トーク之五「実録・お菓子の家」


Y『こんにちはKさん』

K はい、どーも

Y『僕は昔から童話の世界に憧れていました』

K おお、ええ事や

Y『シンデレラ、三匹の子ぶた、ピーターパン……中でも大好きなのはヘンゼルとグレーテルで、お菓子の家は一度見てみたいと思っていました』

K 見たらええ!

Y ……ちょっと黙ってもらっていいですか

K(笑)黙ってってどういう事や!

Y『Kさんはお菓子の家に行った事があるというウワサを耳にしました。もし本当なら是非お話を伺いたいです。ウワサは本当なのでしょうか』

K おらああー!!

Y(無視して)えー、そういう事なんですが……

K まあ、一つだけ訂正点があるな

Y あ、そうですか

N 怒ってたんじゃないのか?


K 行ったって言うかね……三年ぐらい住んでたのよね


N(笑)

Y(笑)住んでた……え?

K 二年半かな?

Y いや、期間はええねんけど……え?

K 一年やったかな

Y 期間はええ!

K(笑)

Y それはなに、間借り? それとも建てて住んだってこと?

K 築二十年

Y ええ!?

K 不動産屋に行って「いいトコありませんかー」って言うたら「ありますよー」言うから。そん時はお金も持ってなかったけどな

Y 持ってって下さいよ

K 敷金・礼金もそんなに掛からないらしくて。しかも一軒家で、家賃もそんなに……ナンボやったかな、まあ、今はそれはええわ

Y まあ「コレだ!」と思った訳ですね

K うん。で、不動産屋に連れられて見に行ったら、なんか……ピンポン押す所がアーモンドチョコみたいな

(失笑)

K 初めはおかしいなと思ってんで?

Y うん、おかしいなあ

K なんか甘ったるい匂いもするしな

Y その時点で帰ろうとは思わなかったんですか?

K いや、見た目はカラフルな一戸建てやったから。ココにしますって不動産屋に言うて


N 契約しよった!

K 今にして思えば、あのカラフルはアメちゃんやったんやろな

Y まあ、まずお菓子の家とは思わんわな

K(笑)そうそう。まさか不動産屋で敷金・礼金の手頃なお菓子の家を紹介されるとは思わんもんな

Y こっちは現実に生きとるつもりやからね

K そう。外観もなんかこう、水飴でキレイにやってたわ。家賃が5万で……

Y 安っすいなあ

K 敷金が……3万

 えええええ!?

K 安っすいわあ、と思って

Y 怪しいと思ったやろ、そこは!

K なんかな、お化けでも出るんかな? と思ったけど、まあそんなんは平気なタチやし。でな、引っ越して荷物とか入れてる内に……まあ、その時は夏やってんけど、なんか……甘ったるい感じの匂いがし始めて

Y ……来たぞ(笑)

K 整理が終わったんが、引っ越した日の夜中かな。汗かいたから風呂でも入ろうかと思ったけど、疲れてるから止めとこ言うて。起きたらなんか……布団が……

Y 来たぞ来たぞ(笑)

K ネチャネチャネってなってて

(爆笑)ネチャネチャネ!?

K 布団がホンマに、床からはがす時に糸引いて。ネチャネチャネチャネチャネ……って言うねん。俺はまあええかと思って

Y いやいやいや! ネチャネチャネは気になるやろ!

K プロやしええかなと思って

Y 何言うてんねん?

K(笑)で、布団入れようと思って押し入れをバーンと開けたら、中のダンボールとかチョコまみれになっとんねん

Y 家が本性を現してきたなあ

K(笑)

Y 家が牙むいて来よったなあ

K 暑いから疲れてんのかなあとか思いながら布団入れんねんけど、やっぱり手にチョコが付くねん

Y それでも、すぐに自分の家がチョコで出来てるって発想にはならんもんな

K そう、ならんから、とりあえずクーラー点けてん。18度くらいかな

Y 寒いな

K そしたらだいぶネチャネチャはおさまってん。プニュってなるくらいで


N それも嫌だな(笑)

Y 糸引いた部分がトンガったまま固まったりとかな

K そうそう。ああ良かったと思って洗面所行って、蛇口ひねったら……アレは何て言ったらいいのかな、ソーダ水的なモンが出てくんのよ


N(笑)

K アレは何て言ったらええんかな……

Y 何て言ったらええも何も、ソーダ水が出たんやろ

N ははははは

K ソーダ水かなーとは思ってんで、俺も。青色してるし、飲んだらソーダの味がするもんやから

Y ソーダ水やろて!

K おまえ……蛇口からソーダ水が出てるって事実を、そんな早く受け止められると思うか?


Y(笑)……すいません、思いません

K やろ?青いしソーダの味がするから言うて、すぐにソーダ水やお菓子の家やって思考にはならへんやろ?

Y その通りです


K おまえは頭おかしいからすぐそういう話を呑み込むねん

Y 仰せの通りです

N Y君、いいのか

K で、手もベタベタしてるからとにかく風呂入ろう思て

Y はい、ぜひ入って下さい

K 夕べのうちにセットはしておいてん。それで中入ったら……

Y どうしたんですか?

K いや、湯船になみなみと……アレは何て言ったらええんかな……


Y ……ふははははは!

K アレは何て言ったらええんやろ。青色の……

Y ソーダ水や!

(爆笑)

Y 認めろお!

K いやまさか、と思うて。入ってみたらごっつシュワシュワすんねん

Y 俺ももう気づくわ!それはお菓子の家や!

K(笑)いやまさか、と思うてな。洗面器にすくって体にかけたらめっちゃ泡立つねん

Y ふふ……(失笑)

K ソーダ水なのかなって、さすがに俺もマジメに考えたで、その時点で。でもまあ、信じられへん話やったから。蛇口ひねってソーダ水なんか、面白すぎるやろと思って

Y 愉快に過ぎると

K うん(笑)でも見れば見るほどシュワシュワしてるのよ

Y 飛び込んだらめっちゃ水かさ上がるからね

K(笑)……あの、蛇口の水出るとこがけっこう広かってんよ。で、なんか奥の方から音がすんねん

Y なんか詰まってるんや?

K うん……たまーにチェリーみたいのがトポトポトポンいうて出てくる

 わははははは

K これも花の実かなんかが流れ込んで来たんかなー思うたけどね

Y 風流やないかと思ってもうたんや

K うん。また、シャンプーは備え付けやってんけど

Y 備え付けってなんやねん

K 壁に付いてんねやないか。ボタンがあって押すと出てくる

Y ホイップクリームが出てくんのか

K ははははは(笑)アホ!めっちゃきめ細かい泡の、とても甘そうなシャンプー

Y 甘そうて!実際甘かったんちゃうんかい!

K 舐めてへんから分からんわ

Y なんで舐めへんねん!


K おまえ……甘そうやったらシャンプーを舐めんのか?

Y ……はははははは!ははははははは!

N 壊れた!Y君が壊れた!

K ただ、よう泡は立ったよ

Y ははははは!はははははは!

K 話ちゃんと聞けや

Y(笑)……はい

K そんなことが一年くらい続いたんかな……ある日ふっと気付いた

Y ほう

K「これ……お菓子の家ちゃうか?」


N(笑)

Y 一年過ごしてようやく、疑問が頂点に達したんや

K さすがの俺もさすがにな

Y さすがにな(笑)

K ピーンと来たわ

Y 遅いなあ

K でも一年住んでたからな。慣れてもうたんやろな

Y は?

K 別にええかと思うて

Y いやいや……いやいやいや!

N 慣れてもうたかあ

K もうホイップクリームで頭洗うのも当たり前になってたから

Y ホイップクリームやったんやないかい!

K(笑)……でも一年経って、問題が出てきたのよ


N 問題自体は一年前からあったと思うけど

K 虫がわいてきた

Y それまた……遅っそいなあ(笑)


K 初めはキレイにしてたから、そんなモンも出んかったんやろな。でも一年住んでたらさすがにちょっと散らかってくるやんか

Y まあ、条件が整ってくるのかな

K そうそう。それでもう……柱とかもだいぶいかれてるわけ

N だいぶいかれてる(笑)

Y コレはイカンですよ

K それで気づいたようなトコもあるのよ。柱が3分の2くらいなくなって来たから

Y どうにか3分の1の時点で気付けへんかったんか?

K(笑)で、もう家の中には何もないわけよ。ぜんぶ虫に食い尽くされて

Y え?なんもないの?

K ぜんぶ備え付けやったからね。で、そろそろ……引越ししようかなと

Y(笑)一刻も早くな

K 危なそうやからな。なんせ中はなんもないから。部屋じゃなくなってるから

Y 部屋じゃなくて?

K 甘ったるい空間よね

Y(笑)ただただ甘ったるい……

K 甘ったるさの統べる部屋になってたから。とにかく早く引っ越そうと思って

Y 壁や天井があるうちにな

K そう、一分一秒を争う事態やと思って部屋探しを始めたわ……これがだいたい半年くらい掛かったかな

Y 掛かりすぎや

N じっくり探したなあ

K ちゃうねん、いいなって部屋には幾つも出会ったのよ。ただ、だんだんその安さを疑ってくんのよ。どれも「コレもお菓子の家ちゃうんか?」みたいな

Y(笑)「他にもあるんちゃうか?」と

K そうそう。また当たったらエライことやから。そしたら敷金礼金の安いとこがどんどん怪しく見えて来んのよ

Y(笑)でもアンタ、早うせんと……

K そうしてるあいだに、壁と天井は無くなったわ

Y うわー、やっぱり


N ははははは!

Y 早うせんから!

K まあ、なんで無くなったんかは分からんのやけどね

Y(笑)虫が食うとんねん!

N あっはははははは!

Y 虫が食うとんねん!お菓子の家やから!

K(笑)……ああ、なるほどね

Y なるほどやあれへんがな……

K で、もう物件も見つかって引越し屋さんを呼んだのよ。もう運んでもらうモンもないねんけども

Y 残っててもガビガビやろ

K まあな(笑)最後の確認に大家さんとこ行ったんやけど、ほら、最後に壁の穴とかは弁償せなアカンやん

Y 大家さんは一応おったんやな?

K なんで今そこに引っ掛かんねん

Y ……わはははは(爆笑)

N ヘンなツボに入った!?

Y(笑)……はい、続けて

K おまえ、さっきから……(笑)まあ、最後に大家さんに壁の穴とかを報告せなアカンやんか

Y 壁もないけどな

K 壁もないねんけどな。大家さん呼びに行って、二人で帰ってきたら……なかってん

Y 壁がやろ?

K いや、なにもかもが

 なにもかもが!

K 理由は分からん

Y それはもうええ!

K(笑)……まあ……不思議な体験やったね

Y(笑)おい!

K ははは(笑)……あの、大家は「お金なんていいのよ」って言うてたけどね

Y ……(まだ睨んでいる)

K ……え、だから……不思議な体験やったよ?

Y ははははは!(どつく)