第一回之西 「涙の規定量」
Y はい、新体制オールデイの最後は、おなじみのデタラメトークでございます
K デタラメってのはなんのこと?
Y まあこれまでやってきたようなことですよ。あなたの口からデマカセのウソ体験談のコーナーです
K デマカセってのはなんのこと?
Y まあ認めんわな。でも……
K 僕はここで嘘をついたことは一度もないからね。君が十二年の僕との付き合いで何を感じ取ったんか知らんけど、それだけは言うとくわ
Y えらいマジやな
K 僕はこれからも君を信じるから。ナミダ
Y なんなん、今の「ナミダ」ってのは
K「ここで泣いたよ」ってことやんか。いわゆる「(涙)」をここで出しといてくれたらええねん
Y なるほど
K 僕はこれからも君を信じるから(涙)
Y 泣いてますよ皆さん。いまKは泣いてますよ
K ……まあ、でもこの涙というものもね
Y うん?
K 一生のうちに規定量ってものがあるからね
Y 始まったみたいですよ
K 規定量がある以上はそうそう大盤振る舞いもでけへんわ
Y(コホン)すみませんが
K んんん?
Y(笑)型が完成しとるがなこのコーナー
K(笑)歌舞伎みたいなものになってきてるな
Y いま仰った規定量ってのはなんですか?
K 涙の規定量
Y それはなんですか?
K んんん?
Y(笑)それやめて。涙には規定量があるんですか?
K あるんです。涙というもの、あの人が哀しいとき嬉しいとき感極まったときに、その両の眼から流れ落ちるといわれるたいそうキレイな水の塊。あれには規定量があるんです
Y はあ
K テレビ番組でほら、あるでしょ。みんなでレストラン行って、設定金額に総額が近くなるように注文するみたいなの
Y ありますね
K ああいう感じで設定されてるのが……200……いや、2000……
Y 設定中みたいなので待ってみましょうね
K ……2000ccかな
Y 2000ですか?
K うん、2000ccやね。2000ccから10000ccまでが涙の規定量と言われてるね
Y 10000!?
K そうね
Y そんなに流すやついないでしょ!?あ、いや、その前にどんぐらいのスパンで言うてんの!?
K ……(笑)なんでそんなウロ来てんの
Y ははは(笑)ほんまや、なんでこんなうろたえてんねやろ
K スパンはそら、一生分ですよ
Y ああ、一生ね。まあ、一生やったら……うーん
K(笑)まあ、まあ。これも一般規定の話やから。もっとグレードの高い特別規定があるのよ
Y どういうこと?
K 5000ccから5005ccまでなの
Y 狭っ!
K この特別規定にはめてくるっていうのはすごい話なの。いや、これね、本当にすごい話なの
Y(笑)すごいと思いますよ、そりゃ
K これは神様が決めてることやからね
Y マジで?
K そうですよ
Y 神様が決めた涙の規定量について君は知ってるわけや?
K 知ってるというか、まあ、知っちゃったわけね
Y そこが伝わってくる立場におんねや
K これね。天使っているでしょ
Y いますね
K ……(笑)
Y ……いますねって(笑)まあ、「いるの?」って言うとこか
K いるでしょ
Y いるの?
K これ実はね……おるのよ
Y ええーっ!
K こいつらがこう、涙の流れる時にじっと見てるわけよ。涙の霊魂を数えてるわけ
Y 涙の霊魂?そんなのがいるの?
K いるのっていうか、あるの
Y ええーっ!
K 白々しいねん
Y すまん
K 1人の人間に2体の天使が付いてるとされてるね
Y ほう
K それが尿瓶みたいのを持ってるの
Y なんか嫌やな
K 僕が涙を流すと、それが天使の尿瓶に収まるわけ。どうせ自分がごちゃごちゃ言うから先に潰しとくけど、全然汚くないわけ
Y 潰された!
K いわゆる「聖水」なわけ
Y いわゆるかあ?
K この辺は聴く側の度量の問題やで
Y 多くを求め過ぎちゃうか、僕に?
K(笑)それで、仮に君が生涯に涙を3000cc流したとするわね。これは規定量内だから、天国には行けるわけ
Y なるほど……天国「には」ってのは何なの?
K 天国には行けるけど、天国でも最下層やねん
Y えっ
K「3000ccじゃあなあ……」って天使が呟いたんやね
Y 中途半端やと(笑)
K 置きに行ってる感が半端やないから。天使たちはやっぱり、5000から5005の間を狙うような度胸を見せてほしいわけよ
Y 無茶言うなあ……そのルールを知らせもせんくせに
K(笑)でも問答無用で最下層ですよ。そこでは午前6時から午後9時までの労働が課せられるわけ
Y ブラックやな!それ天国か!?
K でも睡眠必要ないですから。疲労もないですし
Y あ、そうなんや
K 逆に9時間まるまる余暇ですよあなた
Y なんの逆か知らんけど。でも天国言うてんねんから、せめて余暇の方が多くあってほしいけどな
K そこやんか。もし5000から5005のあいだ通ったらどうなると思ってんねん
Y なるほど。こっちは最上級や
K なんと……尿瓶を持つ係になれんねん
Y これは僕の価値観が揺らいできたぞ。尿瓶持たされんの?
K いや、だから……天使やで? 神様からバーンと使命が下されんねん
Y 尿瓶持たされんねや?
K おまえ、まだそんなんが気になるようなとこに立ってんのか?
Y 僕はそんな自分で居続けたいよ。尿瓶持たされんの?
K そこはもう潰しておいたはずやん。天使やからやで?
Y 天使やのにやんか
K ずっと聖水を集め続けられんねやで?
Y 意味合い違ってきてるもん、聖水の。15時間どころか24時間労働やないか
K(笑)もっとすごいのが、10000ccピッタリ
Y まだ上があるんかい
K これはもう裏ワザみたいなもんやけどね
Y まあ、意表を突くわな
K 突かれまくるやろ。5005行ったらもうアカンと思ってたところに、さらに二倍行くっていう手があったのよ
Y 大逆転のチャンスですね
K 有史以来これを達成した生き物は……11体おんねんけど
Y 微妙かつリアルやな
K(笑)70億とか今生きてる人の数だけやからね。有史以来の累計で、しかも生き物全体いうたらすごいっちゅうねん
Y なるほど。それを達成するとどうなんの?
K チェンジできんねん
Y なにを?
K チェンジできんねん
Y 誰とよ
K 神様とやんか
Y え!
K 5005ccを超えてなお希望を捨てず、10000ccの涙を流し続けた者だけが、神様の座を手に入れることができる訳なのよ
Y 有史以来11回も代替わりしてたんや
K でもなかなかないことよ。そこ以外はもう地獄やからね。「涙を軽視してる!」って言われますから
Y 10000ccだけなんでOKやねんとも思うけどな
K「涙を軽視してると思う」って言われるからね
Y なんで今の二回言うたん
K まあ、天使の間では「涙」って言い方はせえへんねんけどね
Y なんでそこディテール足したん
K「10cc」とかも呼び方決まってんねんけどね
Y なんで更に掘り下げるん
K「10cc」と書いて「てん・しー・しー」って呼ぶねんけどね
Y ああ、なるほど、それが言いたかったんや!
K(笑)これが言いたかってん
Y ごっつテンション下がったで
K これはほんま申し訳ない
Y はあ……
K(笑)始めにチェンジしたん誰か知ってる?
Y だれなん
K 働きアリやねんけど
Y 頑張ったなあ、小さい体で
K 労働条件の悪さがハンパやない言うて三日三晩。おかげで巣をぶち壊してもうたらしいよ
Y 気持ちは分かるけど迷惑やな
K それで生き埋めになって死んだんやけど、運良く10000ccやったから神様になれちゃって
Y 良かったなあ。神様がアリやった時期があったとはなあ
K 二番目はなんや思う
Y なんやろ
K 働きバチ
Y なんかもう、ブラックな惑星やなここは
K 三番目がホモ・サピエンス
Y 誇れへんなあ、その並びやと
K その人はみんなのために色々作ってたらしいねん。でも「見返りがない、見返りがない」言うて泣いてたらしいよ
Y 変なヤツやな
K そんな一言で(笑)四番目はね……これはすごい
Y ほう
K(ひそひそ声で)これはすごいよ
Y 声小さくしても普通に文字に起こすからね
K(笑)今のエジプト辺りの、これもホモ・サピエンスやってんけど
Y またかー
K 話によると……ごっついでっかい石を、めっちゃ運ばされたらしいねん
Y(笑)ああ、あん時かなあ
K 三段目あたりまで積んだところで「終わる気せえへん」言うてめちゃくちゃ泣き出して
Y 泣いたやつ結構な数おったんやろうけどなあ
K なんせ10000ポッキリやから
Y 運が良かったな
K それで五番目。これは六段目まで積んだところで「水の提供がなさすぎる」言うて
Y(笑)その現場で二人も!やっぱり泣いてたんや
K やっぱね。ここはすごい泣いたらしいよ
Y そうやろなあ
K 一番泣いたやつは950000cc行ったからね
Y サイヤ人みたいやな
K だからアレやね、ホモ・サピエンスが泣き出したらもうトントン拍子やったらしいよ
Y 早いよそら
K ほんで七番目
Y え?
K なに?
Y ……ああ、はい
K 七番目はもうぜんぜん関係ない。ホオジロザメですわ
Y 関係ないなあ
K 血が怖かったらしいねん
Y なんやねんもう
K「みんなごっつい行ってるけど、俺はアカンわ、引くわ」言うて。海藻とか食べててんけど、ごっつい腹下したらしいよ。「俺は間違ってない。なのになんでこんな目に遭うんや」
Y ホオジロザメとしてはやっぱり間違ってると思うけど
K 八番目は……すごかった。なんでそんなことなんねやろって。これはもう「えーっ」って……言った。九番目はね……
Y えーっ!?
K(笑)な?「えーっ」って言うやろ?
Y いやいやいや、そこやなしに……
K 九番目は20代男性やねん!おねがい!
Y ふっ……(笑)まあええわ、トントン行ったら
K やろ?まだあと三人もあんねん!
Y そら自分、いちいち全部言い出すからや
K 九番目。道歩いてて段差に小指ぶつけてダダ泣き
Y もうちょいマシなこと言うたれよ
K ええねん、九番目なんか!
Y わははははは(笑)
K 十人目はこれ……まあ取り立てて言うこともないけど。初代の神様
Y え!返り咲いたんや?
K 二代目に取って代わられた時からずっと泣いてたらしいねん。「あんなん冗談やん」言うて
Y けっこう掛かりましたね
K「おれあんま泣けへんねん」いうて自慢してたんやけどね
Y あー、そういう人やったんや……っていうか、あれ?
K なによ
Y 神様はどっからのカウントになるわけ。もう一生とか終わってんちゃうん
K 初代やからそのへんはええねん!若かったのよ、シャレで作ってもうてん。こんなん満たすやつおれへんやろ言うて。そしたら結構あっという間に……(笑)
Y 意外とおったからね(笑)ハチとかサメとかなってるからね
K「なしや、なし!」言うてんけど、それは認められませんて天使たちに言われて。もう神様じゃないですから。20000cc泣いたら認めますって
Y 普通の倍ですか。嫌われてるねえ
K もう必死でビデオ屋通っては『タイタニック』とか借りてきたらしいですよ
Y 地道やなあ
K「戻ったらすぐこのルール変えたる!」って、嫁にずっと言うてたらしいからね
Y 嫁て、あんた
K「俺もあの頃は若かった。そして馬鹿やった。でもお前と会って俺は変わった。安定した神様として二人の人生設計頑張りたい」と
Y 人生設計て、あんた
K ほんでついに20000ccに達したその瞬間!
Y 良かったねえ
K「良かったねえ、あんた」言うて嫁の流した涙がちょうど10000ccを達成するという奇跡
Y うわあああああ!(笑)
K もうずっと応援してきたからね、夫を。一緒に涙流してきたから
Y『タイタニック』とか一緒に見てきたからね(笑)
K やってみましたからね、舳先でのアレとか。その空しさでまた泣きましたから
Y この場合さ、嫁から譲位したりはでけへんわけ?
K これがね……神様になったとたんに嫁の態度がコロッと変わって
Y うわ、うわ、うわわわわ(笑)
K 天使も嫁のことは慕ってたからね。「今度は180000ccです」言うてるらしいよ
Y なんちゅうことだ
K この世に神はいないのかって話ですよね。まあ、いるんですけど
Y いるが故に(笑)
K でも初代兼先代の神様はまだ諦めてませんからね。まだビデオ屋通いは続けてますから
Y 頑張ってほしいなあ
K 最近ちょっと18禁のが混ざってきてるみたいですけどね
Y あかんな、無理やわ
K まあ、今の神様になってから実際ええらしいけどね。女性目線のサービスや言うて
Y サービスて
K 1000ccいくたびにメールが来るようになったらしいよ
Y「ル○ル○」みたいな(笑)
K はい、以上!
(曲:湘南之風『純恋歌』)
Y いきなり終わったな
K キツかってん!ホンマにキツかってん
Y そら自分、11人とか言い出すからやわ
K 完全にあれがアカンかったわ
Y 最後の方はともかく、途中ひどかったで。「てん・しー・しー」に至ってはどついたろかと思ったわ
K あはははは(笑)ごっつ考えたで、だって……(紙に書き始める)
Y あ、それやってまうの?
K ……あれ?一個たれへん
Y 7番目飛ばしてんねん。5番目が「6段目」で泣いたいう話をしたところで、もう6の数字がクリアされたことになってもうてんねん
K あ!(笑)
Y そん時に僕「え?」って言うたでしょ
K 言うてた(笑)
Y 気付いてんけどキツいん分かってたから、もうええかなと思ってスルーしてたのよ
K おまえ……俺と結婚せえへん?
Y わははははは(笑)頑張って180000ccまで泣くから
K 一緒に『アバター』見ようや
Y あれでは泣けへんやろ