第ニ回之一「たまには昔の話を」
Y 今日は昔の話をしようかということで
K はい、思い出話を
Y 小学生の時の
K(笑)なんで小学生の時やねん
Y そらアンタ、高校は違うから共通の思い出なんかあらへんがな
K 中学校はどないやねん
Y おまえ不登校やったやんけ
K はははははは(笑)うん、じゃあ小学校の時を
Y 三年生の春までほとんど来んかったやんけ
K(高い声で)トキヲ!
Y はい(笑)小学生の時を。まあ、僕らの付き合いは古くてね
K 古いなあ
Y 小2からですよ
K もう十年ぐらいやな
Y 小2の5月からや
K あ、そこまで憶えてへんわ
Y 5月にあなた越して来たんですよ
K ああー、そうやったかなあ。そこまで鮮明には憶えてないわ
Y 僕も第一印象がどうやったか忘れましたけど……
最初の思い出っつったらアレですよ、僕の君に関する一番古い思い出は、
ホラ、教室でイス振り回して暴れてたとき
K ああ、アレな……ええと、あの
Y ん?
K ここを見てる皆さんは、ここを読んで僕のことを
ややこしい人間やと思うかも知れんけど
Y(笑)思うかも知れんけど
K それは事実ではない
Y 事実ではないの?
K イスを掴んで暴れたのは事実やけど、それは何ていうかこの、
圧迫された社会の中で小さな子供が吐き出した、一つの……
Y えらい話やなあ
K ……正義にしか過ぎない
Y 正義!?
K それを頭に入れておいて欲しい
Y 尾崎豊みたいやなあ
K(笑)
Y 俺じゃなくて、世界が異常!
K ははははは
Y この世界で狂うなら、俺は正常だ!
K うわ、なんか誰かそんな言葉残してそうやなあ
Y うん、なんか聞いたことあるわ
K まあそんなこともあったよ
Y あの事件が最初の記憶やな
K うーん、でもアレを「事件」って言われんのも複雑やな
Y まあ、事件というか一つのポイントやね、この付き合いの
K そうやろ?
Y ……いやでも、見方によっては全然「事件」ではあるよ?
K 傷害事件や
Y 刑事事件やでほんまに……
ただ、アレと今の状態をなにが結んだんかが分からんな
K あ、それは分かる
Y 別に僕がアレを止めに入ったとか、そういうんでもないからなあ
K ボクは君とどこで会ったんか、まっったく憶えてないからな
Y いや、ほんまやねん
K(笑)……なあ?コレ完全に言うてまうけども
Y 僕らはいつ出会ったの?
K もう全然分からんな(笑)
Y 時期はな?時期は分かんのよ。小2の5月やがな。でも何で?
K ボクはあのころ、一人で暴走しとったからね?
遊ぶのも、授業チャカすのも、ぜんぶ一人でやっとったから
Y うん、そう
K どこで?
Y どこで僕は入って行ったんや
K なんで君は入って来たの?
Y なんで俺がおんねん!?
K 分からんわ(笑)共通点が分からん
Y 分からへんねん……
K なあ?どこで会ったんやろ?
Y うーん
K まあ、あの事件が一つのキッカケなのか何なのか
Y 自分で「事件」言うてもうとるがな
K(笑)
Y ……僕ねえ、コレかなって思うのは
K ほう?
Y あなたあのころ、よく勝手に授業抜けてたじゃないですか
K うん
Y そしたら捜索隊って言うか、誰かが捜しに行かされたやん
K ああ、そうやったかなあ
Y たぶんアレをやると授業サボれるからやったんちゃうかなあ
K なるほどな
Y うん、僕はしょっちゅう志願して、
君とそこらでボーっとしてた気がするんやけど
K それはちゃうわ
Y ちゃうんかい(笑)
K それはもう一段階乗り越えた状態での話やんか。ステップ上がる瞬間があるがな
Y うーん、そうやなあ
K 三年やと思うねん
Y 四年の時には完全に仲良くなってたからな
K やろ?四年ではもう毎日のように遊んでたやんか
Y そうそうそう
K 三年の時やわ、やっぱり
Y 三年やなあ
K でも何で?っていう問題は残るねんな
Y 戻って来てまうな
K どこでキミはボクに興味を持って、どこでボクはキミに興味を持ったのか
Y やねえ
K ……完全に気持ち悪い男の子の世界やけどな
Y やねえ(笑)
K まあ、そんなんも傍から聞いたら面白いんかな
Y ははは
K 何で遊びに行ってたんやったかなあ、あのころ
Y ほんまやで、何で遊びに来たんや!
K(笑)俺はなんで遊びに行ったんや?
Y あのいつも持って来てたクッキーはどういう基準で決めたんや!
K なんで一日一個リンゴ持って来て台所で剥いてたんや?
Y なんで俺はあんな部屋に上がらなあかんかったんや!
K ははははは(笑)なんで犬は俺の部屋をめちゃくちゃにしてたんや?
Y なんで俺はあのホコリっぽい部屋に入ったせいで
熱出して学校休まなアカンかったんや!
K(笑)ちょい待て
Y アレなかったら皆勤賞やったのに
K なんでおまえはそれを皆勤賞ダメになった理由にするんや
Y いや、絶対アレやもん。ものすごいホコリ吸って、次の日39度出て……
K それはかなりの勘違いやわ。
おまえはそれまでも俺の家にちょいちょい来てたからな?
Y あの日は特別にヒドかってんて!一歩入った瞬間にもう、床が真っ白やったもん
K いやいやいや!それはないわ!
Y なんかもう……
K なんやねん
Y ……キノコみたいやったで?
K(笑)どんなやねん
Y ははは、どんなやねん
K 逆にどんなやねん、それ?
Y あの日にコレ貰ったんや
(背後の棚から『ポケットモンスターSPECIAL』のコミックスを取り出し、
Kの目の前に突き付ける)ほら!6巻と7巻!
K 証拠なんか、それは?
Y あかん、なんの証拠にもなれへん(笑)
K あげたんはなんとなく憶えてるわ
Y 昼に読んでたもん、もう泣きながら
「こんなんなるんやったら自分で買うて来たわ!」言うてたわ
K(笑)いや、だから、俺は絶対……なんやろうな、ここはケンカになってでも
Y 否定したいと
K うん、ここはゴメンやけど
Y 否認ですか
K 否認やね。あれは君の力不足やわ
Y 力不足かいな、俺の!?
K 皆勤賞への意欲が所詮その程度やったっちゅうことやね
Y うわあ、腹立つわ
K 俺やったら皆勤賞やで
Y ………(冷笑)
K(笑)なんやねん、その顔は!?
Y だって君、皆勤する気なんか無かったやん
K いや、んなことないがな!ちょっと考えてみいな
Y なによ
K 俺は6年生の4月に、近所のおじいちゃんが死んだんで休んだだけやんか
Y 近所のおじいちゃん?
K 農業みたいなんやってたおじいちゃんが死んで、可哀想やからお通夜に行った。
次の日の葬式も行った。この2日間しか休んでへんはずや
Y なんでお通夜行くのに学校休むんよ
K 気持ちの整理があるがな
Y よう分からんわ
K それまでは「皆勤賞に一番近い男」って言われてた
Y 誰にや!?
K ……いや、みんな言うてたわ
Y(笑)聞いたことないわ
K Nさんも言うてたよ
Y え、Nさんも言うてた?
K(笑)
Y 僕だけ聞き逃したんかなあ?
K なんやろ……ずっと言うてると、怒られてしまいそうで嫌やな
Y まあね
K でも、ほんまに。そのじいちゃんが死ぬとこまでは休んでないですから。
皆勤賞に一番近い男と呼ばれて
Y 誰にやねん、だから!
K あんなにも
Y そんなにも?
K これぐらい(手を広げる)
Y そんなもんかいな
K ははははは
Y 思ったより小っこいやんけ
K ……いやいや、だからこのぐらいですよ
Y いくら君が「あれ」とか「それ」とか言うても、
僕に実感として「これ」っていうのがある訳じゃないんで
K(笑)……え、なんで?
Y いや、なんでて言われても
K「あれ」「それ」と来たらもう頭の中には「これ」が出てくるもんなんちゃうの
Y「これ」がスッポリ抜けてるから!
K ははははは
Y「あれ」と「それ」はまだ認めてもええがな!第三者的なもんやから!
でも「これ」は俺の問題やからね!?
K ははははははは
Y「これ」はよう出せへんわ
K そうか
Y「これ」はないねん……
K ないかあ
Y 結局みんな「ここ」にあって初めて自分で言うからね
K(笑)まあね……でも俺は言われてたから
Y そうですか
K 仲間内では
Y だかっっっるァ、誰にやねん!
K おまえ……めちゃくちゃ舌巻いたな(笑)
Y 舌も巻くがな!誰やねん、それは!おまえの仲間は!
K いや、それはちょっと
Y 言えや!俺はそれを聞いて訪ねて行ったるわや!
K 何時に?
Y なっ……十二……十一時半にや
K それならええわ
Y おう
K ………
Y ………
K ……いや、でも言われてたよ、だから
Y そうかいな
K 皆勤賞に近い近いて
Y なら休んだ時は、やっぱり話題になったんや
K うん……なんやったかな、校長先生が?その件で解任になったとか聞いたわ
Y どえらい話やな
K その話で?うん、解任になったらしいわ
Y 大変や
K そういう話を、休む二ヶ月前に聞いたけどな
Y は?
K その話を聞いて二ヶ月ぐらいした時に休んだんやけど
Y ……もう、学校行ったりいな
K(笑)
Y 休んだりなや、校長先生のクビ懸かってんの知ってんねやったら
K お通夜の前には改めて聞かされたわ
Y それもう、君が学校行った所で動かせへんことやったんちゃうんか?
K うん……でも解任なったんや
Y もう良くない?皆勤賞の話
K はははははは(笑)……いや、俺はもっと膨らませると思う
Y あああ、もう、ややこしいな!
K(笑)……俺、中学校の時も皆勤賞
Y(遮って)嘘を吐くにも程があるやろがい!
K はははははは(笑)
Y おまえニ年間も不登校やったやないかい!
K クラスから三番目の皆勤賞やったけどね
Y おまえと一位、二位以外が全員二年休んどったんかい!
K 誰かがそう言ってたけどなあ
Y ほんまに気になるわ、それ
K 誰なんや
Y 分からへんのかい(笑)
K まあ、皆勤賞の話はもうええわ
Y うん、ほんまにもうええわ
K こっからどうして行くかやな、話を
Y 皆勤賞でグイグイ行ったから、戻って来るのも時間掛かるでコレ
K(笑)
Y 最短で結んでも変な道通らなアカンで
K いや、そこはもう男の力でねじ伏せてやるがな
Y 力技で?
K どんな相手でも
Y ほう
K 金太郎のように
Y うん
K 拳一つで
Y ……うん
K 女を抱くぜ
Y(どつく)……もう、付け足し付け足しで全然ねじ伏せれてへんやんか
K ははははは(笑)
Y ごっつ外堀から埋めてるやん
K(笑)まあ……
Y まあ
K ……『ロングバケーション』
Y ………
K ………
Y(周りを見回して)……別にどこにもないよなあ
K(笑)
Y どっから出て来たんや、いま?
K ははは……え?
Y 秋の三連休も終わったのに今さら……
K え?
Y え、なに?
K(どこかをじっと見て)……ああ、やっぱり『ロングバケーション』ね
Y ないないないないないない(笑)ないわ、どれや?
K ……あのな、コレ一回切った方がええと思うわ
Y 録音を?
K っていうかもう、話自体を。訳分からんもん、もう俺も
Y ははははは(笑)
K 俺らの昔話なんかしても、もう訳分からへんもん
Y そうやなあ
K 面白く出来るんやったら、君が今から面白くしてくれてもいいけど
Y 切ろうぜ!
K な(笑)
Y 切ろう、切ろう
K 俺らの過去は
Y 不明!また来週!