市立保育園民営化が加速! でもそれでいいの?

1月10日 市社会福祉審議会児童福祉専門分科会を傍聴した。今年度4回目目の分科会の議事は「長野市公立保育所の適正規模及び民営化等基本計画(案)について」の審議が主であった。詰まるところ「市立保育園の民営化を加速していきたい」との提案を認めてほしいということだ。

民営化実施候補園としてリストアップされた16園から平成25年度〜29年度の前期分として@子供の園保育園(篠ノ井地区)A川中島保育園(川中島地区)B若槻保育園(若槻地区)C豊野みなみ保育園(豊野地区)D中御所保育園(第五地区)を順次民営化するとの基本計画案が決定された。また、後期分(平成30年度〜34年度)の具体的な保育園名については、前期分の民営化の進捗状況等を勘案し、別途決定することも了承された。

15名の委員全員が参加し1時間20分程度の審議において、5名の委員から発言があった。細部に亘る質問もあったが民営化を肯定した上での質問が主流であった。他方、一人は公立保育園の必要性について気持ちを込めて訴えた。また、「現状のサービス水準を低下させないように」と当局に念を押した方もいた。

これに対し、答弁は立て板に水である。「民間活力を活用し、サービスの質の向上とコストの削減を図ることが目的」「サービスの低下を招くことはない」と自信に満ちている。結果として、会長は採決を取るまでもなく、全員一致で当局の提案を了承し、基本計画は策定されたのである。予め当局が用意した社会福祉審議会委員長宛の報告に少数意見の反映もあっても良かったのではないかと思うのだが、案文どおりで承認された。

平成15年4月、入園式を済ませた保護者が耳を疑う「三輪保育園、川田保育園、下氷鉋保育園」公立保育園三園の民営化提案があった。余りに唐突な提案に対し保護者、地域からは強い抗議が寄せられた。結果として三輪保育園の民営化までには6年という長い年月を要したことを当局は忘れてしまったのか。三園は平成25年度において民営化が完了することになった。民営化の評価も肯定的なものしか取り上げられていないが、課題や懸念がすべて払拭された訳ではない。

民主党政権下で議論された子育て三法は多くの問題点を内包している。児童福祉法24条の保育実施義務の削除は、市町村の責任を後退させることになる。政権交代によってどうなるか不透明であるが、私は保育実施義務を遵守するとの観点から保育園の民営化についてもこれ以上進めるべきではないと考える。

他市においても保育園の民営化を進める事例もある。一方で松本市など公的責任を全うしようとするて自治体も少なくない。それこそ「都市の品格」である。

民営化による財政効果が示されている。定員100人の保育所運営費の比較モデルでは公立だと8,820万円。これは市の負担と保育料で賄われる。一方、私立では8,370万円。人件費が△450万円。国庫負担金が2,320万円。合計2,680万円のコスト削減になるとの論法だ。3億円園舎改築では公立だ3億円全額が市の負担。私立だと法人負担7,500万円(25%)、県(国)補助1.5億円(50%)、そして市の補助金が7,500万円(25%)となり市の負担は1/4となり1億2,500万円はコスト削減となるというそろばん勘定である。まさに「入りを量りて出ずるを為す」である。

私立保育所の人件費が安くなる理由は容易に推測される。それは保育士の年齢構成が若いからだ。短大や専門学校を卒業してから間もない若い保育士の比率が高いからだ。結婚による寿退職によってその比率は維持される。他方、結婚後も仕事を続ける市の保育士は必然的に年齢構成が高くなり、それは結果として人件費比率を高める。しかし、お姉さん保育士がほとんどの保育士集団でなく、結婚・出産を経たお母さん保育士や若いおばあちゃん園長先生によって構成される職員構成はより保育の質は高めることにつながる。

そして、採算や効率性を追求する民間と違う公立保育所が責任を果たすことも重要だ。発達障害など障害児保育、地域子育て支援事業等は公立保育所が大きな責任を負う。加えて、公立、私立のどちらかの選択肢を無くしてしまうことも問題である。価値観が多様化している現在、保護者が公立を選ぶのか、私立を選ぶのか両方が無ければ選択はできない。行政の公平性と平等性の観点からは市街地や周辺の平坦地だけの問題ではなく、中山間地の保育環境をどのように維持していくかも重要な問題である。かくして、リストアップされた16園の民営化については前期分の5園が決定されたが、地域や保護者への十分な説明とともに課題や懸念について今後も議論が必要と考える。

とにもかくにも「都市の品格」が問われている。

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