トーク之ニ「五日で五人落とすには?」
Y『こんにちは松本さん』……あ(笑)
K うわ、おれらが何をマネしとんかが完全にバレた(笑)
Y バレたなあ(笑)
K もー、気い付けてや
Y すんません。えー『こんにちはKさん』
K はい、こんにちは
Y『夜の帝王の名を一度もらって返してまたもらったと噂のKさんですが、かつて五夜連続で五人の女を毒牙にかけたという話を伺いました』
K ちょっと待って。その「毒牙」ってどういうこと?
Y(笑)ちょっと失礼な奴ですけどね。えー『そのテクニックを是非とも教えて下さい』ということなんですが……
K まあ、ホンマはまあ……こう……スパン的には合ってるところもあんねんけど……ちょっとちがう所も……まあまあ、それはええんちゃうかな
Y なに言うとんねん
K 五夜で
Y 五夜でお願いします
K まあ、最高は九夜っていうのがあるから
Y ああ、なるほど。五夜を持ち出して来られても
K そうそう。五夜の伝説の後に六夜の伝説を作ってもうて、その後にまだ七夜、八夜って重ねていってるから。この事を知らない人が、やっぱりいるからね。「そんなトコまで行ってたんや!」みたいなことを言うてるから
Y なるほど(笑)どこの記録を知ってるのかと
K そう。まだまだ上があるからね。まあ、今回は五夜で
Y はい。たぶんこの人は五夜で満足しますので
K バーで。どこのバーやったかな……O動物園の横の
Y ほう
K『マリン』っていうバーで
Y バー・マリンで
K ホンマは『マーリン』なんやけど
Y はあ、そうですか
K ガラガラーって入って行って「今日はちょっと……」って言われて、一日目は帰って
Y ははははは! 一日目早っや!
K で、二日目。ガラガラー入ってって「今日はいいかな」「いいわよ……十分なら」
Y なんで『マリン』はそんなに開かれないの?
K まだ海開きじゃないから
Y なんやそれ
K ……んでまあ、そう言われたオレは「十分でもええわ」と。もう二日目やしな
Y 二日来てんねんから、十分でも入りたいわな
K 入りたいわな。で、入ってったら女が二人いる
Y はい
K 一人は三十歳くらいかな。もう一人が五十歳くらい。カウンターに席が十個並んでて、手前から三席目に三十、十席目に五十の女。オレはとりあえず手前から攻めて行こうかなと
Y(笑)二人抜きなさるつもりだったんですね?
K そうそう。もうええかなって
Y 十分しかないのに(笑)
K 三十の女のトコにまず行って。赤いカクテルを飲んでたわ。彼女は「アタイはさー」みたいなことをマスターにだべってる所やった。マスターも慣れた感じで「まあまあ。ここに来ればいいじゃないか」みたいなことを言うてるねん
Y ようあるバーの風景ですわね
K チェリーを口に入れてた
Y(笑)
K チェリーを口に入れて「キスが上手いから結べたわ」と枝を団子結びにしてたわ
Y よう覚えてるな
K で、オレは隣に腰掛けた。三十の女はチラとこっちを見て「なによ、向こうに座ればいいじゃない」
Y まあ、言いますよね
K「いや、僕はここで」。これはもうすぐに返した。そしたら女も「まあいいわ。一緒に飲みましょう」。言うても寂しかったんやろな
Y さあ、戦いはここからですよ
K 十分間の戦いや。店ガラッガラやのに十分しかおられへん(笑)さあコイツをどう落としたろうかと
Y はい
K 相手はずーっとカクテル飲んでるわ。チェリーをこう口に入れて「キスが上手いから」とか言ってるわ
Y まだやっとんのかい(笑)
K ずっとやっとんねん。灰皿に六個くらい溜まっとった
Y すごいな!
K「コイツどんだけキス上手いねん」と
Y ははは
K コレは行っとかなアカンと。マスターに同じのを注文して、オレもチェリーをこう……(手で結ぶ動きをする)
Y 張り合えへんがな! 手使うてるやん!
K それを見て女は「アナタちょっと強引ね」
Y 強引やわ
K「技はないけど強引ね」
Y なるほどそう取ったか
K「付いていくわ」
Y ええー?
K コレでもう一人目ゲット。外で待ってるわ、言うて女は店を出ていった
Y 瞬殺ですやん
K のこり八分。とりあえず三分、一人で飲んだわ
Y 行けよ! もったいないな!
K 余裕を持たせないと、やっぱり。飲みながら五十の女を観察や。色白の鼻が高い女。「ハーイ」って声を掛けたら「(裏声で)ハーイ」
Y 声高いな
K「どうしたの? 一人で飲んで」って訊いたら「フラれちゃってサ」
Y おお、ちょっとチャンスかもですね
K「まあまあ、気にするなよ」言うてオレは「マスター、いつもの」と
Y 初めて来たんやろ? マスターそれ分かんの?
K マスターは「いつものと言われましても……」
Y(笑)やっぱり!
K オレは「だから、いつもの!」
Y 押すんや!
K そしたら三回目くらいでマスターも「ああ、アレですね」
Y 通じた!?
K んでシェイカーを振り出すわ。ここで一分
Y ロスじゃありません?
K そうして作ってくれたのが、なんかこう、青い色のカクテル
Y マスターはそう判断したんやな
K そうそう。で、五十の女に手渡したわけよ。すると女は(カクテルを投げ捨てるモーション)
Y ほら見てみい、得体が知れへんから投げたやん!
K「こんなの飲みたくないの」
Y あらー。コレはあきませんよ
K「貴方の口移しのお酒が欲しいの」
Y(笑)何言うてんねん!
K で、もうグルグルー(抱きすくめるモーション)
Y うわ、早い早い
K グルグルー
Y 三十の女は外で待っとるからね、この間
K で、五分でコト済まして
Y マスターもびっくりしたやろな
K で、外に出て三十の女連れて宿行ってまたグルグルー
Y もう意味分からんな
K これで二人ゲットですわ
Y そうや、全部で五人や!
K あと三人おるから
Y うわ、長いぞこれ
K 店は次の日も『マリン』やねん
Y 今回も出会いの場は『マリン』なんですね
K この日は三人おってん
Y 三日目は三人いたんですね
K で、一人はもう「やる?」って
Y 早っ!?
K グルグルー
Y『マリン』ちょっと乱れてるぞ
K 二人目は頑なに拒否すんねん
Y それが普通やろ
K「いや、ワタシはそういうつもりじゃないの。ワタシはただみんなと楽しくお酒が飲みたいだけなの」とそう言ってんねん
Y そらそうや。だってキミ、入ってくるなり客の一人とグルグルーやってんねやから
K(笑)二十代くらいの女やったかな。そいつは「男になんて興味ないの」言うて、オレが入ってくるなりグルグルーやった女と……
Y ……うわー!
K(笑)……グルグルグルグルグルー
Y むちゃくちゃや……
K 最後の一人はすごかった。もう目も合わせへんねん
Y 自分以外の客がみんな変やねんもん
K「私はあの人と待ち合わせなの」と
Y おお
K「その人だけなの」って言うわ。で、その日は終わって四日目。そいつは何にも飲まへんねん。訊いてみたら「お酒は飲めないの」
Y なんでバーで待ち合わせしてんのん?
K「とにかく待ってるの」とこう、カクテルグラスを
Y カクテルグラスを持ち上げてるやん!
K 飲む寸前でまたカウンターに置いて「とにかく待ってるの」
Y なんやそのフェイント(笑)
K オレも焦ってたわ、四日目やから。もう奥の手を出さなアカン、オレを見せなアカン
Y これまでの女がおかしいんやからね?
K で、横に座ってあるモノを見せた。すると「コレは……!」「じゃあ、オレ帰るから」
Y なんやろ?
K「明日はオレを待っとけよ!」
Y(笑)カッコいい!
K もう女は、帰るオレをずっと見てた。そして五日目。会うなり「昨日のすごく良かったわ」
Y なにをあげたの?
K 釣りのエサ
Y なんでですか!?
K「昨日のすごく良かったわ」
Y 何が良かったの!?
K「ニコチンがおいしい」
Y いや、ニコチンはええけど、なんで釣りのエサなん?
K そこは女のハートを読んだのよ。この女には釣りのエサ
Y この女にはミミズとゴカイ
K そうそうそう! たまたま
Y よう見抜いたなそんなん
K(笑)
Y「この女にはミミズや!」
K(笑)「ニコチンがおいしい」
Y またかい(笑)
K「あなた私をどうする気」
Y うわー心開いたね
K「いや、何もする気は無いよ」「嘘でしょ、あんなモノくれて」
Y 私にミミズとゴカイをくれて
K「何かするつもりでしょう。私ならいいわよ」
Y ええー!? もう……
K「そんなつもりは無いと言ってるだろう」ここでオレは突き放した
Y ほう?
K で、帰ろうとしたら後ろからガッと抱き締められて
Y 釣ったなー
K ミミズとゴカイで文字通り釣った訳やな。女が言うには「あんなモノ貰ったら……もう離れられないじゃない!」
Y 知るかー!
K「仕方ないな子猫ちゃん」言うてグルグルグルー
Y(苦笑)
K まあそういう話や。最後の女が一番すごかった
Y ミミズの好きな女を見分ける目が要るからね。尋常なテクニックじゃないでしょ
K そこは洞察力よ。だから「ニコチン好き」と女が言うた瞬間に「ああ、こいつミミズ好きやな」
Y なんでやねん!
K「この雰囲気、あの背中。コイツ……ミミズ好きやな?」
Y ならへんて!
K「あの髪型、この肌の色。アイツ……ミミズ好きやな?」
Y(笑)
K「あの口紅、このアイシャドウ……ミミズ好きやな?」
Y もう何もかもがミミズ好きを物語ってるんですね!
K あ……
Y 今度は何やねん……
K ……ミミズ好きやな?
Y もうええわ!