日曜日の朝7時9分にハイデルベルク駅を発つ。今日の目的地はボン。フランクフルトで途中下車する。 8時18分。中央駅に到着。フランクフルトはドイツ銀行を始めドイツ国内外の大銀行の本店・支店のビルが林立する金融の大都市だ。そしてゲーテの生誕地でもある。ゲーテはドイツを代表する詩人であり、劇作家、小説家、科学者、哲学家、政治家でもある。また、当事の幅広い人物と交流を持った。現在でも彼の文学作品・人生観などは全世界に大きな影響を与えている。ゲーテの生家を訪ねる。質実剛健−ぶ厚い床板がその長い歴史を物語っている。
再び中央駅からボン行きの電車に飛び乗る。15時22分到着。ボンは統一されるまで西ドイツの首都であった。そして偉大なる音楽家ベートーヴェンの生誕地でもある。生家を見学した後、今夜の宿を探す。日曜日のため旅行案内所は閉まっている。小路でこぎれいな小さな宿を見つける。荷物を整理して街に出る。石畳の感触が足に伝わり心地良い。 広場のベンチで一休みしていると、ダンデイな紳士が話しかけてきた。
紳士は元外交官。年齢は65歳ぐらいか。ボン近郊にドイツ人の妻と2人の子どもと暮らしているらしい。オランダのライデン大学に哲学の講座を持っている。スピノザについて話してくれた。スピノザはアムステルダムのユダヤ人街に生まれた哲学者。44歳の若さで死んでいる。彼は世間で言われている「神」を真っ向から否定し、「自然の中にある普遍的な法則」こそが唯一の「神」であると説いた。そのためユダヤ人共同体から破門・追放された。この汎神論的一元論はデカルトからドイツ観念論への橋渡しとなった。スピノザは「人生は旅である」と述べている。
老紳士は私に言った。「君、旅をしたまえ。そして歴史観、人生観を変えて勉強したまえ」と。難解なやり取り、なんだか禅問答のようだ。でも何か妙に納得できた。ご馳走してくれた黒ビールとイカのリング揚げの味は忘れられない。 ・・・次号に続く