「うううぅぅぅっ・・・・・。」
 桃城は呻いていた。
「気持ち悪い・・・・・・。」
 その原因は、乾のドリンク。あとワンゲームで勝ちを掴むと言うときに、うっかり飲んでしまった乾のドリンクのあまりのまずさに、その場で気を失ってしまったのだ。
 そして、試合を棄権して、桃城は担架で運び出されてしまった。なんとも格好の悪い結末だ。
 前半良いように弄ばれていたところを自分たちのペースに戻せた所だっただけに、悔しさは一入だ。
 運び出された木陰で起き上がる事も出来ず、チームメイトに合わせる顔もなく。
 気分の悪さに歪む顔を隠すように、人の視線を避けるように己の顔の上にタオルを乗せて呻いていた桃城の傍らに、人が近づいてくる気配がした。
 声を聞かなくても、それが誰なのか分かる。それくらい、自分には馴染みの存在になってしまった気配だ。だから、具合が悪いのにもかかわらず、桃城の口元には自然と笑みが浮かび上がってきた。
「・・・・・ダサイッスね。桃先輩。」
「・・・・・・・うっせーよ。」
 かけられた言葉は、思っていたとおり冷たいモノだった。だけど、彼がわざわざ様子を見に来てくれたことに、最悪だった気分も良くなった気がする。
 だが、続けられた言葉に良くなりかけた気分が再び下降していった。
「あんな負け方、サイテーっすよ。」
 彼の言葉が冷たいのは今に始まった事ではないが、気分が最低な時に彼にきついことを言われると、そうとう凹む。ソレと同時に、苛立ちも沸き上がるという物だ。
 だから、自然と返す言葉の語気も荒くなるというもの。
「・・・・・・うっせーな。俺だって、負けたくて負けたわけじゃねーんだよ。」
「乾先輩のドリンクを飲んでぶっ倒れるって・・・・。鍛え方足りないんじゃないっすか?前半も、あいつらに良いように翻弄されてたし。ほんと、ダサダサっすね。」
「・・・・・・越前、てめー。それ以上言うと、いくら俺でも怒る−−−−−−−」
 そう言いながら、力の入らない身体にむち打って起きあがろうとした桃城だったが、その行動は頭を少し持ち上げる程度で止められた。
 なぜなら、額の上にひやりとした冷たい感触を感じたから。その冷たさに、桃城は起きあがりかけた頭を地面に戻す。
 それを確認したような間の後に、リョーマが言葉をかけてきた。
「ダサかったけど、後半は、なかなか格好良かったっすよ。・・・・・負けたけど。」
 そう言い様、屈められていただろうリョーマの上半身が起きあがったのを気配で感じた。冷たい感触は、額に載せられたままだ。それが地面に落ちるように傾きかけたのに気が付いた桃城は、慌てて手を伸ばした。
 ソレを掴んだ途端、手の平にひやりとした感触が伝わってくる。
 なんなのだろうかと、それまで顔にかけていたタオルの隙間から手にした物の正体を窺うと、それは桃城が好んで飲んでいる、スポーツ飲料の缶だった。
「・・・・・越前・・・・・?」
 缶を握りしめたまま、傍らに立ったまま己の顔を見つめているリョーマの瞳を見つめ返せば、リョーマはその大きな瞳にからかうような光を浮かべながら、桃城に向かって微笑みかけてきた。
「あげますよ。乾先輩のドリンクを飲んだままじゃ、後味悪いっしょ?」
 それだけ言うと、彼は身を翻してコートの方へと歩いていってしまった。
 その後ろ姿を僅かに顔を持ち上げた体勢で呆然と見つめていた桃城だったが、不意に笑いが浮かび上がってきた。
「・・・・・ったく。らしくねーな。らしくねーよ・・・・・・。」
 そう、呟きを漏らす。
 彼が自分が好んで飲んでいる炭酸飲料ではなく、桃城の好んでいるスポーツ飲料を買ってくる辺りが、らしくない。
 だけど、そんな気遣いが胸にくすぐったくて、嬉しい。
 再び地面に横になった桃城は、手にした缶をそっと頬に押し当てた。
「・・・・・気持ち、良いなぁ・・・・・・。」
 ひやりとした感触が、心地良い。不快な気分も、少しは晴れてきそうだ。
 桃城は、頬に缶を押し当てたまま、再びタオルで顔を覆った。
 今度は苦痛に歪む顔を隠すためではなく、にやける顔を周囲から隠すために。
 冷たいけれども温かいリョーマの気持ちが、たまらなく嬉しくてにやける顔を。


























そんな一ページを捏造してみました。笑!

















                    















冷たいけれど、暖かい