの部屋には戻らないから。」
「・・・・・・・・・えっ!?な、なんでだっ!!??」
 驚きに瞳を見開くボルスに向かって、パーシヴァルは今までボルスが見た中で一番綺麗な笑みを浮かべて見せた。そして、一言だけ、答える。
「お前と一緒にいたくないから。」
「え・・・・?」
「じゃあな。」
 あっさりとした口調で軽く手を振って寄越したパーシヴァルは、動揺のあまりにその場で凍り付いていたボルスの事など気にもかけず、さっさと部屋から出て行ってしまった。
 残されたボルスは、その場で呆然と立ちつくす事しか出来なかった。
「な・・・・・・何かしたのか?俺は・・・・・・?」
 零れた呟きに答えてくれるモノは、この場にはいなかった。



























「トウタ先生。どうでした?お薬の様子は。」
「・・・・いえ、それが。効かなかった様なんですよ。」
「あら。そうなんですか?先生は、どなたに飲ませたんですか?」
「ボルスさんですよ。飲んだ後しばらく観察していたのですが、変化は少しも無かったですね。・・・・ホウアン先生の様には、旨くいきませんよ。僕は全然駄目な医者ですね。」
「何を仰って居るんですか。先生だって、立派なお医者さんですよ。私、尊敬してますもの。」
「・・・・・・ミオさん・・・・・・・・。」
「だから、先生になら絶対に作れますよ。みんながアッと驚くお薬を。」
「そう、ですか?そう、思いますか?」
「ええ。少なくても私は、そう思ってますわ。先生。」
「・・・・・・ミオさんが、そう仰るんでしたら、頑張ってみますよ。僕。」
「その意気ですわ。先生!」








こうして、トウタは新薬作りに力を注いでいくのだった。
次のモルモットは誰になるのか。
それは、トウタにも分からない事だった。

























心を読めたって、読んだ人が気付いていなけりゃ意味は無く。











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例え心が読めたって