「ATAC」


 大まかに言って2サイクルエンジンのエクスパンションチャンバーは、長ければ低回転型で、短ければ高回転型となります。これは、ピストンが下がって排気ポートが開き、そこから圧力波が出て、チャンバー内で跳ね返り、再び排気ポートまで戻ってくる時間は、圧力波が基本的に音速であることから、チャンバーの長さや形状によってほぼ一定となり、これに排気ポートが開いてから閉じるまでの時間が一致する回転数の時が、最も充填効率が高いことから言えます。

 NS250とNS400Rには、「Auto controled Torque Amplification Chamber」略して「ATAC」、翻訳すると、「自動制御起回転力増幅室」という排気デバイスが採用されています。これはチャンバーと、その横にくっついた箱が、そのつなぎ目に有るバルブが開いて繋がると、排気ポートから出入りする圧力波がその箱の中を寄り道するので、結果的にチャンバーが長くなった、つまり低回転型になったのと同じ事になる、と言うカラクリなのです。

 対して、NSR250R等が採用するRCバルブとは、チャンバー形状、つまり圧力波の往復時間を一定とした上で、排気ポート上端に設けたバルブを上下させることで、排気ポートの開いて閉じるまでの時間を、クランクシャフトの回転数を問わず、一定としようとするものです。これならば、基本的な2サイクルならただ一つのATACが付いても、二つの回転数でしか得られなかった高い充填効率がかなり広範囲に渡って得られるわけです。このように、ATACとRCバルブとは、同じ目的を互いに正反対の観点から達成しようとしたものなのです。

 ところで、エクスパンションチャンバーを変更した結果、トルクの出る回転域が高すぎた場合、ATACの容量を増やすことでATACの開いた状態でのトルクバンドを下に持って来るというのも一つの方法かもしれません。しかし、ATACの原理を考えれば分かるように、ATACの容量というのはトルクの大きさではなく、ATACの閉じた場合と開いた場合の、それぞれのピークの回転数の差なので、あまり大きくしてしまうとトルクの谷が出て、扱いにくいエンジンになってしまう恐れも有ります。また、このATACにはカーボンが溜まりやすく、すぐにバルブが固着してしまい、7,000rpmあたりから上が回らなくなってしまいます。NS乗りならば、基本的なメンテナンスに加えて、是非ATACも定期的に分解掃除しましょう。