
作/ななりう
「ぷっはあぁ〜っ!!」
ザバーンとしぶきを撒き散らし、天知る地知る皆々ご存知、歩く野生の王国代表:
遠山勝志は魚人のように海から踊り出た。
その手には、何事か!ぎょっ(魚っ?)と驚いている(とも見えないこともない)
魚が一匹びちびちともがいている。
「見たか真森っ!俺様の華麗なる狩の技をっ!今日も大漁節じゃ〜♪」
わはははーっと笑い声も高らかに、勝志は獲物を岩の上にあるバケツに入れるため
に、バシャバシャと海のなかを歩いていった。
銛も竿も網も木の枝すらも使わずに泳いでいる魚を生け捕りにするのは確かに技と
いえる。それも超人的な。
(なぜ海の中にいるのにサルに見えるのかが不思議だ。普通だったらイルカとか
シャチとか、せめてアシカやアザラシだよな)
勝志のそばで、浮き輪にのっかってたゆたっていた佐倉真森は心のなかでつぶやい
た。
誕生日は一日違い、正確には19分53秒(なぜ秒まで!)違いのこの2人。家は
生まれた時から隣同士、お互いの母親が親友という事もあって、幼馴染より双子の兄
弟みたいな間柄。ただし、勝志は運動神経の固まりなれど、おつむの方はからっき
し、一方の真森は頭脳は超一級品だが、運動神経カメ並と言われるほどの完全運動音
痴。足して2で割りゃ一級品、両極端がつるんでいるから面白さが極上品な対極コン
ビである。
「あーもー飽きた〜。かつ〜っもうそろそろ帰ろうよ」
今夜のおかずには余りある魚を捕ったというのに、再び海に潜る勝志に向かって真
森が咆える。
「ぶくぶくぶく・・・」
返事のあぶくの言うことには、もうちょっと待て、だそうな。
「もう。いい加減ふやけるっていってんのに。陸に上がると暑いし。このままじゃ
夏が終わる頃にはあんた誰?っていうくらい焦げてるよ」
母に言われて30分置きに日焼け止めを塗ってはいるものの、水にはいればそう長
くはもたないので、冬にはゆきんこのように色白な真森もすっかり健康色になってき
ている。風呂場の鏡に映る姿は、脱いでも白の海パン状態で何とも情けなくて笑える
ものだ。
「勝志はもともと色黒だから、気にならないんだろうなぁ」
恨めしげに太陽に手をかざして、空を見上げる。だれだれ気分の真森にはおかまい
無しに、広がる空は底抜けに青い。
なにを考えるでもなく、ぼんやりとたゆたっている真森のすぐ脇に、ひときわ大き
くあぶくがたった。
「ぶわっっ!くーっ!しょっぺーっ!!!」
騒がしさ100%。勝志の帰還である。
「真森っ!ほれ、海底からのお土産」
「えー?あっ!」
満足そうな勝志の左手にはたくさんの海星(と書いてヒトデと読む)。
「すごーいっ!ありがとー」
食べられるわけでもないし持ち帰るわけでもないが、小さい頃から真森はヒトデが
大好きで、ヒトデを見てると機嫌も良いし、飛び切りの笑顔が見れるので勝志は真森
あやしにこうして時々ヒトデを捕ってくる。
「あとこれ、刺身にしたら上手いかと思って」
「ん?なになに?」
差し出した勝志の右手には、にゅろにゅろとうごめく物体が・・・
「だご〜!!!!!」(注:たこ)
泳ぎは(唯一)人並み程度の真森が、世界新記録を出しそうな勢いで泳ぎ去った。
「あれ?真森、たこ嫌いだっけ?」
始めて知ったような口ぶりで言う勝志の口元に、にやりと笑みが浮かぶ。
「なにいってんだよ!この確信犯!!きらいきらいっ!だいっきらいっ!勝ばか勝
でべそ勝あんぽんたんっ!」
子供の頃にたこの刺身を食べて、口の中に吸盤が張り付いて取れなくなって以来、
生のたこが大の苦手な真森である。もちろん勝志は知ってて捕まえたのだが。
『だって、目に涙いっぱい浮かべた顔も見たいんだもーん』
大漁以上になんだか楽しい勝志であった。(注2:俺はばかであんぽんたんだが出
べそではない。立派なへそだ。By勝志)