気が付いたとき、目の前に広がったものは青々とした葉が生い茂った草原。
 地平線まで見て取れるような、広々とした。
 そして、空には雲一つ無い青空。
「・・・・・どこだ、ここは・・・・?」
 思わずそんな言葉が口から付いて出た。
 自慢ではないが、そこそこ多くの土地を見て回っていると思っている。仇を求めて、フラフラと当てもなく歩き回っていたのだ。
 そんな旅は最近やっていないとは言え、自分が見た景色くらいは記憶している。その記憶の中のどんな場所とも、今の場所は合致しない。どう考えてもまったく知らない土地だと思う。
「・・・・・まったく・・・・。参るぜ。」
 再び言葉がこぼれ落ちた。
 多分、これはあのすっとぼけたテレポート娘のせいだろう。彼女の近くを通ったとき、変なくしゃみをしていたような気がする。そして、そのくしゃみを聞いた後に妙な浮遊感を覚えた気も。
 そこまで考えて、ハッと気が付いた。確かあの時、自分の傍らには相棒が居たはずだ。慌てて視線を周りに向けたが、相棒の影は少しも見当たらない。
 あの、人の目を引きつける装束は。
「・・・・・俺だけ・・・・。って、事は無いだろうな。絶対。」
 あの天に見放されているとしか思えないくらいに運のない男が、こんな時に巻き込まれていないなどと言うことは無いだろう。いや、彼曰く、運がないように見せているのだと言っていたが。
「・・・・・どっちにしろ、近くにいる気がするんだよなぁ・・・・・。」
 それは、長年彼と共にいることで培ってきた感覚かもしれない。
 気配を変える事に長けた相棒を捜し出すための、野生の勘とも言うべきもの。それが、彼がこの近くにいると告げていた。だから、注意深く辺りを見回した。
 すると、視線にあるものが引っかかった。
 それは、薄く立ち上る煙。人の暮らしている気配。
「・・・・街が、あるのか?」
 しばし考えるようなポーズを取ってみたが、考えるまでもない。ここがどこなのか聞かないことには、帰る道を辿ることも出来ないのだ。
「あいつもあそこに向かうだろうしな。」
 自分よりも物事を読むことを得意としている彼が、人の気配を無視してほっつき歩くことは無いだろう。近くに飛ばされたなら、あそこを目指すことは間違いない。
 そう思ったから、なんの迷いもなく足を向けた。
 早く、この空いた席に相棒を納めたくて。












 壁の至る所は崩れ落ちているが、そこに住んでいる人達の顔には暗い影が見えず、良い感じで復興が行われているのだと言うことが知れた。
 それは良い、それは良いが、ここはどこなのだろうか。
 一般の人よりも多くの土地を回ってきたと自負しているが、こんな城は見たことがない。いや、城よりも何よりも、トカゲやらアヒルやらが人と同じサイズで。むしろ人よりも大きなサイズで動き回っている姿など、今まで見たことがなかった。
 犬はあったけれど。
「・・・・・どこだ、ここは?」
 つい先ほど、己の相棒が草原の真ん中で呟いていた言葉とまったく同じ事を呟いた青年は、わけも分からずその場に立ちつくしていた。
 そんな彼のことを、通りがかった人達が頬を赤らめながら見つめていく。ジロジロ見たら悪いと思うのか、その視線はさりげなさを装おうとしているが、十分すぎるほどに好奇心むき出しの視線は、青年へと容赦なく突き刺さっていく。
 とは言え、そんな瞳に見つめられることは慣れっこになっている彼は、その視線をまったく気にすることもなくその場に立ちつくしていた。
「・・・・・とりあえず、ここがどこか確認するか。」
 今がどういう状況なのか、それを確認しないことには身動きを取ることは出来ない。城への帰り道も分からないのだから。
 どうせならこのままどこかに身を潜めるかとも思ったが、乗りかかった船を途中で飛び降りるというのもなんとなくイヤだった。そんな気持ちになるのは、ここ数年隣に陣取ってきた男の影響かも知れないが。
「そう言えば、あいつはどうなったんだ?」
 ここに飛ばされる直前まで一緒に居たと思ったのだが。彼だけは無事だったのだろうか。それはそれで腹が立つ。どうして自分ばかりが貧乏くじを引かなければならないのだろうかと。
「・・・・まぁ、良いか。」
 基本的に物事にこだわりを持たない青年は、あっさりとそう呟き、辺りをグルリと見回した。きちんと問いに答えてくれそうな者を探すために。
 彼が視線を投げただけで、遠巻きにこちらの様子を窺っていた女性達が黄色い歓声を上げ、なにやら飛び上がっている。こういう輩とはまともに会話が出来ないだろう。そう思い、すぐさま視線を反らし、他の者に目を向けた。
 視界に飛び込んできたのは、銀色の鎧を纏った青年。
 柔和な笑みをその端正な顔に描きながら、彼はこちらに向かって歩いてくる。
「・・・・何か用か?」
「それはこちらの台詞ですよ。見かけない顔ですが、この城にはどう言ったご用件でしょうか?」
「別にこの城自体に用は無いんだが・・・・・。」
 柔らかな笑みの中にこちらの動向を窺うような鈍い光を見つけ、自然と笑みが浮かび上がった。良く知っている男に似ていると思ったから。
「では、何に用があると?」
「ちょっと、聞きたいことがあるんだ。」
「聞きたいこと、ですか?」
「ああ。ここの地名と、現在地をな。」
 その言葉に、男は僅かに首を傾げて見せた。いきなりそんなことを聞かれたたら誰でも訝しむだろう。そうは思うが、詳しく説明しても分かって貰えるとは思えない。魔法の力で、瞬きする間に知らない土地まで飛ぶことが出来るのだなんて事は、一般の人には分からないだろうから。自分も驚いたのだ。彼女の魔法を初めて知ったときは。
 どう説明して良いものかと悩みながらも口を開こうとした青年だったが、その前に思わぬ言葉をかけられた。
「フ・・・・フリックさんっっ!!!!!」
「え・・・・?」
 自分が知らない土地でいきなり呼ばれた自分の名に、思わずなんの構えも無く反応を返してしまった。
 視線の先には、一人の青年が呆然と言った顔で自分の事を見つめながら、その場に立ちつくしていた。
 青年の顔には見覚えなど全くない。無いはずなのに、どこかで会ったような気もする。どこで会ったのだろうかと首を捻っていると、青年はよろける様な足取りで一歩前へと踏み出してきた。
「ほ・・・・・本当に、フリックさん・・・・・?」
「ああ、そうだが・・・・・。お前は?」
「そ、そんな馬鹿な事、あるわけ無いじゃないですかっ!!」
 いきなり叫びだした青年の反応に驚き、フリックは一瞬身体を震わせた。
「だって、そんなっ!全然変わらないじゃ無いですかっ!!」
「変わるって、何がだ?」
「昔と全然、変わってません!」
 驚愕したような表情をしていた青年の顔色が、徐々に朱色に変わっていく。
 なんだというのだろうか。まったくもって彼の言いたいことが分からない。
 とはいえ、どうやら彼は自分の事を知っているらしいから、帰り道も教えてくれるだろう。そう思い、フリックは改めて彼の方へと身体を向け直した。しっかりと話をするために。
 その青い目を、真っ直ぐに青年へと向ける。途端に、彼は顔をこれ以上ないと言うくらいに赤く染め上げた。
「・・・・おい、大丈夫か?」
 思わずそう問いかけてしまうほどに、その反応は尋常ではなかった。
 なんなんだ、彼は。フリックは首捻りながらも彼へと手を伸ばそうとした。しかし、その手は隣から伸びてきた手に止められた。止めた相手を見やれば、そこには最初に声をかけてきた銀色の鎧を纏った男が居た。
「多分。あなたが手を出すと逆効果だと思いますよ?」
 言われ、不気味な反応を返してきた青年にもう一度視線を向けた。それだけで、彼はビクリと身体を震わせてみせる。
 彼の言うことは、確かに一理あるかも知れない。彼の言葉に軽く頷き、伸ばしていた手を下ろした。すると、フリックの腕を捕らえていた青年が安心したように小さく息を吐き出し、異常なほど顔を赤く染め上げた男へと一歩足を踏み出した。
「どうしたんですか、フッチ殿。」
 そう問いかけた男が読んだ名に、フリックは大きな引っかかりを覚えた。
「・・・・・フッチ・・・・・?」
 どこかで聞いた事がある気がする。つい最近、それも頻繁に聞いている名だった気もするのだが。
 考え込んだフリックは、一人の少年の顔を脳裏に思い浮かべた。
 大きな丸い目を輝かせ、無口で大柄な男の背後に隠れるようにして立っているその姿を。
「・・・・・まさか、そんなこと・・・・・・。」
 一瞬イヤな考えが脳裏に浮かんだが、慌てて否定した。いくらビッキーでも、ソレはないだろう。そう考え直して。
 しかし、やはり引っかかる。フリックは、恐る恐る青年へと視線を向けてみた。
 がっちりと筋肉が付いた逞しい身体。茶色の髪に、変な形の頭の飾り。そして、背中に背負う大剣。
 その大剣を目にしたフリックの瞳が、これ以上無いくらい大きく見開かれた。
「・・・・・・それは・・・・・・。」
 良く知っているモノだった。その剣も、それを扱っている人物も。しかし、その人物は目の前にいる青年ではない。もっと年かさで、寡黙な男だ。
 それは、先ほど脳裏に描いた男。解放軍時代にも共に戦い、今現在も同じ敵を討ち滅ぼすために共に戦っている男の持ち物のはずだ。
 そう考えながら、フリックは再び先ほど思い浮かべた少年の顔を脳裏に描く。
 華奢な印象がぬぐえない少年の姿は、目の前の男とは全然違うモノのはずなのに、妙に似ている気がするのは気のせいだと思っていた。いや、思いたかったのかも知れない。そう思わないと、自分の身に大変な事が降りかかっていると言うことになるのだから。
 とは言え、ここまで判断材料が揃っていて無視するわけにも行かない。あまり気が進まなかったが、フリックは勇気を出して尋ねることにした。
「フッチって・・・・・竜洞騎士団の?ハンフリーと、いつも一緒にいる?」
 その言葉に一瞬の間を開けた後、彼は大きく頷きを返してきた。
「はい。あの時から、15年の年月が流れているんです。」
 力強く頷く彼の言葉に、一瞬目眩を覚えた。
 なんだってこう、自分は運が悪いのだろうか。
 昔はこんな事無かったというのに。オデッサに会ってから、解放軍に入ってから人生がおかしな方向に流れている気がする。
 いや、オデッサに会ってからではない。ビクトールに会ってからだ。そして、彼と行動を共にするようになってからは余計に酷い気がする。
 そうだ、全て彼が悪いのだ。自分にまとわりついてくる、あの熊男が。あいつがしつこく自分にまとわりついてくるからいけない。
 そんな事を考えていたフリックの視界に、一匹の熊が飛び込んできた。
 その熊は、フリックの姿を見つけた途端、嬉しそうに手を振ってくる。
「おっ!フリック!やっぱここにいたのか。俺の勘もそう捨てたもんじゃ・・・・・・。」
「お前のせいだっ!このっ、馬鹿熊がーーーーーーーっ!!!!!!」
 ビクトールの言葉をかき消したフリックの怒声の後、その場に凄まじい稲光と轟音が響き渡ったのだった。

















「・・・・・・未来ねぇ・・・・・・」
 全身から焦げ臭い匂いを漂わせ、至る所から白い煙を立ち上がらせながら、ビクトールはそう呟いた。
 目の前にいる見知ってはいないはずなのに知っているような気になる男の姿を見つめながら。
 どうにもこうにも納得出来ない。魔法で未来に行くなどと言うことが。
 ビッキーの魔法がとてつもなくたちの悪いものだという事は分かっている。何度も痛い目にあってきたのだ。それを否定する気はサラサラ無い。だが、時空を越えることなど、たかだかすっとぼけた少女の魔法の力で出来ることなのだろうか。
 うーんと唸り声を上げながら、ビクトールは今一度目の前の男を観察した。
 フッチと名乗った、男のことを。
 たしかに、面影はある。体付きは似ても似つかないが、顔立ちには何となく。昔は美少年と言われたその顔は、美青年と言っても過言ではない感じに成長している。
 自分の相棒ほどでは無いが。
「・・・・今、変な事考えただろう。」
 思わず顔がにやけてしまっていたらしい。フリックに冷たい瞳で見つめられたビクトールは、これ以上彼の機嫌を損ねないように慌てて表情を取り繕い、小さく頭を振り返した。
「考えてねーよ。」
「・・・・・そうか?」
 訝しむような視線に何か言い返してやろうと口を開きかけたとき、背後から恐る恐ると言った様子で言葉がかけられた。
「・・・・・・あの・・・・・。」
「何だ?」
 その声に振り返れば、そこにはフリックほどでは無い物の、端正な顔立ちの男が心配そうにその顔を歪めながらビクトールの顔を覗き込んでいた。
「身体は、なんとも無いんですか?」
 その問いかけに、ビクトールは己の身体を眺め見た。
 フリックの雷撃を食らって多少焦げ付いてはいるが、そんなことはいつものことである。雷の扱いに長けた相棒は、死に至る程の雷撃を落とすことなど無い。そう分かっているからこそ、ビクトールは甘んじて攻撃を受けているのだ。
 避けきれないと言うことも、理由の一つではあるのだが。それはあまり認めたく無い事実なので伏せている。
「ああ、慣れているからな、大丈夫だ。心配してくれてありだとうよ。」
「・・・・なら、良いのですが・・・・・・。」
 やや困惑した様子ではあったものの、自信満々に言って返すビクトールにそれ以上の言葉を続けられなかったのか、彼はそれ以上何かを言ってくることをしなかった。とは言え、その顔から心配する色が消えることは無く、その瞳にビクトールの気分も良くなっていった。
「・・・・・随分と、嬉しそうだな。」
「そりゃあ、綺麗な奴に心配されて、悪い気になんてなりはしないだろう?」
 ニコニコと上機嫌でそう返せば、フリックが何か言いたげに口を開いて見せた。
 だが、結局は呆れたようにため息を付き、ビクトールの存在を無視するかのようにフッチへと向き直った。
「悪いがフッチ。ここの状況を詳しく教えて貰えないだろうか。帰る手段も探さないといけないが、その前に自分たちの状況を把握しておきたいんだ。」
「ぁ・・・はいっ!僕なんかで良ければ、お話しします!」
 頬を赤らめ、緊張で身を強ばらせる姿は、サイズが違えど良く知っている彼と同じだった。その事に、自然とフリックの顔に笑みがこぼれ落ちる。
 それが、ビクトールには面白くない。とは言え、ここで焼き餅を焼いて騒ぎ立ててもどうしようもない。子供の時と違って今のフッチに油断は出来ないが、フリックがフッチに遅れを取るとも思えない。とりあえず今は、帰ることを考えなければ。
「じゃあ、どこかゆっくり話が出来そうなところに案内してくれないか?出来れば、あまり人の来ないところが良いんだが。」
 フリックの提案に、ビクトールも同意するように頷いて見せた。
 ここが自分たちが生きていた場所と違う流れの場所にあるというのなら、出来る限り関わりは小さくした方が良いだろう。少なくても、状況が見えるまでは。
 おかしな話をしていると、いらない視線を集めるのは勘弁して貰いたい。そうじゃなくても、自分の相棒は人の目を集めるのだから。
「人目に付かないところですか・・・・・?」
 どうやらあまり思い当たる所が無いらしい。真剣に頭を捻るフッチの様子をしばし見守った。
「・・・・では、私の部屋にいらして下さい。」
 フッチが思いつかない事に気が付いたのか、先ほどの美青年がそう声をかけてきた。
「え?良いんですか?」
「良いですよ。今は同室の者も遠征で出かけておりますし、部屋の広さもそこそこありますから、ゆっくり語る事が出来ると思いますよ。」
 彼の提案に、フッチは逡巡するように僅かに視線を泳がせた。
 だが、彼の提案以上に良い場所が思いつかなかったのだろう。結局は頷きを返していた。
「じゃあ、お願いします。」
「喜んで。では、こちらにどうぞ。」
 優雅な所作で誘う仕草に、ビクトールは既視感を覚えた。
 なんでだろうと首を捻ったところで、すぐにその考えに思い至った。彼に似ているのだ。赤い騎士服を身に纏う美青年に。
「どこの時代にも、似た奴って言うのは居るもんだな・・・・・。」
 どうでも良いことに感心しながら、ビクトールは目の前を歩く男の背を見つめ続けていた。
















 とりあえず3人を自室に招き入れたパーシヴァルは、彼等に適当に席を勧めるとお茶の準備をし始めた。
 どれくらいの時間話し込むか分からないが、飲み物の一つでもあった方が話しやすいだろう。そう思って。
 お茶のカップを並べ終え、やることの無くなったパーシヴァルは、さっさと部屋を辞す事にした。なにやら事が複雑そうなのだ。部外者である自分が関わるのは避けた方が良いだろう。そう判断して。
「今日は同室の者も帰ってきませんので、ごゆっくりどうぞ。では、失礼します。」
 軽く頭を下げて退出しようと思ったパーシヴァルだったが、その行動は不思議そうな声によって止められた。
「なんだよ、お前も一緒に話をしないのか?」
 声をかけてきたのは、大柄な男の方。顔を見やれば、その顔にも僅かな驚きの色が伺えた。演技では無いのだろう。そういった嘘くささは微塵も感じなかった。
「ええ。私が加わって良いような内容でもないと思われますので。」
「いや。君には一緒に話を聞いて貰いたいな。」
 そう声をかけてきたのは、金茶の髪をした、印象的な程に青い瞳の男。フリックと呼ばれていた。
「・・・・何故ですか?」
「一人よりも二人から話を聞いた方がより状況が分かりやすいと思ってね。個人の持てる情報量など、たかがしれているものだろう?」
「それはそうですが・・・・・。」
「それに君は、フッチとは所属が違うようだ。ならば、持っている知識には間違いなく違うモノがある。俺たちは、少しでも多くの情報が欲しいんだ。協力してくれないか?」
 ニコッと微笑まれ、思わず視線を引きつけられた。自分もこの顔で多くの人間の心を引きつけてきたと思っている。だが、真に人を引きつける力を持っているのは、この人の様な人間なのでは無いかと、そう思った。
 彼に微笑みかけられ、イヤと言える人間がいるとは思えない。
 そう思うくらいに、彼の笑みに引きつけられた。
「・・・・・わかりました。私の知識程度でお役に立てるか分かりませんが、ご一緒させて頂きます。」
 僅かな間の後、結局パーシヴァルは頷き返していた。彼の頼みを断れる人間が居るのなら、会ってみたい。そう思いながら。
「ありがとう。助かるよ。」
 再度ニコリと微笑まれたパーシヴァルは、同じように微笑み返した。
 彼と同じように綺麗には微笑めなかったけれど。













 小さな頃憧れていたフリックが目の前に現れた時から、フッチは気が動転していた。
 彼は記憶にある通り、綺麗な人だった。
 竜洞騎士団の仲間は記憶の中で美化しているだけだと言っていたが、そんなことは全くない。むしろ、記憶の中の彼よりもずっと綺麗だと思う。
 それは、自分が成長したことで人の見方が変わったからかもしれない。昔は見上げる事しか出来なかった青年を、今は少し見下ろす位の位置で見つめられる。その表情の変化の一つ一つを、逃すことなく見つめられる。
 それが、凄く嬉しかった。
 不意に沸いて出た幸運。フッチは今、心の底からビッキーに感謝していた。
「・・・・・じゃあ、ここは、あの時代から15年も経っていて、その上グラスランドの端ッコにある城だって言うんだな?」
「はい、そうです。」
 最終確認をするようなフリックの質問に、フッチはゆっくりを頷きを返した。
 部屋を辞そうとするパーシヴァルを引き留めたフリックは、彼の名前を聞いた後、早速自分たちの時代と今の時代の違いについて尋ねてきた。
 歴史の流れ的に当たり障りの無さそうな事は自分が話したが、どこまで話して良いのか悩む内容についてはパーシヴァルが話をしてくれた。
 すぐに終わるかと思った話は意外と長引き、その間に興奮は随分と収まっていた。だからといって心臓の高鳴りが収まったというわけではないのだが、冷静に話を進められる程度には収まりを見せている。
「ビッキーの魔法はどんな仕組みになって居るんだ?」
「まったくだ。あの天然娘、どれだけ人に迷惑をかければ気が済むんだか。」
「それは、お前にも言いたい台詞だな。」
 ビクトールのぼやきにフリックがそう返して見せた。その言葉に、ビクトールの眉根が一気に皺を寄せる。
「・・・・・おい。それはどういう意味だ?」
「そのままだよ。俺は、毎日のようにお前に迷惑をかけられまくっているからな。お前もビッキーと一緒に反省しろ。」
「俺のどこがお前に迷惑かけているってーんだっ!!」
「言いだしたらキリが無いからな。そんな面倒臭いことしてられるか。お前ごときのために。」
「なっ!!!てめーっ!」
 怒鳴り声を上げ、その場に勢いよく立ち上がったビクトールに臆することなく、フリックはただただ冷たい瞳を向け続けていた。彼の行動を非難するような瞳を。
 その瞳を最初射殺さんばかりに睨み付けていたビクトールだったが、徐々にその勢いは減り、最後には渋々とイスに座り直した。その様を小さく鼻で笑ったフリックは、気を取り直すようにフッチとパーシヴァルへと視線を向け直す。
「それはともかくとして、フッチ。」
「あ、はい!」
「この城には、俺たちの事を知っている人間が何人くらいいる?」
「・・・・そうですね・・・・。僕と、ブライトと、アップルさんと・・・・・。」
「アップルもいるのか。」
 思わずと言った感じで漏れた言葉に、フッチはただただ軽く頷きを返すことしか出来ない。
「ええ。あと、トウタさんとジーンさんとビッキーさんでしょうか。一緒にに戦った事があるのは。フリードさんとヨシノさんの娘さんとか、面識は無くても知り合いに繋がる方は、まだ居ると思いますけど。直接関わりがあったって言うのは、そのくらいかと。」
「・・・・わかった。ありがとう。」
「いえ。」
 微笑みかけられると、やはり心が沸き立ってくる。
 ハンフリーもこんな胸のトキメキを覚えたのだろうか。それが少し気になった。
「・・・・15年か。ってことは、フッチは30近いって事か?」
「ええ。今は29歳です。」
 軽く頷くと、フリックは何とも言えない複雑な表情になってしまった。
「俺より年上って事か・・・・・。だったら、アップルは30過ぎだよな。」
「・・・・・会いたくねーなぁ・・・・・。」
 呟くように漏らされたフリックの言葉に頷き返すように、ビクトールがそう言葉を続けてくる。確かに、自分たちにとってつい先ほどまで年下の少女だったものが、年上の女性に変わってしまったらその内心は複雑だろう。
 目の前に記憶のままの彼等が現れた自分ですら、内心穏やかではないのだから。
「トウタもしっかりやっているのか?」
「ええ。今では立派なお医者さんですよ。会いに行かれますか?」
「あーーー・・・・・。どうするかなぁ・・・・・。」
 明後日の方向を見て考え込んだビクトールの様子を訝しげに見つめていると、フリックが苦笑を浮かべながらも言葉を返してくる。
「過去に戻る事を考えると、あまり余計な知識を持たない方が良いと思うんだ。得に、あの戦いがどうやって集結したのかとか、あの後誰がどういう生活をしていたとか。下手に俺たちが知って、俺たちにとって都合が悪いからって変える訳にはいかないだろう?」
「・・・・・そう、ですね。確かに。」
「とはいえ、いつまでもどこかに身を潜めておくってわけにもいかねーからな。人間生きてりゃ腹も減るわけだし。」
「ああ。当面の仕事を手に入れて、多少の稼ぎは確保しないといけないが・・・・・・。」
「だったら、この城で働いてはどうですか?」
 それまで問われるまでは口を開くことをしなかったパーシヴァルが、不意にそんな事を提案してきた。
 その言葉に、3人の目が示し合わせたように彼へと向けられる。
「・・・・この城で?」
「はい。丁度今は大きな戦いの最中で、腕の良い戦士は喉から手が出るくらいに欲しいのです。身元の方はアップル殿やフッチ殿が保証して下さると思いますので、なんの問題は無いと思いますよ。」
 そう言ってニコリと微笑む彼の言葉に、ビクトールとフリックは顔を合わせて考え込んでいる。
「・・・・・ってことはだ、アップルには会わなきゃならねーって、そう言うことか?」
「そうなりますね。彼女はこの軍の中核に位置する方ですから、彼女が大丈夫だと言えば、何の問題も無くこの城で生活出来ると思いますよ。」
「・・・・・アップルか・・・・・・。」
「何か、彼女に問題が?」
「いや、別にあいつに何か文句があるってわけではないんだが・・・・・。」
「あの小生意気なガキに、何を言われるかって思ってな。年を取ったら、今よりももっと質が悪くなってるだろうしなぁ。」
「とは言え、他に選択肢は無いようだしな。」
 どこか諦めたような笑みを浮かべながらのビクトールの言葉に、フリックがそう言い返した。その言葉に軽く頷いたビクトールは、気合いを入れ直すように一度大きな音を立ててイスから立ち上がった。
「よっしゃーっ!そうと決まれば、さっさと行くぞ。イヤなことを後回しにしておいたら、どんどんやる気が喪失していくからな。」
「・・・・そうだな。行くか。案内して貰えるか?」
 フッチとパーシヴァル、それぞれの瞳を覗き込むようにしながら言われた言葉に、二人は快く頷いた。













 アップルに会ったとき。
 最初彼女は驚いたようにただポカンとその瞳を見開いていた。
 無理もない。自分が同じ立場に立っていたら、同じような反応を返していただろう。だから、何も言わずに彼女が立ち直るのをただ待っていた。
 しばらくして、アップルは気を取り直したのか、マジマジと二人の顔を観察してきた。そして、ボソリと言葉を漏らす。
「・・・・・・ホントに、本物のビクトールさんとフリックさんね。」
「ああ。冗談でも何でもないぜ。正真正銘、俺たちだ。なんだったら、証拠を見せるか?」
「証拠?」
 アップルのみならず、その言葉にはフリックも驚いた。
 星辰剣でも見せると言うのだろうか。首を傾げながらも、アップルが軽く頷きを返してみせる。
「あるのなら、お願いします。私がそれを証拠を思えるかどうかは、分かりませんが。」
「よし、じゃあ、特別に見せてやろう。」
 そう言いながらビクトールが取った行動に、フリックは一瞬呆気に取られた。
 なぜなら、彼はフリックのシャツをたくし上げようとしたからだ。
「何しやがるっ!この馬鹿熊がっ!!」
「ぐえっ!」
 思わず腹に思いっきり拳をねじり込んでしまった。
 蛙が潰されたような声を漏らしながら床に崩れ落ちたビクトールの後頭部を踏みつけながら、フリックは引き出されたシャツを元に戻した。
「だから、証拠を・・・・・・。」
「何が証拠だ。このエロ熊。」
「マジだって。お前の脇腹の傷でも見せてやろうとだな・・・・・。」
「それのどこが証拠だよ・・・・・・。」
 そうそう人に見せたことのない傷口を見せたところで、彼女が自分たちを正しく認識するとは思えない。
 呆れたようにそう呟きながら後頭部を踏みつけていた足を退かしてやると、ビクトールは頭と腹を抑えるようにしながらのそりと起きあがってきた。
「・・・・ったくよー。少しは加減ってモノを覚えろよ、お前。」
「お前相手に手加減してもしょうがないだろうが。」
「・・・・・愛のない言葉だな。」
「あってたまるか。」
「・・・・ふふふっ。」
 いつもの調子で言い合いを始めたビクトールとフリックは、突如傍らで上がった軽い笑い声に、続く言葉を飲み込んだ。
 そう言えば、この場には自分たち以外に人が居たのだ。慌てて視線をアップルへと向けると、彼女は楽しそうな、どこか懐かしむような色をその瞳に浮かべながらこちらの様子を見つめていた。
「昔から仲が良いと思っていたけど、本当に仲が良かったんですね。」
「・・・・どういう意味だ、そりゃ。」
「シュウ兄さんがいつも言ってたわ。『あの二人の喧嘩は犬も食わない』ってね。本当、そんな感じ。」
「・・・・・あの野郎。」
 フリックの上げたドスの利いた低い呟きをサラリと聞き流したらしいアップルは、何事も無かったように話を続けてくる。
「とりあえず、あなたたちの身元の保証は私がします。城主さんに頼んで部屋の割り振りをして貰いますから、少し待っていて下さいね。」
「・・・・・悪い。手間をかける。」
「良いんですよ。これも何かの縁ですから。それに、部屋分と食事分くらいの働きは、して貰いますから。」
「分かっているよ。俺たちに出来ることなら、なんでも言ってくれ。」
 そう返すフリックの言葉に小さく笑みを浮かべたアップルは、ドアへと向かって歩き出した。
「じゃあ、ちょっと行ってくるから、少し待ってて下さいね。」
 そう言い残して部屋から出て行くアップルの姿を見送った後、フリックは深いため息を零した。
「・・・・・いったいどうなる事やら。」
 先の見えない展開に、気分は重くなる一方だった。













 連れてこられたのは、城に突き刺さる形でくっついている船の一室。
 そう広くは無いが、窓から湖も見えるのでなかなか良い感じだ。
「まだまだ修復に手が回って無くて、お一人ずつ部屋をお貸しすることが出来なくて申し訳無いんですが、しばらくはここで我慢してて下さいね。」
 申し訳なさそうにそう言葉をかけてくるアップルに、ビクトールは朗らかな笑みを返していた。
「いや、十分だぜ。眺めも良いし、部屋の中も綺麗に掃除されてるしな、申し分ないって。」
「ああ。こいつと狭い部屋で共に過ごす事にはなれてるから、気にするな。」
「そうですか?そう言って貰えると、気が楽になります。」
 ビクトールの言葉に付け加えるようなフリックの言葉に、アップルはニコリと笑みを浮かべて見せる。
「色々と分からない事もあると思うんで、しばらく人を付けますね。何か知りたいことがあったら、その人に聞いて下さい。」
「そこまでして貰わなくても大丈夫だぞ。こっちは適当にやるから。」
「そういうわけにもいきません。こっちにもこっちの事情がありますから。」
 ニコニコと笑む顔に何かを企んでいる色は見えないが、その言葉で、人を付けると言う真の意味を理解出来た。
 下手に動き回られて過去の情報が自分たちに漏れる事を警戒しての措置なのだろう。
「・・・・了解。大人しく指示に従うよ。」
 降参するようなポーズで軽く手を挙げて見せると、彼女は困ったように顔を歪めてみせる。
「そういう意地悪な言い方しないで下さい。こっちだって、色々戸惑っているんですから。」
「分かってるって。とにかく俺たちは、毎日旨い飯が食えて、毎日旨い酒が飲めればそれで良い。それさえ保証してくれれば、大人しくしているからよ。お前も、あまり俺たちの事は気にするな。」
「二人が変な事すると私が思っていないんだけど・・・・。ちょっと、この城の状況が色々複雑で、大きなまとまりが幾つかくっついているんです。」
「連合軍って、事か?」
「そんな感じです。でも、前の戦いの時と少し違って、お互いいがみ合っていた経緯が凄く長いっていうか、根深いって言うか・・・・・。」
 言い淀むアップルの様子から、ここに至るまでの経緯が難しかったことが伺えた。そんな状況だから、アップルの旧知の仲だと言うだけで簡単に信用して出来ないと、誰かに強く言われたのかも知れない。
 ちょっとした事で内側から崩壊してしまう可能性が、この軍にはあるのだろう。
 自分たちの城も雑多な物の寄せ集めではあったが、そこまで警戒するほどの事は無い。いったいこの地域で何があったのか、気になる所ではある。だが、それは聞いてはいけないのだろうか。
 そんな疑問が顔に表れて居たのだろう。アップルが小さく笑いを零してきた。
「とりあえず、二人の相手をしてくれる人はもう選出してあります。頭のいい人だから、あなた方に渡ったらまずそうな情報は口にしないと思いますから、気軽に話しても大丈夫だと思いますよ。」
「それは、ここの状況を聞いても大丈夫だと言う事か?」
「ええ。喋って良さそうな事は、教えてくれると思いますよ。」
 なんとも歯切れの悪い物言いだと思ったが、まぁ良いだろう。
 完全に拘束する気は無いらしいし。多少不自由になるだろうが、この際仕方がない。自由な気分を満喫したかったら、さっさと元に戻れる方法を探し出そう。
 そう心の中で決意するフリックだった。
「じゃあ、今日はもう遅いから私は戻ります。明日の朝になったら人を寄越しますから、その人から何をするのか聞いて下さい。」
「分かった。色々とありがとう。」
「いいえ。じゃあ、お休みなさい。」
「お休み。」
 小さく微笑みながら部屋を辞していくアップルを見送ったビクトールとフリックは、彼女の気配が消え去ってからお互いの顔を見合わせた。
「・・・・・なんだかな。」
「ああ。どうなることか。」
 深いため息を付いた二人だったが、暗い空気はそう長く続かなかった。
「ま、なるようになるってもんだな。」
「そうだな。こっちに来られたんだから、いつかは戻れるだろう。」
「お前がいるなら、俺は別に戻れなくても構わないしな。」
 ニッと笑いかけながらそんな事を言ってくるビクトールの顔を、フリックはポカンと見つめ返した。
 何を言い出す事やら。呆れてしまう。
「俺にとっては、お前と二人なんて、迷惑以外の何ものでもないがな。」
「ひでー言い草だな。」
 クククッと笑い返してくる感じから、言っている言葉程フリックの発言を気にしている様子は無い。それくらいの事は言われ慣れているから、今更気にする事も無いのだろう。
「・・・・・・まぁ、お前といると飽きはしないが。」
「嬉しいこと言うじゃねーか。」
 フリックの言葉に嬉しそうに顔を輝かせてくるビクトールの様子に苦笑が浮かぶ。どうにもこうにも、この男の事が憎めない。未だに殺せないのだ。この男だけは。そんな自分が不思議でしょうがないが、悪い感じはしない。
「・・・・・とりあえず、飲むか。」
「そうだな。」
 備え付けの小さなイスに腰を下ろし、軽くグラスを打ち鳴らした。
 自分とビクトールと。
 ソレが揃っているのならば、日常が変わることは無い。そう思いながら。















 翌朝。
 扉を叩く軽い音で目が覚めた。
 そう言えば、アップルが朝に人を寄越すと言っていた。自分たちの相手を任された者が。
 チラリと聞いた話では色々複雑な関係らしいこの軍の中で、こんな厄介な連中の相手を任された人間とは、いったいどういう人物なのだろうか。
「・・・今開ける。」
 とりあえず軽く返事を返したフリックは、未だにベットの中で眠りを貪っている熊の腹に蹴りを一発食い込ませると、自分だけさっさと身支度を調えた。
「悪いな。待たせた。」
 そう声をかけながらドアを開くと、そこに居たのは昨日自分たちを自室に誘った青年だった。
 彼は、フリックの言葉に軽く首を振り返しながら、その顔に薄く笑みを描いてくる。
「私も早く来すぎてしまったので。・・・・昨夜は、良く眠れましたか?」
「ああ。おかげさまで。」
「それは良かった。」
 小さく頷きを返してきた彼は、部屋の中に視線を走らせ、未だに床の上で転がっているビクトールの姿を視界に捕らえていた。しかし、すぐにその視線を外し、フリックへと向き直る。
「・・・・・出直した方がよろしいですか?」
「いや、構わないよ。あいつの事は気にするな。」
「ですが・・・・・。」
「アレを人間と思ったら駄目なんだ。アレは人の皮を被った熊だからな。」
「おい、フリックっ!随分な言い草じゃねーかっ!」
 凄い勢いで立ち上がったビクトールが肩を怒らせ、威嚇する様に怒鳴り付けてきたが、そんなものは少しも怖くない。彼が自分に手を出せない事は、良く知っているから。
「五月蠅い男は放って置いて、良いから入れよ。まだ何にも無いからもてなしなんて出来ないけどな。」
 未だ扉の外に立つ青年の腕を引くようにして部屋の中に誘ったフリックは、さっさと扉を閉め、困ったような顔をしている彼を無理矢理イスに座らせた。
「とりあえず、改めて自己紹介をしておく。俺は、フリック。一応身分は傭兵だ。で、あっちはビクトール。人間だと思わなくて良いからな。」
 その言葉に、彼はチラリとビクトールへと視線を流した。頷いて良いものか悩んだのだろう。その視線を受け、ビクトールが諦めたようにため息を吐き出した。
「・・・・好きにしてくれ。」
「と、言うわけだ。」
「・・・・分かりました。善処しましょう。」
 小さく笑みを浮かべながら頷き返す彼の様子から、少し警戒心を解いたのが分かった。だが、未だに緊張感はある。にこやかな笑みを見せながらも、周りの様子を冷静に観察し、フリックとビクトールの言葉を慎重に聞き取っている様子も伺える。
 抜け目の無い人間は大好きだ。
 フリックの顔に、作り物ではない本当の笑みが広がっていく。
 目の前の男への関心が、急激に沸き上がっていくのを感じる。
 見た感じ、剣の腕自体はそこまで際だったものでは無いと思う。長年の勘がそう告げている。自分の相手を出来る程の腕はない。だが、心はなかなかに強固だ。強さの中にしなやかさが見て取れる。
 心の強い人間は大好きだ。
 彼と出会えた事を考えると、今回の事もそう腹立たしく無くなってくる。自分のイメージの範囲内でしか動けないが、それでも面白い日々になりそうだ。
「・・・・・・まぁ、どうなるか分からないが、よろしく頼む。パーシヴァル。」
 浮き立つ心を隠しつつ、昨日知ったばかりの名で男を呼び軽く手を差し出せば、彼はニコリと笑み返してきた。
「こちらこそ、よろしくお願い致します。フリック殿。」
 差し出した手に重なってくる手はひやりとして物だった。
 その冷たさを心地良いと思いながら、フリックは力強く握りかえしたのだった。
























続く・・・・・?











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やっちゃいました。反省。











時を越えて