衝撃
2005年4月29日、JDC主催のダンススポーツ大会が愛知県豊橋市で行われた。
そこで私はこれまでのダンス人生で味わったことのない衝撃を受けた。
プロスタンダード・オープン部門でエントリーしていた彼ら。
二人のそのしなやかでダイナミックな、ダンス!でもそれは、ただ単に力強いというのとも、ソフトというのとも違う、なんとも言葉ではいい表せないものだった。リーダーももちろん素敵だったんだろうと思うが、私は一目みた瞬間からパートナーである彼女の虜になってしまった。
ダンスはもちろん、その美しい容姿…!!
自分がバレエをやっているせいで、女性ダンサーの見方がどうしても厳しくなってしまうクセがあるのだが、彼女のその首のラインには目をみはった。
(なんてきれいなの…)
白鳥のように長くしなやかな、しかも強靭な首。なめらかで白い肌。
黒髪をクラシカルで艶やかに結い上げて、1種目踊り終えるたびに観客にむかって包み込むような笑顔を見せる彼女。
純白のドレスは黒でアクセントが加えられていた。裾で揺れる白と黒の羽根飾りが印象的だった。その一挙手一投足を自分の中に焼きつけておきたくて、私は一瞬たりとも目が離せなかったのだ。
とまらない涙を拭いながら、決勝戦を踊り終えたばかりの彼女に近寄る…。
『お疲れのところ失礼します。あの…握手してください。』
普通なら『握手していただけますか?』なんだろうが、どうしても、どうしても握手をしてほしかった。
踊り疲れた足をマッサージしていたんだったかどうか、彼女は片方脱いでいたシューズをいそいそと履きながら
『ハイハイ♪』
と親しみやすい声音をかえしてきた。目の前に立った彼女はとても大きくみえた。
『あの…とっても綺麗でした!…白鳥みたいだった。……こんな気持ちになったの初めてです!』
涙がジャマをしてうまくしゃべれなかったが、必死の思いでいまの気持ちをしぼり出す。
『ありがとうございます♪』
疲れを微塵もみせない彼女。ついさっき、踊り疲れてロビーのソファに溶けこむように身をまかせていた姿がウソのようだ。
『あの…どちらの方なんですか?』
『私、東京なんです!練馬でやってますから、お越しの際はぜひっ…!!』
『あ、やっぱり関東の方なんですか。……ほんと、ありがとうございました!』
深くお辞儀をしてその場を失礼した。
短い会話だったが、とても幸せなひとときだった。
なんて表現したらいいかわからないけど、魂を鷲づかみにされ、グイグイ揺さぶられたような感覚だった。いつまでもドキドキして…こんな衝撃的な感動はうまれて初めてだったと思う。数年前、憧れのルカ&ロレイン・バリッキが来日したときとは、また違った感覚だった。
(あのときは二人のダンスをみる前から、姿を目にしたとたん物凄いオーラを感じて、泣いた。同じ空間にいられるだけでしあわせだった)
今回は予告なくそんな想像を越えたダンサーを見てしまったせいか、
(もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない)
そう思うと、握手を求めずにはいられなかった。
私は田舎者で、都会の人がこの話を聞いたらきっと笑うだろう。
”あなた、何も知らないのね”と…。
豊橋で出会った二人が日本を代表するほどの人物だったと知ったのは、その日の晩だった。
主人がネットで調べてくれたのだ。
『私、スゴイ人と握手しちゃったんだ。。。!!!』
あらためて鳥肌が立った。興奮はまだ冷めていなかった。
私の体中にしみこんできた、あの美しいダンサーの姿。
最近みた映画”オペラ座の怪人”のセリフを借りれば、彼女は私の【エンジェル・オブ・ダンス】かもしれない…!
今日という日が、特別な日になった。
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