大学の専攻は西洋史。卒論のテーマは両大戦間期ポーランド史。どうしても1度ポーランドを自分の目で見、肌で感じたいという願望が社会人となった私の理性を凌駕した。学生時代、五木寛之が好きだった。『蒼ざめた馬を見よ』、『青春の門』、『デラシネの旗』、『内灘婦人』、そして『青年は荒野をめざす』。ヨーロッパへの格安でそして魅力ある全長9,000kmのシベリア鉄道の旅。迷いはなかった。1年勤務した職場を半年休職し、100万円を懐にポーランド、ソ連、東欧、西欧への2ヶ月半の旅に出た。
20年前のゴールデンウィーク、私は横浜港から少ない友人に見送られながら1人、大陸に向かって旅立った。ドラが鳴り、『蛍の光』が演奏される中、五色のテープが飛び交った。船は岸壁を静かに離れ、両端を互いに持ち合った紙テープは切れて海に落ちていった。帰りのチケットもなく、行き当たりばったりの放浪の旅の始まりだ。夢を実現させた達成感とともに不安が入り交じった複雑な心境だ。岸壁が見えなくなるまでいつまでも、いつまでも私はデッキに佇んでいた。船内放送が夕食の準備ができたことを知らせている。私は急に空腹を感じ食堂に急いだ…