作/ななりう

事の起こりは小学四年の春休み。
「大迫んちの庭のびわの木ってさ、ちっちゃいとき大迫が食べたびわの種を、投げ捨てたら芽が出てきたんだって」
今では真森と勝志が見上げるほどの高さに成長している、同級生の家のびわの木。勝志にとって魅力的なのは、その木がたわわにびわの実をつける点にある。
「じゃあ俺らもいろいろ植えてみようぜ!!そしたら来年は果物食べ放題だぜ!」
頭の中ではすでに果物の海に浸かっている様子の勝志に、真森のお決まりの突っ込み。
「馬鹿勝志。そんなにすぐに食べられるわけ無いじゃん。桃栗三年、柿八年っていうの、聞いた事無い?」
「・・・石の上にも三年?」
「・・・かなり違う・・・・・」
と、そんな相変わらずのやり取りは置いておいて、勝志と真森はその日から春休み中ずっと、目に付いた種という種を全て庭の隅に植え始めたのでたった。
そしてその夏。遠山家の庭は大変な事になっていた。
「良く伸びたね」
「うん。ここから見ると綺麗だけど、伸びすぎちゃって、下から見たらなんだかジャングル!ってくらい、伸びすぎたね」
勝志の部屋の窓からは、一面に黄色の太陽が並んで見える。
元気いっぱいのひまわり。ただしここは2階である。
「でも何でひまわり咲いたのかな?あの辺、春に果物の種植えまくったのに」
窓枠に頬杖をついて、ひまわりを眺めていた真森が口にした疑問に、答えるのはもちろんこの人。
「あーうーん、りすがねえ、うまそうでねえ」
「リスが美味そう?!」
「あ、違う違う!リスが美味そうに食べてたから、美味いのかなーっと思って、えさを失敬して埋めてみた」
勝志の三つ児の弟たちが可愛がってる、ペットのリス・ウォールナッくんのえさを、どうやら庭に蒔いていたらしい。
「確かに人間も、ひまわりの種は食べるけど・・・」
リスが食べてるものまで、おいしそうと思える勝志に、ある意味感心する真森であった。
「これだけ大きくなるとさ、見てるだけって言うのも勿体無いね」
「うーん、ギネスに挑戦するか?」
「それは流石にどうかと思うけど・・・いっそ夏休みの理科の宿題に、ひまわりの生態を取り上げてみたらどうかな。それなら勝志も難しくないし」
夏休みの宿題は、いつも7月中にほぼ終わらせてしまう真森は、夏休みが始まって1週間たった今はすでに工作と日記以外は全て終わっていて、もちろん理科の研究も『日時計・砂時計・水時計』というタイトルで、後は発表用に模造紙にまとめた物を移すだけである。それに引き換え、勝志は真森に散々言われて、ようやくワーク帳2ページ進んだところ、まだまだ10分の1に満たない程しか進んでいない。このままで行くと、例年どおりラストスパートが休み中に終わらず、新学期に入ってもひーひー言う羽目になる事は間違いない。
「ひまわりの生態?」
勝志にはピンと来ないようである。
「皆が常識で知っているものと、意外と知らないところと、調べたらいいんだよ。たとえば、ここは日当たりも良かったし、栄養分だってあったんだと思う、それで今までに知ってたひまわりの高さを越えた成長ぶりだよね。僕等はこんなに伸びる事が出来るなんて、知らなかった。と言うことは他にも知らない人は多いに違いない。写真にとって、証拠を提示したら、皆も驚いて感心もってくれるだろ?種が食べられる事も、知らない人はいる。種はリスも人も食べるし油もとれる。花にまつわる伝説とか、花言葉、世界中なら花の種類も小さいものから大きいのまでいっぱいある。調べるのは、きっと楽しいよ!」
おおっ!とばかりに勝志が食いついてきた。
「すげえ!真森!それなら俺にも出来るかも!手伝ってくれるだろ?」
「もちろん。でも、勝志自身がが中心だからね」
「わかってらい!そうとなったら早速こいつの高さを計るべし!メジャーと、あとカメラだな!」
勝志の夏休み史上最も早い宿題取りかかりモードに、真森はにやりと勝利の笑みを浮かべた事に、勝志は気づいていないのであった。
「さすが真森。でかした」
5日後、勝志の理科の研究完成で、遠山家のリビングはにわかにお祭り騒ぎである。その盛り上がりから少しはなれたキッチンで、勝志母にお褒めの言葉を授かる真森である。
「約束のご褒美、何がいいか決まった?」
約束。いつもてこずる理科の研究には、なんと懸賞がかかっていたようである。
「うーん、それなんだけどね」
真森の勝利の笑みの理由。この事は勝志はもちろん知らない。
「いろいろ考えたんだけど、今すぐに欲しいものとかもないからね、貯金してても良い?」
「貯金?こづかいで欲しいのか?」
真森は頭を左右に振って、にこりと笑う。大人ならノックアウトの天使の微笑み、というやつだ。
「キャッシュっていう意味じゃないの。ご褒美をね、ちょっとずつ貯めてね、ちょっと大き目のお願いをしたくなった時に聞いて欲しいなーって思って」
「大き目のお願い?怖いなー、家を建ててくれとか、宝石をよこせとかか?」
「そーんな高いものじゃないよー!うーんなんだろ、まだどうゆうものかは決めてないけど、危なかったり怖かったり、酷かったりとかそうゆう悪い事は絶対言わないから」
真森の顔は笑顔だが、その目だけは真剣。いつも豪快な勝志母は、くすっと笑ってそんな真森の頭をぽんぽんと軽くたたいて、
「わかってるよ。真森はそうゆう子じゃないさ。よし、貯金にしといてあげよう!」
そうして秘密の協定が二人の間で始まったのだ。
現在真森と勝志は中学2年生。真森の『貯金』は使用された事がなく、ポイントはたまる一方である。
何に使うかは、一応未定、としておこう。