トーク之一「スパイ学校に行きたい」


Y『Kさん、こんにちは』

K どうもこんにちは

Y『僕は昔から映画が好きで、色々な映画を見てきました。中でも007、ジェームス・ボンドのかっこいい活躍にはいつも憧れていました』

K はいはい

Y『そんな僕も18歳になり、そろそろ将来について考えなければならない年頃となりました。僕としては何と言ってもスパイ学校に入りたいのですが、父も母も口を揃えて「そんなものはない」と言うのです』

K まあ、世間的にはそうやな

Y『しかし、どこかにあるならば是非とも入ってみたいのです。Kさんはご存じと伺ったのですが、スパイ学校とはどこにあるのでしょうか?』

K スパイ学校ねえ

Y ないでしょ、こんなもん

K いや、なんというか、この場合は……遅い

Y 遅い?18歳が?

K もう遅いわ

Y(笑)あ、そうですか

K じゃあ、まず

Y はい

K スパイになろう、思うわね

Y 思いますね

K キミはいつ思う?

Y(笑)思ったことはないですけど……うーん……

K じゃあ俺は、まず小三の時にスパイになろうと思う

Y じゃあ、ですか

K あー、スパイ学校行きたいわー。ね?でも親はないって言ってる。このまま中学校、高校と行った時に……

Y ちょっとすんません。まず、スパイ学校は存在するっていうことですか?

K まあまあ、そうね……都内に

Y 都内!?

K 都内に……二軒くらいある

Y 二軒て単位がまた……(笑)

K 壁の所は忍者のアレみたいになってるからね。張り付いたらクルクル回りますから

Y それ忍者屋敷なんとちゃいますのん?

K いやいや、スパイ学校やねん。で、俺が小三の時にスパイ学校に行こうと思ったとする。事実そう思ったし、行ったし、表彰もされたし

Y 優秀な成績を収めたんや?

K そうそう。んでまあ、小三の時に行こうと思いました、でも親はないって言うてます。どうするかって言うと……小学校には小学校の先生がいるでしょ、やっぱり

Y はあ、いますね

K 六年生になったら卒業文集とか書かされるやろ? 六年間を振り返って、みたいな

Y うん

K とにかくコレに……『スパイになりたい』

Y(笑)ああ、まずはその紙に思いをしたためるワケですね

K 俺は題名のところに書いたわ

Y それ小三の時に思ったんですよね?三年ぐらい思いはそのまま置き去りなんやね?

K そこはやっぱこう、ムラムラさせとかんと

Y どういう種類の気持ちやねん

K それはもう条件!それは条件!最低限3年の積立貯金は必要やねん

Y ……それは誰が計るんですか?

K ……まあ、そこはええやん

Y 伏せるんかい

K はい、スパイになりたいと思いました、六年生になりました、『スパイになりたい』6年1組13番Kと。これを書いて提出しますよ。ただ、表向きには違うのをもう一枚書くんやけどね

Y あ、そうなん?

K こっちは普通の作文を書くの。なんや……「虫取りに行ったよ、5年の夏」みたいな

Y はい

K「女の子に恋した、4年の春」みたいな

Y はい(笑)

K「冬は寒かった、3年の冬」

Y まんまやないか(笑)まあ、この表向きと『スパイになりたい』の二枚を提出するわけですね

K うん。コレを提出しといたら、中学校に上がるときに「Kくん、ちょっと」

Y おっ!

K「校長先生が呼んでるわよー」って、担任の先生に言われますよ

Y ほう(笑)担任の先生が言うわ

K「なんやK、どうしたんやー」とみんなに言われたわ

Y みんなは「お前なんかしたんかー」と思うわね

K「おう、したんやー」って返すわな

Y なんかしたんかい(笑)

K いや、表向きはそう返すやん

Y ああなるほど、装うわけですね

K「おう、したんやー。しょうもないことやけどなー」言いながら、心の中ではもうガッツポーズですよ

Y(笑)

K いま今呼ばれた!そしたら行くしかない!

Y ははははは

K で、校長室に来るんですよ。コンコン、ってノックをするじゃないですか

Y はい、するでしょうね

K ところが返事がないのよ

Y あら?

K 校長が校長室にいないのよ

Y え、なんで?

K「すいませーん」言うてガラガラーとドア開けるんですけど、中には誰もいないのよ

Y ……どういうこと?

K 担任に「校長先生はどこですか?」って聞いたら、「あっちよ」って指さすわけよ

Y どこをですか?

K グラウンド

Y ええ!?

K ポツンと立ってんのよ、校長が。ふんどし一丁で。それで「こっちよ」って手招きをする

Y 呼んでるんですか?

K 腕組んでこう、朝礼台の上に立っとるわけや

Y 画が浮かんで来たわ(笑)

K あったやろ? あの青い台の上や

Y っていうか、そんな雄々しい格好(ふんどし一丁)でおるのに「こっちよ」言うんや?

K うん?

Y 校長、女口調なんや?

K いや、それは秘書よ

Y 秘書!?

K「こっちよ」言うてんのは秘書よ、胸隠しながら

Y 秘書もふんどしなの!?

K この手を離すとビーチクがモロですから

Y いや、別に校長に付き合わんでええやん、そこは

K「いいえ、私はコレで行くわ!」

Y(笑)

K「校長流に従うわ!」

Y がんばるなあ、秘書

K それが口癖やからな。「私は校長に倣うのよ」

Y 秘書連れてる校長なんか聞いたことないけどなあ

K ……(笑)まあ、とにかく朝礼台で校長が呼んでるから。行くわね。そうすると校長がこっちを見下ろしながら「お前はなんや?」

Y 聞いてくんねや(笑)

K 呼んでおいて言うわけですよ

Y 六年間見て来といて「お前はなんや」言うんですね

K そう、六年見て来といて。この謎の呼び出し方。上からは五年生が見てますからね

Y うわ、下級生に見られてんねや?

K「アレなに?」「あのお兄ちゃんなにしてんの?」みたいなこと言われますからね

Y お兄ちゃんとかより、まず校長にツッコむやろ

K ははははは(笑)いや、子供は残酷やからね?

Y 関係あれへんがな(笑)

K まあ、そんなようなことを言われてますわ。でも校長は我関せずで、涼しい顔して「おまえは何や?」言うわけですよ

Y いや、おまえが何や!

K(笑)僕はたじろぎながら「いや、僕はスパイに……」初めて説明をするんですよ。でも校長は作文を読んでるんで、僕のこの三年間の気持ちはもう……

Y 受け取ってんねや

K そう、受け取っとんねん。そこで校長はバッジをくれるわ。なんか赤―いバッジをこう、胸のトコに付けて。で「コレがあればスカウトが来ますよ」と耳元で囁くの

Y はあ(笑)

K んでまあ、何日かしたらもうスカウトの人が、片乳首隠しながら来ますよ

Y また!?

K こう隠しながら「来る?」って

Y スパイのキーワードはもう「片乳首隠してる」なんですね!?

K ……そう(笑)世の中色々な人がおるけど、片乳首隠してるのはスパイですよ

Y(笑)丸バレやん!

「いや、私はスパイじゃない」とも言うわ

Y いやいや(笑)そいつやん!

K そこは言いますよ。バレたらアカンから「私はスパイじゃない」

Y おい、この中にスパイがいるぞ

(片乳首を隠しながら)まさか!

Y(笑いすぎて話せない)

K(笑いを堪えながら)……とにかく口癖がそうやもん

Y スパイの口癖は「スパイじゃない」なんや

K「おい、ちょっと勉強を見てくれ」「いや、スパイじゃない」

Y はははははは!

K「税別200円になります」「いや、スパイじゃない」

Y ふははははは!

K 胸を隠しながら。そういうふうに言うわけよ。バッジを付けて

Y そのバッジもまた、えらい光る……

K ギンギラギンやで。闇夜でピカーンと光ってるから

Y 居場所モロバレやん

K で、まあ、来るわ、こんなんが(胸を隠しながら)

Y 俺なら逃げるけどなー

K「ねえ、あなた。私スパイじゃないんだけど、ちょっとお話いいかしら」

Y 単刀直入やな

K「道を尋ねているの。聞いてよ!」

Y はい聞きます聞きます

K「ああ、はい」と俺は答える。まあ、普通やん

Y 相手はともかく、君は普通に対応するわけね

K「どこへ行きたいんですか?」と訊くわな。すると「私はスパイ学校に行きたいの」

Y なるほど

K「ところで私はスパイじゃないの」

Y 分かった、分かった、分かってるから(笑)

K で、「知りません」っていうと、パァン!ってビンタされるねん

Y 乳首隠してない方の手でやられる訳ですね

K そう、そう。隠してない方の手で。はい「知りません」と来てすぐ「パァン!」、ね?で、言う訳ですよ

Y 何と?

「じゃあ、付いて来なさい!」

Y は……はははははは!

K「もう、付いて来なさい!」言うて、連れて行かれる訳ですよ

Y 殴られ損やん!会うなり連れてったらええやん!

K そうやってやっと入れんねん。だから高校卒業後なんてのは……

Y 遅すぎるんですね

K そう。遅すぎた想いなの

Y 知らなさすぎたんや

K そうそう。無知ゆえの……えー……

Y ……まあ、早めから作文を書いとけという事ですね

K え、なに?

Y(笑)……あ、偶然か、作文書いたのは?

K ……イッコ上の学年にね

Y おっ

「タンバリン塚本」っていう

Y 誰や

K そういうスパイがいたの

Y スパイで通ってたんや

K 名前は「タンバリン塚本」やけど、渾名は「スパイ」やねん

Y ……その「タンバリン塚本」っていうのは本名なんですか?

K うん。とにかく「スパイ」って呼ばれてた。まあ、でも渾名やからな

Y バレてた訳では無かったと

K ただ、胸は隠してた

Y ふはははは

K 僕はでも、疑ってたのよ。で、ある日「タンバリン塚本さんはスパイじゃないんですか」と訊いた。そしたら「私はスパイじゃないんだけど、君はトイレに来なさい」と

Y とりあえず問いには即答なんですね

K うん。すぐに「トイレに来たらいいじゃないの。私はスパイじゃないけど」って

Y「タンバリン塚本」さんは女の人ですか?

K いや……まあまあまあ……そうやな

Y(笑)……事もあろうにトイレに呼んだんや?

K で、呼ばれて「私はこうこうこうでスパイになったの」と説明を受けたわ

Y ええの!?言うてもうてええの、それ!?

K そうやねん。言うた途端に「タンバリン塚本」の付けてる赤いバッジが「うぉんうぉんうぉんうぉんうぉーん!」って鳴り出した

Y ははははは(笑)そうやんな!?そらアカンわ!

K「警報だわ!」

Y そら言うてもうたらアカンわ

K すぐに胸隠した人が四人来て「タンバリン塚本」を囲んだ

Y 裏切り者やもんな、言うなれば

K それで「パン!パン!パン!パン!」

Y うわ、撃たれたやん

K ちゃう、ビンタや

Y ビンタかいな

K ビンタ「パン!パン!パン!パン!」

Y 四方向から打ったわけや

「タンバリン塚本」一周回った

Y(笑)

K んでもう連行されてもうて。ビンタした奴が「あなたは何を聞いたの」って尋ねてくるわけよ

Y おお、怖いな

K「いや、何も聞いてません」って答えんねんけど「でも私たちには分かるようになってるのよ」と言うてくる

Y 盗聴器か何かがあったんやろな

K そうやろな。例のよう光るバッジかなんかに。で、俺は逆に訊いたわけよ。「あなたはスパイじゃないんですか?」

Y そんなん言うからね

K「いえ、私はスパイじゃないんだけど」って言うて帰って行った

Y え、帰ったん(笑)

K 向こうにしたらバレたくないからな

Y いや、もう一目瞭然やろ

K「いえ、スパイじゃないんだけど」「え、スパイですよね?」「いえ、私はスパイじゃないんだけど」言いながらだんだん後ろに退いて行ってる

Y ははははは

K「タンバリン塚本」を引きずりながら「いえ、スパイじゃないんだけど」「私はスパイじゃないんだけど」「いえ、スパイじゃないんだけど」と。方向変える時に「タンバリン塚本」をもういっぺん殴ってたからね

Y あれ、片方の手は乳首隠して、もう片方は「タンバリン塚本」を持ってるわけでしょ?

K 二人が持って二人が殴ってんねん!

Y(笑)すんません

K「タンバリン塚本」も諦めてたからね

Y ああ、もうそうなんや

K で、学校入って

Y ああ、もう場面は変わるんやね

K 音楽室入ったら「タンバリン塚本」の肖像画があった

Y ……有名なんや?

K えーっと、「モーツァルト」「バッハ」「タンバリン塚本」

Y(笑)そう言えばちょっと待って、スパイ学校って音楽室あんの?

K あるよ

Y なんで!?

K「タンバリン塚本」の肖像画が

Y いや、それはええけど、音楽室が要るの!?

K 二枚ダブっとったかな

Y(笑)だから、それはええねん!

K「モーツァルト」「バッハ」「タンバリン塚本」「メンデル」「ベートーベン」「タンバリン塚本」

Y ダブってるわ!

K(笑)

Y 有名な人やったんやね「タンバリン塚本」

K まあ……そういう事で、こいつは遅いんですよ

Y なるほど。もっと昔から肩乳首を隠してる人を探せば良かったんですね

K もっと早くからアグレッシブに行けば良かったんです

Y 見たこと無いけどなあ、そんな人

K まあ、プロやからな。お前のような奴には見つけられんかもしれん

Y ……「タンバリン塚本」には気付いても良さそうやったんやけどなあ

K(笑)