作/ななりう

後編 



 ちょおお失敗した。自分のとろさに涙が出そう。
 学校の階段を下ろうとして、始めの一歩を踏み出し間違いをしたせいで、見事に15段一気に転がり落ちて、右足を骨折。
 頭やその他の怪我はすり傷程度で問題なかったのだけど、全治2ヶ月。うち3週間を入院とあいなった。
 一緒に歩いていた真森君は慌てて真っ青だし、派手な音をたてたものだから、見るみる人垣ができるしで、神宮先生に担がれて保健室へ移動する間、痛いより恥ずかしくって全身から火を噴きそうな気分だった。
 「しかもようやく勉強に追いついたってのに、3週間・・・また遅れちゃうじゃん。とほほ・・・」
 転校してきて2ヶ月。生活のリズムの変化にも、授業の遅れもようやく取り戻した頃の飛んだハプニング。
 窓の外には公園の木々が、秋の錦に色づいて、風に吹かれてその葉を揺らすたびに、沈む気分に拍車がかかる。
 ここじゃ傷につける薬はあっても、とろさを治す特効薬はありゃしない。とくらあ・・・

 気持ちはブラックホールでもがいていると、突然に廊下を夏真っ盛りの太陽のように、全てを照らす気配を感じで、視線をそちらに向けた。
 病院には不似合いな、キラキラの気配はそのうち音を伴って、病室の扉の前に到達する。
 そして現れたのは、暗闇から突然日の下に飛び込んだような、まばゆいばかりの存在。
 「ちーっす!元気にしてるかー!!遊びにきたぞ」
 「ばかたれ!入院してる人にいう台詞じゃないでしょ!もーっ!!ごめんねっ」



 一見対象的、よーく付き合って見ると不思議と綺麗に重なるこの2人。元気印の勝志君と、気配りの人真森君。
 瞬間で、この病室の季節を秋から常夏へと変化させる。
 「来てくれてありがと!やっと外に出られた感じだよ!」
 ブラックホールもいつの間にか見当たらなくなっている。
 「??外って?」
 辺りをきょろきょろ見渡す勝志君。
 「あはははっ。それだけ退屈だったよってことだよ。足以外は元気だから、余計滅入るったら」
 「そうだよね。そう思って、差し入れもって来たよ。本日発売の萬田さんの書き下ろし新刊と、僕のお勧めの2冊です」
 そう言って真森君が差し出したのは2冊の文庫。しかもそのうちの1冊は、発売を待ちかねていた大好きな作家の物で!
 「うわあっ!感激!覚えててくれたの!ありがとー!すっごくうれしいっ!!」
 「こないだ図書室で、萬田さん大好きだって言ってたでしょ。もう1冊の本も、系統は似てるから読みやすいと思うんだけど」
 ちょっとはにかむように笑った顔が、もう食べちゃいたいくらい可愛いというか、拝みたいくらい神々しいというか、なんていい人なんだーっとおたけびたい!
 「あとねこれ、今外で見つけたんだけど、あんまり綺麗だから、しおりにでも使って?」
 真森君の指先に有るのは、先程まで窓の外で寂しげに揺れていたもみじの赤い葉っぱ。でも、今は元気付けるように力強く赤く燃えているように見えるのは何でだろう。
 「ありがとう。大事にするよ」
 手の平に乗せられたもみじの葉っぱから、やさしさと元気が伝わってきて、ほんのり温かく感じられた。
 「俺も俺もっ!お見舞いもって来たぜ!ほらっ」
 勝志君から、負けないように元気良く差し出された袋の中には大量のくだものと秋の幸と・・・それから・・・???
 この場にかなり不似合いな物を、袋から取り出してみる。間違って入れちゃったのかな。
 「これは・・・?」
 「ローラーブレードーっ!動けるようになっても暫くは松葉杖だろ?そしたらこれ履いてれば、移動が楽でしょ!」
 俺ってあったまいいーっ!と自身満満に顔に書き、胸を張っての説明に、驚くやら、おかしいやら、流石だぜ遠山勝志!
 「ほんっとうに、どうしょうもないくらい、ばかまるだし。そんな物履いて杖がつけるわけないでしょうが!自分と一緒にしないでよ。怪我が増えるわっ!普通はね!しかも何これ。さつま芋なんて生じゃん。どうやって食べろって?」
 他にやばいものはないかと、袋の中の点検をはじめた真森君に、勝志君はさらに怒られてしゅんとなる。あまりにも正論で反撃の余地はない。
 「ほんとに申し訳ない。来る前にちゃんと見ておけば良かった。まったくおばかで救い様がない」
 「まあまあ、悪儀が有るわけじゃないし、来てくれただけで本当にうれしいから、そんな風に言わないであげてよ」
 すっかりしょげちゃった勝志君と、真っ赤になってる真森君。こういっちゃなんですけど、2人揃っているだけで、何だかこっちも幸せ気分になっちゃうから不思議。
 「勝志君も、気にしないで。ちょっとびっくりしたけど、勝志君の気持ちはすごくうれしい。こういう時って、何より気持ちが一番だもんね。だから、また2人とも顔を見せに来てよ。そしたら、それまでの時間も退屈じゃなくて、楽しみを待つ時間にできるでしょ?」
 俯き加減の勝志君が、様子を伺うように目だけこちらを向いた。
 「会いに来るだけでいいの?」
 「うん。学校にいる時みたいに、会ってしゃべって、次の約束してくれたら、すんごくうれしい」
 今度はしっかり顔を向けて、ちょっと不適ににっと笑って、
 「わかった。出来るだけ、毎日来てやるさっ!」
 いつもの太陽の笑顔に戻った。
 「あ、でも真森君には一つお願いが・・・」
 「なあに?」
 現実的な、重要な問題が一つ。
 「できればお見舞いに授業のノートをリクエスト・・・」
 切実なお願いに、ほんわか天使に否はなく。
 「解説付で、持参しましょう」
 これで学業にも日が射した。
 持つべきものは、物よりも、力強い友だとつくづく実感。
 楽しい時間は時の流れもはやくって、退院の日も、そんなに先のことではないなと思う午後でした。


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