作/ななりう
しゃんしゃんしゃんしゃん・・・・
ここのところ、耳についてはなれない音がある。
クリスマスまであと10日。一歩外へ出ると、あらゆる店先からクリスマスソング
が聞こえてくる。そのバックに流れる、鈴の音だ。
旋律はなく、ただひたすらに鈴の音が鳴り続ける。一定のリズムで。
クリスマスは嫌いじゃない。はっきりいえば、大好きだ。ケーキはおいしいし、プ
レゼントはもらえるし、なんとなく皆の顔も明るいし、飾り付けは綺麗だし。ただひ
とつ、難をいえば、この24時間体勢になる耳鳴りのような鈴の音。子供の頃から、
どうにもこれだけは、苦手なのである。
「今年もぐるってんの?」
冬だというのに、アイスを食べながら隣りを歩く勝志が、脈絡もなく聞いてきた。
「ん。何でわかる?」
「ここ、しわ寄ってる。可愛い顔が台無し」
と言うなり、眉間を人差し指でつつかれた。言われてショウウインドーを見て見れ
ば、確かに浮かれた陽気の街中にはふさわしくない、しかめっ面がそこにいた。
「なんだかなー。原因とかわかれば、対処の使用もあるのにねえ」
「俺の知る限り、小学校に上がった時くらいから言ってたろ」
「多分。・・・もう忘れた。年中行事みたいな感じだし」
そうしてクリスマスが終わってしまえば、街の中と同様に、ぴたりとおさまってしまうのだ。
「ぐるぐる回るから不快なのか、記憶の中でその音そのものが不快なのか」
「どういうこと?」
勝志は独り言のように唱えたかと思うと、突然立ち止まって、食べ終わったアイス
の棒をにぎりしめた。
「今年こそ原因をつきとめて見ようか」
どこから来るのか、自信に満ち溢れたその顔が、気のせいだろうが頼もしく見えた。
右に左にゆれる黄金。
「目だけでこれを追って〜。はーい、そーう、リラーックス、リラーックス、あな
たはー、だんだんー、ねーむくなーる」
ここは勝志の部屋である。
帰りつくなり、5円玉に紐を通した即席催眠術器を作った勝志は、得意げにこう言った。
「催眠術で、昔の記憶を呼び覚ますのだ!心配するな!羽月たちで実験済みだ」
羽月は勝志の弟の三つ子の中の一人である。
「単純構造の三つ子と一緒にしないでほしい」
「単純とゆうより素直なだけじゃん。やつらはまだ穢れてないからなー」
自分たちだって、穢れちゃいないだろう。と思ったのだが、声に出す前に世界が揺れた。
「真森、今何歳だっけ?」
「6歳・・・勝志自分の歳ぐらい忘れないでよ」
いくつになっても生意気なところは変わらない。しかし確かに、目を閉じた真森の
口調は、少しばかり幼く聞こえる。
「よっしゃ!成功成功。んでは本題に行くとしますか」
「勝志、真森、おまえら知ってるか?」
宝塚にいたら、きっと人気炸裂間違い無しであっただろう、男前な勝志の母が、無
心におやつのドーナツをほおばる子供たちに、真剣な表情で質問をよこした。
「何を?」
「今年のクリスマスは、サンタクロースがストライキを起こすらしいぞ」
「ええっ!」
2人は母の重大発表に驚いた。
しかし理解をしているのは真森だけである。
「ストライキってなんだ?真森。こないだ教わった、横縞のことか?」
「横縞はボーダー。勝志が言ってんのは縦縞のストライプのことでしょ。冴子さん
(勝志の母)が言ってるのはストライキ。よく電車の運転手さんたちが、給料上げて
くれなきゃお仕事しないよ、とかいってお仕事皆で休んじゃったりするでしょ。それ
をサンタクロースがするってことは、今年のクリスマスはプレゼント無しってことだ
よ」
この時初めて勝志の心に特大の雷が落下した。不協和音のBGM付だ。
「うっそだろ〜!!!」
「本当だ。情報筋は確かなものだからな。北欧帰りのスッチー情報だ」
勝志と真森の母上は、揃って元スッチーである。
「でもさ、冴子さん、ストってことは、サンタクロースも給料制度なの?」
「5年前からね。サンタクロースも人手不足で、一般から求人してるそうだよ」
「世知辛い世の中だもんね。でも給料制ってのは、なんとなくロマンがないよね」
ロマン以前に、この歳までサンタクロースの存在をまじめに信じているあたりが可
愛らしくて、心の中では2人の頭をなでまわしたい勢いの勝志母であるが、表情には
全く表さない。信じ込ませるために、自分も真森の母も毎年努力をしているのだか
ら、このくらいは許されるでしょう。小学校に上がったら、きっとここまで騙されて
くれないだろうし。というのが一方的な母心。
「でもね、中にはこの仕事が生きがいのサンタクロースもいてな、こっそり仕事し
ちゃおうって言ってるらしいんだ」
「でも皆も所には回りきれないでしょ?」
「そう。だから、見つけてくれた子供たち限定に、プレゼントを配るらしい」
子供たちの瞳がきらりと輝いた。
「見つけるって、どうやって!」
「それはだな・・・・・・・・」
台詞をつむぐ、勝志母の姿がぼんやりと霞む。
その先を聞かなければいけないのに!
「冴子さんっ!!!」
すごい勢いで現実の真森がイスから跳ね起きた。
「そうか、やっぱりかーちゃんだったか」
「あ、え、うを?勝志?」
現状を把握できていない真森に、勝志だけが納得の頷きで、混乱気味の真森の頭に
ぽんぽんと手を乗せた。
「本物のサンタクロースは、ベルの音を三三七拍子で鳴らしているから、聞き逃さ
ないようにしろって言ってたんだよな。俺は次の日には忘れてたし、かーちゃんも言
うだけ言って忘れてたから、おまえだけ心のどっかでずっと意識してたんだな」
「ああ、そうか。あの年にわかっちゃったんだっけ」
ずっと耳を澄ましていたのに、結局クリスマスの日までに三三七拍子は聞き取れな
くて、やっぱり今年はサンタはこないんだって諦めてたんだ。そして、考えすぎて眠
れずにいた夜、眠ったふりをしていた真森の枕元に、プレゼントを届けたのは真森の
母だった。
「サンタが来れないから、代わりに母さんが持ってきたんだなっておもってたんだ
よね。だから次の年もずっと耳を澄ませつづけていたのが、くせになってたのか」
聞き分けたいのに、街の音楽が邪魔をして、本当のベルの音を聞き取れない。そう
して、サンタクロースはいつのまにやら母と父に変化をしてしまっていたのだ。
「責任はかーちゃんにある。という事はつまりその息子である俺にも多少の責任が
あるってことで、今年のクリスマスは、俺が責任を持って楽しくしてやるから」
胸をどーんと張って、楽しみにしてろ、なんて勝志は張り切っちゃってるようだけど。
『毎年、充分愉しんでるんだけど』
とは教えてあげないでいてあげよう。この同い年のサンタさんには。
みんなみんな、HAPPY MERY X’MAS!