随筆  「 」      郷  隆岳

 冬至を過ぎた頃から一気に黄葉し、一足早く山黄櫨(やまはぜ)が

その真っ赤な葉を落とす。

楓、萩、百日紅、柘榴(ざくろ)、桜、ハナミズキ、紫式部、風知草

と夏を謳歌した木々草木達が先を争うように季節の変化を感じ取り、

冬の装いに変化して行く。木枯らしの中、凛としてピンクの花弁を引

き立たせる山茶花に行く秋とやがて来る厳冬が重なり、親しみさえ感

じる。

 夜の闇に輝いたオリオン座が西の空に傾いて、藍色の東の空がオレン

ジ色に染まり始める頃、いよいよ鳥たちの一日が始まる。ヒヨドリ、ジ

ョウビタキ、四十雀、めじろ、雀、のばと、からすと多くの鳥の声に眼

を覚ます、その鳴き声に耳を澄ますと「ジージー「ジージー」とかすか

に聞き分けられる鳥の鳴き声。 今年もやって来た鶯のまだ見えないその

姿に胸の鼓動の高まりを感じる。「ジージー「ジージー」春を待つ鶯の

声である。

 南に向かって長い坂を下り、楠の落ち葉を踏んで閑静な住宅地を通り過

ぎるとやがて周りの木立を写す竜神池に出る。 池をめぐり広い境内に入る

と静けさの中に中山法華経寺の五重塔と堂々とした祖師堂が目の前に迫っ

てくる。 日本一といわれる「比翼入母屋造り」の双建屋根のお堂である。

このお堂の前の境内で毎年一月はじめ、鶯の鳴き比べが行われる。つまり

愛好家による発表会の場でもある。

一足早く春を告げるうぐいすの鳴き声を囀(さえず)らせるために、一年の

間、鳥かごの温度調整と日照調整を行ってこの日を迎えるという。特に日照

時間の調整が大切で、電球と鳥かごのカバーの調整で一年中うぐいすの声を

囀らせることも出来るそうだ。鶯は鳴き較べでさらに声が良くなるそうで、

ホーホケキョの囀りはオスの縄張りを主張するためであり、鳴き声でお互い

を意識するとは感心させられた。

 夏の間は涼しい山間部で生息し、秋になり涼しくなった頃にまた人里に戻

って春を待つ。「『ジージー ジッジッ』 ほら、また今、鶯が鳴いた。」

慣れない耳にはよく識別が出来ない。

「そこの金木犀の中にもう鶯が来てるよ」と得意気に指を指す馴染みの植木屋

に「秋から冬にはもうお宅の庭にも飛んで来てるんですよ」の言葉には説得力

がある。それもそのはず、彼の家には四羽の鶯と二羽のメジロを飼っていると

いう。冬の何も実の無い時期にみかんを半分に切り、庭の梅の枝に刺して鳥を

呼び、その枝の元にみかんを入れた鳥かごを仕掛け、鳥が入ったら扉が落ちる

ようにして捕獲できるとの事。 メジロは必ずつがいの二羽で鳥かごにかかっ

てくるそうで、二羽で育て、一方、鶯は雄の一羽で飼うという。つがいにする

と鳴かないのだそうだ。

  「ケキョ」「ケキョ」「ホーホケキョ」

   山茶花に替わり椿が咲き始めた。 

   本当の春が近いのかも。

   期待をしたい。          市川にて