第一回之茶屋『レンタルチルドレン』『ベイビー・オブ・マコン』『自由論』
Y はい、次の新コーナーです。一口で言えばレビューコーナーですね。あのー、ぼくらね、言うても本や映画を人並みに見ますんで、ここでは最近読んだ本、見た映画のお勧めのものを語りましょうということで
K これが新コーナーと呼ばれること自体ボクは不服やけどね
Y どっからどう見ても新コーナーやがな
K そう?
Y まあ、去年ぐらいはたまにこんな様相を呈してる時はあったけども
K ……うん、まあ、消えてしまったものをとやかく言うてもね
Y そうね(笑)ハイ、それでは最初のお勧めですけども
K 少なくとも、その捌き具合からは新コーナー感はせえへんわ
Y(笑)るさいわ。ちゃっちゃっと行ったらええねん。なんか最近ええなってやつありました?
K ボクここんとこよく言ってますけど、やっぱアレですね。山田さん
Y 山田悠介ね
K それね。ずっと言うてますでしょ
Y そうですね。データ消えましたけど
K 消えましたけど。ちょいちょい『スイッチを押すとき』とかの話をしてました
Y よう言うてるよね。五年くらい前かな、『あそこの席』の映画を自分が借りてきて
K そうそう。二人で見たんですけども……二人で激怒したというね
Y クソみたいにオモロなかったねえ
K スタッフ全員の家探してどつき回したろか言うてね
Y 中村義洋監督なんですよ。三年ぐらいして『アヒルと鴨のコインロッカー』見たら、まあ、許したろかなと思いましたけど
K あ、自分はもう許したん?
Y んー、メジャーになってきたらね、さすがにちゃんと仕事しよるね
K そうなんや
Y うん。で、すいません、今回は山田悠介のどの作品をご紹介しましょう
K 色々あるんやけど……コレっていうのがね、そのー、人間というものをすごくちゃんと描いてるなというのがあって
Y ほう
K あなたは一冊でも読んだことありますか
Y 山田悠介を。いや、未だにないですね
K 当然のように『あそこの席』と言いながら
Y すらすらと言いながら(笑)読んだことないです。大学図書館にはないですよ
K インテリは何を読んでるの
Y インテリ言うな。今は『荒涼館』ですよ
K「インテリ、入ってり」やん
Y なんじゃそら?
K『レンタル・チルドレン』っていう本なんですけども
Y ふ……(笑)おお、タイトルからしてなかなか
K なかなか面白そうでしょ。まあ、簡単に内容を言うと……子供が事故で死んでしまうのよ
Y 死にますね
K で、ある会社が「レンタルしないか」って言うてくんのね
Y とんとん拍子やな
K まあ、最初は「レンタルなんて……」思うやんか。主人公としては
Y 怖いしね
K でも、お母さんがもう病んでしまって
Y 寂しくてね
K もうヘンになってしまって。それで主人公は、気晴らしというか気休めというか、見るだけ見てみよかー言うて嫁さんをその会社へ連れていくのよ
Y はい
K そしたらパンフレットみたいのもらって。子供がめっちゃ載ってるカタログみたいの
Y おおー
K 最初はオカンはやっぱ興味を示さないわけ。自分の子どもが好きやったからね。主人公も「うーん」言うて見てたんやけど、一番後ろのページに……
Y ……あ、めっちゃ似てるやつがおるんや?
K おんのよ。オトンは「えー!」言うて。オカンも一目見て「私の子や」言うて
Y うわ、認めたがな
K 認めてもうてんねん。認定してもうてんねん
Y 判子をバーン押してもうたんや
K それはもう押してまうねん。でね、「一時預かり」と、そのあと「ご購入」まで行く場合があんねんけど
Y 買えんねや!
K 借りてみて良かったら買いもできんのよ。で、とりあえず「預かり」でその子どもを連れてくんねんけど、お母さんはもう完全にこれを自分の子や思ってもうて
Y 何事もなかったかのように
K 仏壇とかあんのに
Y ははははは(笑)うわ、シュールというか、すごいな
K「やっと帰ってきたのね!」「どこ行ってたの」みたいになって。まあ、それで生活を送ってたわけ。もうそのまま「買う」ってなって
Y 子供も別に粗相はなかったのね
K なかったのよ。それで買うことになったんやけど……なんていうのかな、この辺で「あれ、これオトンもおかしいんちゃう?」て思ってくるのよ
Y あ、オトンも若干……
K オカンに隠れてたけど、こいつもちょっと狂っとんちゃうかってなってくんのよ
Y なるほど
K んで、だんだん……まあ、裏表紙に書いてあることやから言ってええと思うねんけど。急激にこう、衰えてくんのよ
Y オトンが
K いや、子供が
Y おお!
K なんか染みみたいの出来てきて。肌もガッサガサんなってくんのよ
Y ありゃありゃありゃ
K なんか「溶けてるー」みたいになってきて
Y(笑)怖すぎるやろ!
K でもオカンはまだ自分の子として扱うのよ。なにも見えてないねん、もうおかしなってもうてるから。オトンは「気持ち悪ぅ」言うてんねんけど
Y オトンは分かると
K 自分もおかしいけど、そこは分かるらしいねん
Y まあ、だいぶイってへんと、子どもがケロイド状んなったら気付くわな
K そうそうそう(笑)で、オトンがもう「無理や」なって。オカンに内緒で子どもを捨てに行くのよ
Y 子どもはどんなヤツなんよ?
K いや、普通の子やで。普通の子やからもう、この時点でおかしいのはオトンやんか
Y そうねえ。捨てるって発想になるのはね
K そう。病院行っても「分からへん。研究材料にさせてくれ」言われて
Y みんなおかしいやんけ
K でもう、養護施設の前に捨ててきて。「良かったわー」言いながら帰ってくんねんけど、何日かしたら……
Y 帰ってくるわな
K タッタッタッタ、いうて帰ってくんのよ
Y まあ普通の子はね、置いてかれたら帰ってくるわね
K(笑)何百キロと離れた所から、足ズルむけで帰ってくるわけですよ
Y おお、怖いね
K もうオトンは震え上がってもうて。買った会社に電話すんねんけど「病気とかまったくないですから」言われて
Y ちょいちょい大人がおかしいなあ
K でまた捨てに行って。今度は家も引っ越してしまうわけよ
Y なるほどね
K オカンは泣き叫ぶのよ。「あの子がいないー」言うねんけど、それも無理やり引っ張って行って。新居で何ヶ月か過ごしてるうちに、やっと子どもが死んだことも受け入れるようになってくるわ
Y おお、良かったね
K まあ、ここから先は……ええかな。ただオカンが良くなってくのと入れ替わりにオトンがおかしなってくのよ。そのレンタル会社のことを色々調べだすわけ。で、どうやらこの会社はある養護施設から子どもを仕入れてるってことが分かって、そこへ乗り込んでいくんやけど、そこから……うん、まあ、そこからがラストかな。オトンと会社の一騎打ちみたいなことになってくのよ
Y 楳図かずおみたいな話やな
K(笑)まあ、あの絵が合うかどうかは分からんけども
Y はい。Kさんのお勧めで、山田悠介『レンタルチルドレン』でした
K あなたはなんかないの?最近見たもの
Y 僕ですか(笑)最近ねえ……あのー、大学の図書館の地下にね、ビデオとかDVDのいっぱい置いてあるコーナーがあるんですけども
K うん
Y このまえそこで映画見て、ビデオを棚に戻すときに、近くにあったのがフッと目に留まって。なんか真っ暗な背景に、血まみれの赤ん坊がドーン!って感じのパッケージなのよ
K おおー
Y『ベイビー・オブ・マコン』って映画なんですけど……なんて言ったらええのかな、舞台劇なんですよ。舞台でやってる劇を撮ってるみたいな映画で
K ほう
Y 最初にものっすごい醜いババアが
K いきなり?(笑)
Y ものっすごい醜いババアが子どもを産むとこから始まるわけですよ。この赤ん坊がものっすごいキレイやねん。「奇跡や!」ってなって
K こんな汚いババアから(笑)
Y 玉のような子が!ってなった時に(笑)、このババアが先に産んだ娘が「これは私が処女懐胎で産んだ奇跡の赤ん坊です」みたいなウソを付きだすのよ。ババアを地下室にバーン閉じ込めて、赤ん坊を使って金儲けを始めるわけ
K おお、悪い姉やな
Y 悪い姉ですよ。お分けしまっせーみたいな感じで服とか神とか、挙げ句は血まで売ったりしとんねん
K おお、極悪な姉やな
Y 極悪な姉ですよ。ただ、だんだんこの赤ん坊がマジで神掛かった感じになってきて。「私はすごいやつだ」みたいなことを喋りはじめるのよ
K 聞いた感じぜんぜんすごくないけども
Y あははははは(笑)
K「私はすごいやつだ」て……(笑)
Y いや、そんなふうには言うてへんかったけど、なんか言いよんねんて
K まあ、とにかく乳児がしゃべってますからね
Y そうそう。で、なんか不吉な予言を始めるんですよ。姉が「私たちはきっと幸せになるわ」言うたら「おまえは不幸になる」とか返してくるわけ。おまえはひどい死に方をして、こうなってこうなって……ってバンバン言うてって。「あなたの話はなんで出てこないのよ」って訊いたらば、「私は死ぬからだ」……
K 言うねえ
Y 言うでしょ(笑)そしたらそのうち、教会が文句を言うてくるわけよ。「処女懐胎なんかわるわけないやろ」言うて。おまえらがそれ言うか、とも思うねんけど(笑)
K まあ、マリア様だけにしときたいわな
Y そうそう。そしたら、姉が牧師を誘惑してくるわけ。「処女でないかどうか確かめてみなさい」言い出して、牧師もあっさり乗ってもうて。で、牛小屋でいざコトに及ぼうとしたところに赤ん坊がバーンてやってきて
K やって来たんや!
Y 素っ裸の赤ん坊が!西部の酒場みたいにバーンてドア開けてきて。「おまえは私を神的存在たらしめるために処女を守らねばならんのだー」みたいなこと言うて牛を指さしたらば、この牛が男に飛びかかっていって、もう……大事な所をぐっちゃぐちゃにしちゃうわけ
K(苦笑)
Y 赤ん坊も返り血で真っ赤なわけ。ここがパッケージになったわけやけども
K(苦笑)
Y んでまあ、そんなことがありながら、もう赤ん坊も弱ってきて。血とか抜かれてるから
K 神やのにな
Y 死ぬやろ神でも血ィ抜かれたら。とうとうそのまま死んでもうて。姉貴の嘘もバレてまうわけ
K おお
Y で、姉貴が裁判に掛けられて、まあその、惨いことになるわけなんですけども……これがね、ずっと劇なんやけど、ちょいちょいコレを見てる客の描写が挟まんのよ
K ほうほう
Y どっかのホールみたいなとこで劇をやってんねんけど、やってる間もちょっと客席ナメみたいなアングルの時があんのよ。ちょっとパッパラパーみたいな坊っちゃんがコレを見ながら「余はあの役をやりたいぞよ」みたいなん言うて、なんやったらちょくちょく飛び込みで入っていったりするわけ
K ヘンな映画やな
Y そしたらもう、どっから劇中劇でどっから映画の筋なんかよう解らんようになってくるのよ。パッケージにそこが肝やみたいに書いてあんねんけど
K ああ、そうなるとちょっとオモロイなあ
Y ……そう思うやろ?
K うそ……(笑)え!?それでも?
Y 最後は姉貴に死刑判決が出んねんけど、なんかの決まりで処女は殺せへんと。先に(13+13+13+13)×13人に××さしてから殺すと(笑)
K わお、わお、わお(笑)
Y 最後10分はもう、延々それなわけ。その傍らでは赤ん坊が細切れにされてまだ配られてるし
K きっついな
Y やりたいことは解らんでもないのよ。坊っちゃんはもう気持ち悪くなって吐いてまうねんけど、そこにお付きの人が「これはただのお芝居です、どうか苦しまないで下さい」みたいなこと言うたりね。要するにその、赤ん坊がいいように利用されたりするような気色悪いことでも、僕たちはすぐお芝居みたいにしてごまかしちゃうよねとか、まあそうなんやろなとは思うんですよ
K うーん
Y でもちょっと高尚ぶり過ぎてる気がしてねえ。そこまで構えて言うことでもないでって。また、細切れシーンの赤ん坊がハリボテ感丸出しやねん。そこは本気ちゃうんかいと
K あははははは(笑)
Y 確かに二択なんやけどね、ここは。ちょいちょい劇ですよって描写は入れなアカンから……うーん、僕がまだ勉強不足なだけで、色々考えたらこっちが正しいんかも知れんねんけど。でもパッと考えたら、ここは出来るだけ本物に近い感じでグロテスクに見せるとこちゃうかなと
K そうねえ
Y てなことで、総括してまあ、そこまで飛び抜けた映画でもないんちゃうかと。これと『アンダルシアの犬』を二本、バーンって返本台に置いて帰りましたけどね。……ええと、そういう話ですよ
K もう一冊本の話していい?
Y どうぞ(笑)すいません、あんまり広がらんかったわ
K これはホンマに読んだ方がええんちゃうかなと思って。いまオレの薦めたい本ベスト7ぐらいのトコにおんねんけど
Y(舌打ち)ほなら1を言えや
K ごっつ怖いやん
Y まあ、今回は7位ね
K うん。えー、『自由論』なんですけど
Y おー
K サンデル先生の本読んでたら出てきたんやけど
Y それ『自由論』の話でええんかいな
K サンデル先生の本のしょっぱながこれの説明なのよ。それ読んでたら面白そうやなと思って。こんど読んでみようかと思ってんねんけど
Y 読んでへんのかいな
K 読んでなくてもお勧めしときたいこともあるやろが
Y ちなみにサンデル先生の本の方は何位やねんな
K ……これね、『自由論』、ミルって人が書いてて
Y 言えへんのかい
K ある功利主義の哲学者がおって、ミルはこれの弟子なんやけど
Y ベンサムね
K そう、そう、ベンサム……その名前を言うてもうてエエんか分からんけどね
Y なにがアカンことがあんねんな
K ミルはベンサムを支持してんのね。その上で『自由論』を書いてんねんけど……オモロイのが、色々書いてるうちに、ミルの考えはベンサムのと全然ちがう功利主義になっていくわけ
Y 重点が幸福の量から質になってくのよね。「満足した豚より満足しない人間の方がいい」ってやつ
K ごっつ知ってるやん
Y 僕はそっちを読んでるもん
K ………
Y ………
K そう、だから、まとめてしまうとね
Y まとめられんのか?
K 重点が幸福の量から質になってくのよ
Y わははははは(笑)
K 満足した……
Y(小声で)豚
K「満足した豚より満足しない人間の方がいい」ってミルは言うねんけど
Y(笑)ええこと言うなあ
K だからなんてのかな、けっきょく、ベンサムの一番の支持者でありながら、最大の批判をしてるのもミルになってるわけ
Y なるほど。誰かを支持するってそういうことやないとアカンのかも知れんね、本当はね。アカンとこの指摘まで含めて受け継ぐっていうね
K そうそう。それで言うとオレはやっぱ、誰かを支持するってそういうことやないとアカンと思うわけ
Y わははははははは(笑)
K まあ、先にサンデル先生のを読んだ方がええんちゃうかなとは思うわ。あれで全体は分かるから
Y そうね……なんやろね、この年頃のせいなんか何なのか、哲学書は読むことになっていきますね
K 結局はなっていくなあ
Y あのー、全く新しい知識を仕入れるというよりは、「コレはこの人が言ったことになってんねやな」っていうのをね
K そうそうそう!
Y ね、意外とみんな、言語化してないだけで、内容はふつうに日頃ぼんやり考えたりしてることやから。これを誰かと話し合うときに、一から例挙げて変形していってってやるとややこしいから、「誰々の○○で言えば……」ってなってくわけで
K うんうん
Y 学問って、それで言うと歴史に全部まとまるとも言えるのよね。理論を整理して、誰かの名前でまとめて、それを覚えて使いながらまた先を考えていくっていう
K ええ感じの話になってきたやんか
Y そうね。『ベイビー・オブ・マコン』では終わらへんよ。この感じのうちにブツっと切った方がええんちゃうかな
K 最後にまとめてもいい? いまの話を聴いてて「そうか!」と思ってんけど、学問って全部……
Y(笑)もうええわ!