レーティングの性質

レーティングの一般的な性質 / 将棋倶楽部24の特性


  • 将棋倶楽部24のレーティングでは、期待勝率に対する実際の勝率が、レーティング上位者にとって辛いものであることがわかりました。
  • このことは将棋倶楽部24のレーティング運営に問題があることを示しているのでしょうか?

 R点差と勝率のずれ(1)

 将棋倶楽部24のレーティングは、期待勝率よりも上手の実勝率が下回っています。 例えば、200点差での上手の期待勝率が75%であるのに対し実勝率は70%以下です。 このことを論拠に、「将棋倶楽部24のレーティングはイイカゲンなものである」 とする見解が、かつての24掲示板ではみられました。

 しかしながら上記の見解は、レーティングの一般的な性質についての検討を欠いています。 そもそも、期待勝率と実勝率が一致することは、レーティングにおいて一般的なことなのでしょうか? ここでは、チェスにおいて明らかにされた、R点差と勝率のずれに関する問題を紹介します。

  USCFレーティングの解析

 United States Chess Federation (USCF)のレーティングでは、将棋倶楽部24と比較してかなり細かい計算規定が定められています。 しかしながら、標準式における期待勝率の基本的な概念は Bradley-Terry Model となっていて、最もオーソドックスなレーティングのひとつであるといえます。

 レーティングの研究者であり、USCF レーティング委員会のチェアマンでもある Glickman 氏は、USCF におけるR点差と勝率の関係について解析しています。 詳細は同氏の著書 "Rating the chess rating system" (Mark Glickman's Research Page 参照)に記述がありますが、解析の概要は以下のようなものです。

  1. 1997年1月〜10月の公認R所持者同士で行われた全ての公式戦 225,621局
  2. R点差について、0-10,10-20,...,790-800にグループ分けし、平均スコアを分析

 なお、USCFにおいては、勝点1、負点0、引分0.5 として計算しているため、スコア(=得点)という表現が使われていますが、ここでは、平均スコア=勝率と考えて特に問題ないように思います。

  USCFレーティングの解析結果
USCF 225,621公式戦の解析結果
Glickman, M. and Jones, A. "Rating the Chess Rating System" (1999)より転載
黒丸はR点差毎の上手の平均得点を表す。縦棒は平均スコアの95%信頼区間
点線はUSCFの期待勝率の計算式から導かれる期待得点
破線は期待勝率の補正計算式による値

 レーティングによってゲームの結果が予測できるとしたら、点線と縦棒とが交わるはずです。 しかしながら、わずかな例外を除いて平均スコアの95%信頼区間は、明らかに理論上の期待勝率を下回っています。 このことについて Glickman 氏は以下のようにまとめています。

  • R点下手のプレーヤーは、レーティング並びにそのモデルが示すところよりも得点率が高いこと
  • この傾向は、全てのR点差に及んでいること
  •  USCF でのレーティングと将棋倶楽部24でのレーティングとでは計算規定も運用方法も異なるため、直接の比較は難しいとは思います。 しかしながら、ここで示されているR点差200点での勝率は、期待勝率76%に対して、実勝率は70%弱となっています。 将棋倶楽部24においては、期待勝率75%に対して、実勝率は70%弱ですから、現象としては似たようなものであると言えないでしょうか。

     いづれにせよ、期待勝率と実勝率の乖離は、将棋倶楽部24に特有の問題ではないということです。



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