作/ななりう
「真森、虹を捕まえに行こうぜ」
「は?」
よく晴れた日の朝、隣の家の幼馴染から窓越しに、元気よく誘われて真森は戸惑った。
常日頃から阿保だ阿保だと思っていたが、とうとう幼稚園児以下に退化してしまったのか!と
目前で朗らかに笑う勝志を見る目が、同情に変わる。
「白扇ノ森の滝にさ、天気がいいと虹がかかって見えるんだぜ。こないだ真森が風邪ひいて寝込んでた時に、
長谷守と浜路(クラスメイトだ!)の
造園計画用の石探しにつきあっててみっけたんだ。真森も全快したら絶対連れていこうと思ってたんだ。
今日も天気いいし、絶対見れるからさ」
これこれ、と勝志が取り出したのは、先週くじ運の塊、クラブ顧問の千紘ちゃんが、
駅前商店会の福引でゲットしたデジタルカメラだった。
「この中に捕らえちゃおうってことよ」
えっへん、どうだとばかりに胸を張る勝志。
「ごめん!勝志っ!」
「へ?」
おもわず謝った真森に、今度は勝志の目が点になる番であった。
「・・・天気予報ほど当てにならないものはねえな・・・」
「まあね。はずれても倒産しないからね・・・」
1時間後、白扇ノ森の東屋に、勝志と真森の姿があった。
本日の降水確率、0%。確かに朝のTVではそう言っていたのに、森につくなり土砂降りの雨。
「通り雨だとは思うんだけどね。雲だって向こうの方はないみだいだし。でもさ・・・」
白扇ノ森の滝は、かなり奥まで歩いて行ったところにあるうえ、滝の周辺は雨が降ると
滑りやすくなるのだ。
「晴れても今日は危ないな。くーっ!せっかくデジカメまで借りてきたのによー」
「しょうがないよ。また来よう。ね。それより、いつになったら動けるの、僕ら」
雨足は一向に弱まる気配を見せない。そのうえ、この東屋に駆け込むまでにわずか
に雨に当たって、湿気を含んだ服が体温を奪ってしまい、病み上がりの真森には少々
厳しい状況である。
「・・・ちょっと待ってろ。傘調達してきちゃる!」
「え、あちょっと、勝志っ!」
止める間も無く、勝志は猛烈な勢いで雨の中を駆け出して行ってしまった。
10分ほどして現れた勝志は、全身ずぶぬれにちゃっかり傘をさして帰ってきた。
はたから見たら、傘の意味を問いたくなるような格好である。
「お待たせー。ほれ傘」
「・・・ありがとう」
たとえ真冬の雨にうたれようとも、風邪などひくはずもない幼馴染ではある。心配
などは全くしていなかったが、けして損得計算などはしていない、その心遣いがほん
とに嬉しい。
「どういたしまして。じゃ、早いとこ帰ろう。お前がぶり返したら、おかんにおこられる」
「確かに」
この場合、なぜか怒るのは勝志の母親である。真森の母は、そんな勝志母のなだめ役にまわる。
「目に浮かぶよね」
「こうゆう時は輪を掛けて容赦しねえからなー」
そして1本の傘に2人で入って、雨の中を歩き始める。
「どっから調達して来たの、これ」
「それは秘密です」
この調子では、どうして1本だけなのかを聞いても、以下同文ってことでしょうか。
「お、止んできたか?」
「ん、意外と降ったよね」
帰路の半分くらいにさしかかった頃、雨はほとんど上がりかけていた。
「もう傘いらないねー」
「そだな。日も射してきたしな」
再び射し込んだ太陽は、アスファルトをキラキラと光らせる。
「虹は見れなかったけど、楽しかったよ」
「あははははー、俺もー。ずぶ濡れだけどなっ」
「勝志にはお似合いでしょ。っていうか、いつもそうじゃん」
晴れてれば服のまま海に飛び込んだり、ホースの水をかぶったり。そのたびに、母
上の雷に会おうとも、への河童である。
「いい男は水まみれって言うじゃん」
「水も滴るいい男、と言いたいわけ?」
「おーそれそれ・・・・おっ!真森!天の神様も認めてくれてるぞ!」
「え?」
勝志の指差すその先に、空には見事な虹の橋。
「日ごろの行いってやつかな」
「ま、そう言うことにして置きますか」
予想外の大物の出現に、2人は笑顔前回、濡れたのだってなんのその。ぱちりとカ
メラに虹を捕らえて、光るアスファルトを並んで歩いた。