2泊の船旅も終わろうとしている。前方に春浅きユーラシア大陸が見えて来た。今日は5月2日、新緑の眩しい日本とは1月以上も季節が遅れている。木々はまだ丸裸だ。下船1時間前、荷物を整理して廊下に出す。岸壁のすぐ近くに税関の建物が見える。パスポートを確認し、入国審査を待つ。2ヶ月後またソ連経由で帰国するため二重ビザを取得してある。

船内放送が上陸を促す。タラップを降りて記念すべきユーラシア大陸への第1歩をしるす。カーキ色の仕立ての悪い制服に身を包んだ審査官がニコリともしないでパスポートを時間をかけて確認し、最後にもう一度写真をしっかり見て、おもむろに入国スタンプを押す。無言で先へ行けと促す。それでもロシア語でありがとうを意味する「スパシーバ」と挨拶する。審査官の口元が幾分微笑んだように見えたのは気のせいだろうか。

船室が同じであった3人の男性と2人連れの20代後半と思われる女性と私の日本人6人グループは、国営旅行社インツーリストが手配したおんぼろのマイクロバスでナホトカ駅に着いた。小さな駅舎に人影はまばらだ。両替したソ連通貨ルーブルを使って、絵葉書と切手を買う。しばらくして巨大なカーキ色の電気機関車が入って来た。バイカル湖のほとりのイルクーツクまでの列車の旅が始まる。2段ベッドが両側にある4人部屋のコンパートメントの車窓にはシベリアの大地が広がる…