◇ たくましきマメ剣士・・無鉄砲!

          幼稚園児の将来の夢・・そこにはナント!

それは平成10年の春時分、息子のTAKがR幼稚園の卒園を間近に控えた頃でありました。仕事を終えて自宅に帰ると玄関先までカミさんが出てきて、ニヤニヤしながら「ちょっと、これ見てみなさいよ!」と何か冊子になった刷り物を差し出しました。なんだよ、家の中に入ってからでいいだろう…と心の中で思いながら、少しぞんざいにその刷り物を手に取りました。「んー、何これ?」とペラペラめくりながら靴を脱ぎ、居間に入ろうとするとカミさん「またあ、靴ぐらいちゃんとそろえてよお…子どもたちがまねするでしょう!」、「なに言ってんだ〜、キミがこの刷り物を寄こしたからだろう!?」とブツブツ言うわたくし。続けて「だから、これなんなんだよ?」と尋ねるわたくしにカミさん「表紙に書いてあるでしょう!それはTAKの卒園にあたっての文集…ってわけでもないけど、ひと言集っていうか…とにかくそういうヤツ。将来の夢みたいなのらしいよ」。わたくし「ああ、で、TAKは何て書いてあるんだ…ああ、マンガ家かあ。なんかいつも訳のわからない絵を描いているからなあ〜」、するとカミさん「違う、違う!TAKのもそうだけど、ほら、この子、この子の将来の夢を見てごらんなさいよ!」。

うながされてそのページを見て、わたくしは「わあー、なんだこれっ!?ええーっ?うそっ!!」とびっくり仰天。傍らで"ほら見ろ!"とばかりに腕を組んでニヤニヤしているカミさん。そりゃあ、そうです。そこに書かれていた見知らぬ子どもの将来の夢は、な、なんと「にほん一の剣どうのせんせいになりたい」…そう、そうです!日本一の剣道の先生になりたい!と書いてあったのです。


          いける!きっと強くなる!1、2年生剣士が5人も入団

「おいおい、この子はいったい誰れ?!どこの子どもさんなんだ?!!」…ニヤニヤして黙っているカミさんに向かってわたくしは掴みかからんばかりの勢い(少々過剰な表現かな?)と大声で尋ねてみますと、カミさん「わかった、わかった!今、教えるから〜(笑い)」、続けて「その子はRYOクン、知らない?ほらぁ〜、TAKと同い歳でやたらと元気のいい子。TAKがコテンパンにやっつけられた…」、わたくし「ああっ!あのTAKが保育園で初めてケンカ(本人たちの言葉では"戦い"らしいのですが…)して負けたっていうあの子かい?!」、大きくうなずきながらカミさん「そうそう、あのRYOクン。乱暴な印象が強いけど、元気でとってもいい子だよ」。そっかあ〜、なるほどあの子かあ。

…そうです、このRYOクンというのは息子よりも1年あとにR保育園に入園した子であります。体格もよくて顔が浅黒く、腕力もずいぶんあったのでしょう。その頃、息子のTAKはやたらと元気がよく、毎日のように顔や腕にひっかき傷が絶えない子どもでありました。いくら"戦い"の結果といってもこうも毎日負傷してくるっていうのはおかしいんじゃないか?ということになり、一度保育園の先生に聞いてみたことがあります。すると、どうも先生歯切れがよくありません。ますます心配になって、しつこく尋ねてみますと先生はなんとも言えないような複雑な表情で「あのう…TAKクンが傷を負っているということはですね…その相手のお子さんもケガをしているってことでして…しかも、TAKクンよりももっとひどい…」、わたくし「ああっ、そうでしたか!すみません!ウチでもよく言い聞かせますから!!」といったことがあるくらいの戦士?であったのですが、そのRYOクンが入園してきたとたんTAKはR保育園のナンバーワン戦士の座に二度と復帰することはありませんでした。

「よ〜し、あの子なら体格もいいし、絶対にR剣道スポ少に入れなきゃ!」続けてわたくし「キミ(カミさん)、なんとかあの子の親御さんに頼んでみてくれないか?」…とカミさん
「そういうと思って、今日RYOクンのお母さんに話してみたの。そしたら…」
「そしたら?」
入団させてもいいって!
やったー!!
「でもね…」
「でも?!」
「4年生になったら野球のスポ少に行っちゃうだろうって!」
「えっ?そっかあ…。でもいいや、それまで剣道の方が楽しいってことになれば続けてくれるだろう!よっしゃ!!」
…といった出来事があり、この年の入団申込みを受付けたところ、小学校1年生から息子のTAKとRYOクン、HIROTクン、2年生ではYUDクンとSYOHクンの5人が入団してくれたのでありました。このちびっ子たち、絶対強くしてみんなを驚かせてやるゾー!!


          先生!オレたち早く面を着けて戦いてえ!!

この5人のマメ剣士、それぞれに個性的な子どもたちでありました。かつてのSOUクンとNORクンといったわんぱく剣士にひけをとらないくらいです。しかし、なんせまだ1年生と2年生、わたくしの言うことなど聞くはずもありません。それでもなんとか説き伏せ?竹刀振りやすり足などの基礎練習を続けました。するとここでRYOクンの練習嫌いが発覚。なんやかんやと理由をつけて稽古をサボっています。「練習しないと日本一の剣士に強くなれないぞ!」と言ってみると、RYOクン「いや、オレやっぱり野球やりてえな〜」、わたくし「(ええっ?!)」。ヤバイ、ここで剣道から興味をなくさせてしまったらたいへんです。そこで「RYOクン、稽古はあんまり楽しくないか?」と尋ねると、RYOクン「うん…、オレ早く試合してえんだ!先生試合させてくれよ!」。…なるほど、剣道から野球に興味が移った訳ではなく、早く防具を着けて戦ってみたいということのようです。

他のみんなにも尋ねてみると、異口同音に「早く防具を着けたい」、「戦いたい」、「動く相手を打ってみたい」という強い要望が…。わたくし「よし、わかった!じゃあ、ちょっと早いけどこれからの稽古では10分間だけ面を着けてやってみよう!でも、竹刀振りやすり足や踏み込み足の稽古もしっかり頑張らないとまた今の稽古に戻すぞ!」、みんな「やったー!!」と大はしゃぎ。RYOクンもいきなり竹刀を持って素振りを始めました。

そんな稽古を続けながら、なんとか冬を乗り越え翌年へ。3年生になったYUDクン、SYOHクンは今年から学年別の大会に出場です。その郡市学年別剣道大会…YUDクンはなんと1回戦、飛び込んでのコテをきめ、見事に初勝利です。観戦しに来たお母さんも大喜びです。そしてSYOHクン。SYOHクンは延長、延長、また延長…10数分も戦ったでしょうか、惜しくも追いメンをもらって敗退です。ふらふらになって試合場から戻ってきたSYOHクンをねぎらいの言葉と拍手で迎え、面金越しにSYOHクンをのぞいてみると…顔は真っ赤、目はうつろで涙、涙、鼻水をすすることも忘れ、肩を揺すりながらの荒い息づかい…そしてその息を吐くときに何か言っています。わたくし「ええっ、どうした?なに?」と面金に耳をつけて聞いてみるとSHOHクン「ちくしょうー!ハアハア…、クソー!ハアハア…」。


          なんとかこの子たちでチームを組めたらな〜

「そうかあ、残念だなあ…でも、前々からご両親に言われていたからなあ…。」と思わずため息をつきました。そうです、マメ剣士たちがいよいよこれからというときに、4年生になった有望株のSHOHクンが野球のスポ少に入団することになったのです。結局、この年に残ったマメ剣士は4年生になったYUDクン、3年生になったRYOクン、HIROTクンと息子のTAKの4人です。ただ、このうちHIROTクンは体調が思わしくないことから休みがちとなりました。また、さらに来年か再来年にはRYOクンとこのHIROTクンまで野球チームに行ってしまうような噂がまことしやかに聞こえてきます。「いや、いや、そんなこと今から心配していても仕方ないや!」と心の頭を振ってはみたもののすぐに不安になり「ホントにやめちゃうのかなあ…今の5、6年生(卒業後、R中学校で団体戦を組むことになるあの子たちです)が卒業したらこの子たちでチームを組みたいなあ〜」。

それでも、やや複雑にですが…嬉しいこともありました。3年生にYUDクンの妹のAZUSサンはじめSYUTクン、TOMONクンが入団してきたのです。「よ〜し、これでなんとか次期チームのめどがついた!特にSYUTクンはかなり体格もいいし運動能力も十分だ。ヨシヨシ!」とほくそ笑んだのもつかの間、稽古の見学に訪れた、ちょっと強面のSYUTクンのお父さんが寄ってきて「センセ、ウチのSYUT、4、5年生くらいになったら野球に入れるからヨロシク!」、わたくし「はっ?はあ〜」。ふう〜、この子もかあ…ええーい、しょうがない!竹刀を握ってくれる子なら1年間でも、半年でも…いや、たった1ヵ月だって引き受けましょうってんだ!!

少し余談になりますが、この頃からR剣道スポ少では上級生に対する呼び名を統一することにしました。団員が小学校3年生から中学校3年生までいるため、小学生が中学生の名前を呼び捨てにしているのがどうしても気になったためでした。まさか、"さん"付けでもないだろうし、小学校3年生が4年生に向かって"先輩"もおかしい。そんなとき、RYOクンのお父さんに相談してみたところ、「そうスねえ、むずかしいなあ…。まあ、ウチじゃ兄妹弟で互いに"ニイ(兄)"とか"ネエ(姉)"とか呼んでるようだけど…」、あっ、そうか!「RYOの父さん、それいい!それでいこう!!」といったやりとりがあって、次の稽古からは団員同士の年が違ったときは年下が年上を"GENにい(兄)"とか"YUMねえ(姉)"といった具合に呼ばせ、同い年の場合は呼び捨てでいいと決めました。

よしゃ、キミらはみんな兄弟みたいなもんだし、わたくしたち指導者は父親みたいなものだ。ハラハラさせられたり、驚かされたり、心配させられたり…だけど一緒に大喜びしたり・・・よろしく頼むぜマメ剣士たち!(・・・と張り切ってはみたものの、そんなに順風満帆に事が進むほどこのR剣道スポ少の道程は平たんなものではないのでありまして・・・)


          マメ剣士たちの喜び、そして憂い…

マメ剣士たちもしだいに力をつけ始めました。どの子もなかなかの運動能力の持ち主です。強いて落ちるとすればわが息子のTAKのような気がします。このままいけば…と期待していたのでありますが、最もセンスがよかったSYOHクンは野球のスポ少に、HIROTクンも体調の関係で出てこれなくなりました。そしてあの「日本一の剣道の先生に…」と幼稚園の頃に志したRYOクンまでもが…。

実はこのRYOクン、小学校に入学した当時は剣道に興味津々であったのですが、3年生になった頃から「先生、オレ野球やりたい!父さんに頼んで野球のスポーツ少年団に入れてもらうんだ!!」と言い始めたのであります。一方RYOクンのお父さんは「う〜ん、もしかすると5、6年生あたりには野球に入れなきゃいけないかもしれないス。本人の希望がとても強いもんで…」、わたくしやや顔面蒼白になりながら「…そうですか〜」、そんなわたくしの様子を哀れに思ったのかRYOクンのお父さん「いや、いや!まだ決まったわけじゃあありませんよ。それにRYOのヤツには、郡市大会でメダルをもらったら考えてもいいって言ってあるんですよ!」、少し驚いてわたくし「ええっ?そ、そしたらRYOクンはなんて?」、「わかった、頑張るって…」と笑顔のRYOクンのお父さん。そうかあ〜、RYOクンも野球かあ。残念だなあ…いや、まだ決まったわけじゃあない。…でもなあ、それに個人戦だったらRYOクンなら3位くらいまで勝ち上がる可能性もないわけじゃあない。…え〜い、そんな先のこと考えていても仕方ないや。5年生のYUDクン、4年生のRYOクンとTAK、3年生のAZUSサン、SYUTクン、TOMONクン、この6人で戦うんだ〜!!

そして6月…郡市学年別剣道大会。この大会は4年生以下の部、5年生の部、6年生の部、そして剣道部がない中学校で剣道を続けている少年剣士の部という4つの部門で優勝を競い合うのですが、ここでナント4年生の部に出場したTAKと中学生の部に出場したGENクンの2人が見事に優勝したのであります。4部門中2つの部門でR剣道スポ少が優勝するという快挙です。

この2人のほかにも2回戦、3回戦あたりまで勝ち進む団員も何人かいて大いに盛り上がるなか、ふと見るとRYOクンがうつむいています。近寄って「どうした、RYOクン?頑張ったな。もう1回勝てばベスト8だったね」と声をかけると、なおも目を伏せ気味にして「…うん」という元気のない返事。理由はわかっていました。メダルに手が届かなかったからです。しかも、普段の試合稽古ではいつも劣勢だったTAKの方が優勝してしまったのですからなおさらなのでしょう。と、ところが…


          マメ剣士の象徴、RYOクンがメダルに挑戦!!

わたくしたちの郡市では、小学生剣士の学年別大会が春と秋の2回行われます。小学校4年生のTAKが優勝したのは6月はじめの春の大会でありました。この快挙に我が家は大騒ぎ、スポ少の団員の前ではうれしさをかみ殺していたわたくしも…いや、戦ったTAKよりもわたくしが一番浮かれていたのかもしれません。娘のYUMも自分の小学生時代の最高位がベスト8だったのを引き合いに「TAK、わたしの頃は今よりずうっとレベルが高かったんだからね!!」と笑いながら負け惜しみを言っています。負けず嫌いのYUMらしい祝福のことばです。しかし、そのあとすぐに真顔になって「でも、油断してたら秋の大会で痛い目見るからね!」という娘のことばにTAKも真顔で「うん!」。ただ父親だけはそんな娘の大切なことばをまるでドラマのBGM程度に聞き流し、毎日、毎日ビデオを見ながら「キャハハ…」と杯を片手にまったくもってオメデタイ時間を過ごしていったわけでありました。

そして秋の大会。4年生以下の部に再びTAKとRYOクンが出場しました。春の覇者TAKは1、2回戦を快勝、周りで観戦している父兄から「あのRスポ少のTAKって、強いんだよな」といった声が聞こえてきます。しかし準々決勝…TAKの相手はSIS館道場の小さな女の子です。なんとかいけるだろう…と思っていた矢先、小手抜き面で1本をとられ、続いてはやる気持ちで飛び込んだTAKの面に応じて見事な抜き胴…完敗でした!あとでこの女の子が@学年下の3年生と聞いてわたくしは呆然。しかし、ここの場所ではわたくしは指導者です。動揺している時間はありません。「TAK、まだまだこれからだ!」と目に涙をためている息子に短くことばをかけ、会場を見ると隣の試合場でRYOクンが戦おうとしています。

これに勝つとベスト4です。


          父さん!オレ、メダル取ったから!!

「RYOクン、ふたつだぞ!!」と声をかけました。"ふたつ"というのは、小手面の二段打ちのことです。スピードはないのですが、力強いこの二段打ちと小手、そして追い面からの素早い引き面がRYOクンの得意技です。相手の選手もなかなかの強敵でありましたが、気合に勝るRYOクンの力強い面が決まり準決勝に進出です。息を弾ませ帰ってきたRYOクンに「よしっ、次も強いぞ。だから中途半端はだめだ!」わたくしの声にも力が入ります。「いいか、攻めるときは思いっきり攻める。そして守るところはしっかり守るんだ!わかったな!」というわたくしのことばに「はいっ!」という力強い返事。観戦に来ていたR剣道スポ少の保護者の方々も大きな期待を寄せているのがわかります。

・・・と、「父さんたら、肝心のこんなときにいないんだから…」という声。振り向くとRYOクンのお母さんです。実はRYOクンのお父さんは大会の少し前、体調を崩し、隣市の総合病院に入院してしまったのです。念願のベスト4、ついにRYOクンがメダルを手にしたというのに…。しかし、まだ試合は終わっていません。横からTAKが「RYO、頑張れ!絶対、絶対、絶対勝てよ!!」と声をかけました。そして準決勝の試合開始…相手選手も素晴らしいスピードと4年生らしからぬ優れた技量を持っています。息詰まる熱戦が続き、試合は延長に入りました。RYOクンも相手の選手もハアハア…と激しい息遣いです。…と、「コテーッ!!!」、一斉に3本の白旗。数度の延長の末、RYOクンの小手が見事に決まりました。やったー!決勝に進んだぞ!!大喜びの団員や保護者の方々のなかでRYOクンのお母さんだけが両手でハンカチを胸の前に握りしめてRYOクンを見つめていました。試合場からやや小走りに帰ってきたRYOクンは、周囲の歓声をまるで無視するかのように開口一番「ハア、ハア…先生、ゴメン!長くかかっちまった!ハア、ハア…決勝の相手、もう準備して待っているんだべえ?ハア、ハア…行かなきゃ!オレ、今度どっち、赤?白?」、慌ててわたくし「ち、ちょっと待て、RYOクン。落ち着いて!一度面を取って、休んでからでいいんだ!」、「で、でも…ほら、みんな待ってるし…」とRYOクン。

わんぱくというか、きかん坊のイメージが強いRYOクンですが、実はとても責任感が強い子なのであります。主審の先生もそんな様子を見て笑いながら近づいてきて「キミ、大丈夫?水でも飲んでもう少し休憩しなさい」。ふう〜、ようしRYOクン行くぞ!!


          去っていく仲間たちをTAKが見送る・・・

決勝でもRYOクンは持てる力をすべて出し切って善戦しました。しかし、相手の上手さに一瞬のすきをつかれ、面をとられての1本負け…残念ながら優勝は逃してしまいましたが、春の大会のあの悔しさを吹き飛ばすような素晴らしい戦いぶりに負けても笑顔、笑顔です。

そして同時にこの大会で銀メダルを手にしたRYOクンは、同学年のHIROTクンとともに、このあと念願のR野球スポーツ少年団へと活躍の場を移していったのでありました。とても残念でありましたが本人の意志なのですから仕方ありません。RYOクン、HIROTクン、2人とも野球、頑張れよ!!心の中でそう願うわたくしでありました。

しかし、このとき去っていく2人の後姿を見て、R剣道スポーツ少年団の中で誰よりも寂しさを感じていたのは、1人団に残ったTAKであったことに気がついたのは、これからかなり経ってからのことでありました。


          そしてまた3人の少年剣士がそれぞれの道を・・・

RYOクンたちがいなくなったR剣道スポ少の小学生チームは、6年生のYUDクン、5年生のTAK、4年生のAZUSサン、SYUTクン、TOMONクンという布陣になりました。RYOクンたちがいたころよりもちょっと小粒かな!?という印象はやっぱりあったものの、それでもみんな秘めた力は十分持っていましたし、特に4年生が伸びてきたらけっこうまとまりのいいチームになるような気もしました。しかし、どうしても団体戦での勝利に結びついていきません。はじめは「こんなもんですよ!大丈夫、大丈夫!」というわたくしの楽観的なことばを信じて熱心に応援してくれていた保護者の方々からも、いつしか大会々場で「…なんか可哀そうな感じがする」というつぶやきとも、やや憤りともとれるような声が出てしまうほどになってしまいました。ふう〜、参ったなあ。でも、みんな頑張っているんだよなあ〜。YUDクンだって、郡市の中じゃあ上位の技量を持っているし、TAKも抜きん出るほどではないものの5年生にしてはそこそこの試合をしてくれている。4年生のSYUTクンに至っては郡市の学年別で3位に入賞したほど成長してきたっていうのに…。

結局、団体戦最後の招待試合でも惜しいところで勝ちに結びつかず、結局、平成16年が過ぎようとしていたときでありました。YUDクンのお母さんからお話がありました。「IKE先生、すみません…実は…YUDを隣市のOMAG南中学校に入学させて、剣道を思いっきりやらせたいと思っているんですが…」、わたくし「ええっ、…はあ!?」、「もちろんこれは親の押し付けなんかじゃなくてYUDの希望なんです」、少し動揺を抑えながらわたくし「そ、そうですかあ…。わかりました!頑張らせてください!!」。うん、そうだよなあ、YUDクンもそれだけ剣道が好きなんだ。好きな剣道を思いっきりやって強くなりたいって思うことの方が自然なんだ…そんなことをぼんやりと考えていると、YUDクンのお母さんは続けて「それと…妹のAZUSなんですが…」、「は、はい?」、「…この際、AZUSも兄ちゃんの学校に近いKAKU道場に移ろうと思って…」、驚きを隠せず…しかし、なにかこれも自然な流れかなあ〜と思いながら「わかりました!YUDクンもAZUSサンもスゴイいいものを持っている子たちです。頑張らせてください!それじゃあ、送別会をやらなきゃいけないなあ」と笑いながらわたくしが答えると、YUDクンのお母さんの顔がパッと明るくなり「ありがとうございます!!」。おそらくR剣道スポ少の団員たちやわたくしたち指導者のことを気にし、かなり考えた末に打ち明けてくれたのでしょう。頬が上気し、ホッとしたような表情のお母さん。

結局、このあとSYUTクンのご両親からも来年から野球をやらせたいので、R剣道スポ少は退団するという連絡がありました。夢は甲子園!というSYUTクン、短い間だったけど頑張ったね。ありがとう。結局、チームから3人の団員が去っていくことになりました。気持ちよく退団させてあげたいと思い、年度末の納め会は送別会も兼ねることとして食事会を開きました。3人とも頑張れ!たまには遊びに来いよ!!


          新規入団者がゼロ・・・また振り出しに

そして春の新団員募集…愕然としました。な、なんと小学生の新規入団希望者はゼロ…結局小学生はTAKとTOMONクンの2人だけになってしまったのです。「…ウ、ウウ…」と声にならないわたくし。ど、どうすりゃいいんだあ?こ、これじゃあ、スポ少がなくなっちまう〜!!なあ〜んか、毎日の張りがなくなってしまうのを感じました。小学校6年生になった息子のTAKにも心なしか元気がないような気がします。5年生になったTOMONクンも練習を休みがちになりました。

そんなとき、娘のYUMが小学生だった頃から親交のあるKAKUD中学校の選手のお父さんに出会いました。GTOさんという方で、剣道はやらないのですが、若い頃は陸上競技の選手で全県優勝も経験したこともある熱血漢の料理人さんです。遠くにGTOさんの姿を見つけ駆け寄るわたくしに笑顔で「久しぶりです、IKEさん!」、わたくしも「いやあ、どうも!GTOさんも元気そうですね!」。しばらくお互いの子どもたちの近況などを報告した後、わたくしが「いやあ、実は…」と、つい今の沈滞したR剣道スポ少の状況をぼやくと…「なに言ってるんですか、IKEさん!!」とやや強い口調でGTOさん。続けて「あなたらしくないじゃないですか、そんな団員が減ったくらいで!まだ小学生が2人いるんでしょう!?息子さん、頑張って稽古続けているんでしょう!?R剣道スポ少って、そういうところから始められたんじゃないんですか!!」、わたくし「…」、なおも続けてGTOさん「最初に戻っただけですよ!また頑張ればいいだけじゃないんですか?!」、「…そ、そうスよねえ。…そう言われてみりゃあそうだ!」、「そうですよ!」、ふたり「アッハハハ…!」。有難かったです…本当に有難かったです。少年剣道を通じて知り合ったGTOさんにR剣道スポ少の"初心"を思い出させていただいたような気がしました。よ〜し、頑張るか〜…でも、…2人じゃなあ…あっ、いかん、いかん!!すぐ弱気になってしまう。たった今しがた決意したばっかりなのに!くっそー!!でもなあ〜ふう…。

そんなカラ元気を出してみたり、くじけそうになったりしていた4月のはじめです。自宅に隣村のRENS館道場のKUROS先生から電話が入りました。KUROS先生は、わたくしがR剣道スポ少の指導を始めたばかりの頃に、指導の仕方などを教えていただいた恩人といってもいいくらいの先生です。「IKEさんですか?」、「は、はい!」、「実はねえ〜…」といつもの張り切った口調よりもずいぶんトーンダウンした声です。「どうしました?」、「実は、ウチの方の子どもたちもずいぶん小さい子しかいなくなってしまってねえ。大会に出せる小学生が1人しかいないんですよ…」、「ええっ?先生のところがですか??」、「ああ、近頃の子どもたちは、野球やら、バスケットボールやら、バレーボールやらスマートなスポーツに憧れるみたいでさ。ふう〜」とため息。わたくし「いやあ、こちらも同じです。今年なんかTAKと5年生が1人いるだけなんですよ〜」、「そうですか…いや、で、そこで相談なんだが…今年、ウチの4年生…RYUTというんだが、キミのところの選手として大会に出してもらえないだろうか…」、驚いてわたくし「あっ、いやっ、それだったら、先生の方にウチの方が合流しますよ!」、「いや、そこはキミの方で頼みますよ。どうですか、何とかお願いできませんか?」、恐縮してわたくし「滅相もない!こちらの方こそよろしくお願いします!!なんていったって、このままじゃあ大会に出れないんですから!」。…といったわけで、この年のチームは先鋒にRENS館道場で4年生のRYUTクン、中堅に5年生のTOMONクン、大将に6年生のTAKと3人で臨むことになったのでありました。

まさにR剣道スポ少のてんやわんやの活動が始まった頃…娘のYUMたち女子剣士3人を連れておどおどしながら大会に出ていたあの頃に再び戻ったのでありました


          またきっと良い日が来る、またきっと!

5月、春らんまんのゴールデンウィーク。郡市の大会で最も早い大会がKAKUD町で行われました。伝統あるこの大会に出場できるようになったのもつい2、3年前からです。今年は出れないのか〜と残念に思っていたのですが、RENS館道場との合同チームという思わぬかたちでの参加です。RENS館道場のRYUTクンは4年生、ミニバスのスポ少にも所属している元気で明るい子です。まだ竹刀を握って1年ほどですがとても素早い動きをします。TOMONクンは5年生。2年前から剣道を始めましたが、「学年で一番背が低いかもしれない」とご両親が苦笑して言うとおり体格や体力が未だついてきておらず、少し甘えん坊で気の弱いところがあります。

大会々会場に着くと県南地区の小中学生が試合を前に稽古をしており、その気合いの凄さに4、5年生が圧倒されているのがわかります。「TAK、ちょっと!」と息子を呼びました。駆け寄るTAKに「下級生の2人がかなり気後れしているから、オマエがよく面倒をみて練習させてくれ」、「はいっ!」と返事をしてTAKが2人のもとへ。そこへRENS館道場のKUROS先生とRYUTクンのご両親「おはようございます!お世話になります!」、「こちらこそ!!」。しばらく談笑しているとTAKがやってきました。「先生、一応2人に切り返しと基本稽古をやらせました。ただ…」、わたくし「ただ…どうした?」、TAK「あの2人、オレの打ちが痛いらしくて…」、「んっ?!」、「打たせてくれないっていうか…、打つと涙ぐむっていうか…」、「そ、そうか。まあ仕方ない。オマエはストレッチングだけしっかりやりなさい」、「わかりました!」。再び下級生のいる体育館の端っこにTAKが戻ると、少し腰をかがめてTAKが2人に何か言っています。どうやら座って面を外し、そこで待つように指示したようです。それから自分も面をとってストレッチングと軽い竹刀振りを始めました。KUROS先生が「子どもたちのところに行ってあげなくて大丈夫ですか?」、わたくし「いや、大丈夫だと思います。昨日、TAKによく面倒をみるように言ってありますから」、「そうですか」と少し笑みを浮かべてKUROS先生

それでも試合の方はみんな頑張りました。もちろん好結果を出すといったところまではいかなかったものの、無理だと思っていた大会に出れたことに意義がありました。試合を終えて、帰りにみんなで近くの川原に行き、満開の桜の下で昼食をとりました。4、5年生の子たちの顔から緊張感がとれ、ニコニコしながら美味しそうにおにぎりをほおばっています。TAKも玉子焼きをかじりながら「試合でもあれくらいリラックスしてやればいいのにな」と苦笑しながら生意気なことを言っています。「まあ、そう言うな。大会に出れたんだ。みんな頑張ったし、それにまだ始まったばかりだ。姉ちゃんの時なんてもっと大変だったんだから」というわたくしの言葉に今度はソーセージを口に運びながらコクリ。そこにRENS館道場のKUROS先生が「IKEさん、また、良いときが来ますよ。そういうふうにできているもんです」と笑顔。ホント、そんな日が来るといいなあ〜


          あのマメ剣士たちが帰ってくる・・・?

それから2ヵ月半ほども経ったある日の夜、家に帰るとカミさんが「ねえ、RYOクンだけどさあ…」、わたくし「…」、カミさん「ちょっと、聞いてる?!」、わたくし「んんっ?」、やや苛立った調子でカミさん「だから、野球に行ったRYOクンなんだけど…聞いてんの!?」、わたくし「聞いてる、聞いてる」、「もうっ!…まあ、いいや。RYOクンさ、7月か、8月頃の大会が最後らしくって、それが終わったらまた剣道やりに来てくれるかもしれないって!」、飲みかけのビールを吹き出しそうになりながらわたくし「ホ、ホントか?!」、「うん、それにHIROTクンも!」、「マ、マジで〜!?」。

気がつくと、少し離れたところでマンガを読んでいたはずのTAKが、いつのまにか傍に寄ってきていて、何も話さず、柱を片手で軽くつかんで立っていたのでありました…。


          カミさんが鬼の眼光で・・あなたは鈍い!!

「おう、TAK、聞いたか?RYOクンとHIROTクン、また剣道やりに来てくれるかもしれないってサ!」、TAK「…」、わたくし「どうやら野球の公式戦が終わったんで、野球の練習の合い間に剣道をっていう話らしい!」、TAK「ふ〜ん…」、なにか拍子抜けするくらい息子の気のない返事にわたくし「なんだ、嬉しくないのかあ?!」、TAK「別に…、未だ決まったわけじゃないんだろ?」、「そりゃあ、そうだけど…」、「うわさじゃあ、野球スポ少の6年生はみんなミニバスやドッジボールの方に行ったり、そのまま4、5年生の練習相手になるって聞いたけど…」、「RYOクンが言ったのか?」、「RYOはそんなこと言ってないけど、だからって…」と途中まで言いかけてTAKが居間の方へ引き返そうとしたその背中に「でも、わたし今日RYOクンのお母さんから直接聞いてきたのよ!」とカミさん。その声に少しだけ反応したようにも見えましたが、振り返りもせず息子はまたあぐらをかいてマンガを読み始めました。

「おいっ、TAK!おま…」と言いかけたところにカミさんが「ちょっと、ちょっと!(声をひそめて)今日は止めとこう!」と割って入り、続けて「考えてみたら、みんな去年の終わり頃からそれぞれのところに行ってしまって…あの子1人残された感じでけっこう寂しい思いをしてきたんだから…」、少し驚いてわたくし「ええっ!?ホント?」、呆れ顔でカミさん「そうよ、あなた気づかなかったの?」、「あ、ああ…だって、あいつ全然そんなこと…」、「鈍い!ホントそういうとこあなたは鈍い!!世の中、あなたみたいに1人でも頑張ることがカッコいいんだ!みたいな人ばっかりじゃないの!それどころか、あなたみたいな人の方が稀なんだから…」というとげのあるカミさんの言葉にカチンときたわたくしは、少し声を荒げて「なに言ってんだ!!だいたいなあ…」とカミさんに向き直ったところで話を止めました。…カミさんが包丁を持ったままの右手の甲で涙をぬぐっていたためであります。

「どうかしたの?」という声に振り返ると息子が立っていました。「オレ、腹減ったんだけど…晩メシまだ〜?」というTAKに声をかけようとしたところ、カミさんの「テメエ、コレ以上何カ言ッタラ許サネエ!」と言わんばかりの鬼の眼光…首をすくめ、すごすごと残りのビールをコップに注ぐわたくしなのでありました。


          RYOクンたちのやさしさ・・マメ剣士たちが駆けつける

そして、ある夏のスポ少練習日。いつものように夕方の体育館に息子のTAKと一緒に行ってみると、わたくしの姿を見つけてがっちりとした体格に坊主頭の少年が駆け寄ってきました。日焼けした精悍な顔に白い歯を見せ、頭をかきながら照れくさそうにペコンとおじぎをしてくれたその子は、次にTAKに向かって「よおっ!」。わたくしは思わず右手でその子の左肩を掴みながら「RYOクン!き、来てくれたのか、ありがとう!!」、するとRYOクンはその笑顔をさらに輝かせながら「はい、まあ・・・4年生以来だからあんまり出来ないと思うけど・・・」、「いや、大丈夫、大丈夫だよ!それに急ぐ必要もない。少しずつ思い出しながらやればいい!」と少し興奮気味のわたくしの横に防具と竹刀を持ったままのTAKが「RYO、オマエ野球が終わったらミニバスに行くんじゃなかったのか?」と問いかけました。するとRYOクンは「うん、ミニバスには行かねえことにした。ただ、5年生たちの野球の練習相手にならなきゃいけないときは、こっち休むから・・・」向き直ってRYOクン「それでもいいですか、IKE先生?」。もちろんわたくしに異論などあるわけもなく「もちろんだ、それでいいよ!よしっ、じゃあとにかくキミの防具を準備しよう。ロッカー室に行こう!」そう言ってRYOクンと防具を保管してあるロッカー室に向かっていた後の方で「おいっ、みんな集合!準備運動を始めるぞ!・・・何やってんだ、早くしろよ!!」という明らかにいつもよりもはりのある元気なTAKの声が聞こえてきたのでありました。

帰宅後、TAKは「ああ〜汗かいた!父さん、オレ先に風呂に入るよ!」と言って浴室へ。わたくしは、冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出してゴクゴク・・・。「プワ〜ッ、うまい!!そうだ、おいおい、今日、本当にRYOクンがスポ少に来てくれたよ!」とカミさんに報告すると、「ホント!?よかったじゃない!」とカミさんもにっこり。続けてわたくし「なんでも、ミニバスに行くつもりだったらしいんだけど、どうやら気が変わったらしい。気分屋のRYOクンらしいな。でもそれでこっちは大助かりなんだけど、ハハハ・・・」と笑うわたくしにカミさんがフウ〜というため息とともに呆れたような表情で「あなた、それ違うよ!」、わたくし「ええっ?」

カミさん「RYOクン、本当に野球部の6年生と一緒にミニバスに行こうとしてたみたい」、わたくし「・・・」、続けてカミさん「だけど、RYOクンの母さんがRYOクンに"12月までの数カ月だけ剣道やってみたらどう?"って言ってくれたらしいの」、わたくし「・・・それじゃあ、RYOクンはお母さんに言われて嫌々・・・?」、というわたくしの言葉をさえぎってカミさん「そうじゃない!RYOクンのお母さんがそう言ったら、RYOクン、しばらく考えて"・・・母さん、団体戦が終わるまでの間だけ、もう1回剣道やろうかな"って言ってくれたらしいの」、そんな話しを聞かされたわたくしは驚きと戸惑いの気持ちで「そっかあ・・・そうなんだ。でも何でなんだろうな。キミの話しを聞いていると、どうやら気まぐれってことじゃないみたいだよな・・・」。「どうしてだと思う?どうしてRYOクンがそう言ってくれたと思う?」と問いかけるカミさんに「ど、どうしってって・・・わからないよ・・・」。カミさん「そのあとRYOクン、お母さんにこう言ったんだって。"TAKのヤツ、今、スポ少でアイツの練習相手になれる選手がいなくて、独りで竹刀振りとかやっているらしい。オレ、団体戦が終わるまでTAKの練習相手になってくるよ。母さんも、オレに剣道やれって言うの、そういう意味だろ"って!」。

思いがけないカミさんの話しにわたくしは、驚きとそして感謝の気持ちでいっぱいになりました。同学年や先輩たちがスポ少から去っていき、R剣道スポ少の団員の中にTAKの練習相手になれる技量の剣士がいなくなったという現実的な問題もさることながら、期間限定とはいえRYOクンの再入団は、自分独りだけが取り残されたような寂しさによって弱くなっていたTAKの剣道に対する気持ちの炎を勢いづかせてくれるのに十分な出来事であり、このうえもないやさしさでもありました。そしてその数日後、HIROTクンも再入団・・・夏になり、ここでやっとこの年のR剣道スポ少団体戦メンバー5人が揃ったのでありました。(このときの経緯をTAKには今でも話してありません。でも、話さなくてもTAKはRYOクン、HIROTクンのこのときのやさしさを十分に感じ取ったに違いありません。なぜなら目の前の勝利に全力を注ぎ、厳しく攻め抜くという今の自分の戦い方を身に付けたのは確かにこの頃であったのですから・・・)

いよいよ、この年の団体戦が始まりました。布陣は、先鋒に4年生のRYUTクン、次鋒に5年生のTOMNクン、中堅にHIROTクン、副将にRYOクン、そして大将にTAKであります。


          いよいよ新チームが始動・・秋の郡市大会に臨む

新チームになってからの初めての団体戦は、9月のはじめの全県少年剣道大会でした。この日は残念ながらHIROTクンが体調不良のため中堅を欠いての戦いとなりました。さすがにレベルが高く、予選リーグの2試合とも落としてしまいましたが、副将のRYOクンと大将のTAKはそれなりの力を見せてくれました。何よりRYOクンの加入によってTAKの精神的な負担がとても軽くなったように思えました。試合と試合の合い間もRYOクンが下級生に抱きついていたずらしている様子を見て、TAKも声を上げて可笑しそうに笑っています。「ふう〜、これで良いんだよなあ。こんな風に子どもらしく明るい表情で試合に臨むのが自然だし、当たり前なんだよなあ。よかったなあ…」とつくづく思うわたくしなのでありました。

そして2週間後、秋の郡市小学生大会が開催されました。この日はHIROTクンも元気いっぱいで他の4人に合流してくれました。いよいよ新チームの始動です。午前中は学年別の個人戦。2回戦を勝ち抜いたのはRYOクンとTAKだけでしたが、残念ながらRYOクンは3回戦で敗退です。RYOクンがその試合を終えたときちょうどTAKの試合が始まりました。TAKはここも突破しベスト8です。わたくしと一緒にTAKの試合を観戦していたRYOクンがぽつりと「やっぱりTAKは強え〜なあ!」。この言葉を聞いてわたくしは少し目頭が熱くなりました。RYOクンはそういう少年なのです。ちょっと練習嫌いだけれど、試合をするときは礼儀正しく、ファイト満々に戦い、終わると負け惜しみなど決して言わず、清清しい顔でチームを応援するし、ちゃんと仲間の力を認めてあげられる素直な気持ちを持っている…「いい子だなあ」と本当に思います

個人戦が終了し、団体戦は午後からです。約1時間の昼食時間・・・団員たちは控え所に戻り、各家庭で作ってもらってきたおにぎりをほおばりながらわいわいがやがや。TAKもフォークに卵焼きを刺したままHIROTクンと笑いながら話しをしています。RYOクンはというと、昔からのガキ大将らしく、とっくに弁当をたいらげて嫌がる下級生のTOMNクンやRYUTクンにちょっかいを出しながら喜んでいます。「やっぱり5人いるといいなあ〜。そのうえ6年生が3人もいるとチームがなんだか力強くなってきたようにも思えるし、明るさも出てきた。よしっ!


          マメ剣士たちが再びそろう・・KAKU道場戦で得た糧

そして団体戦の時間が近づいてきました。初戦はKARI剣道スポ少Bチームです。BチームであろうがCチームであろうが、いつの大会でも、どんな試合でもR剣道スポ少は必死で戦わなければなりません。そうしなければ団体戦の勝利など得られるはずもありません。「よ〜し、そろそろ時間だ!第一試合だからもう試合場に行って準備運動と軽く基本技をやって!」と声をかけるとみんなの顔に緊張が走りました。「行こう!」最初に声を出したのはRYOクン、他の6年生もすぐに立ち上がりました。下級生の2人も慌て気味に後を追います。1回戦は行けるかもしれない・・・いつになくそんな予感

結局、初戦は3−1の勝利を収めることができました。中堅のHIROTクンが終わり1−1の互角で副将へ。そこから副将のRYOクンと大将のTAKが共に勝つという思ったとおりの展開での快勝です。そして2回戦は・・・郡市内では敵なしの名門KAKU道場です。先鋒から大将までどこをとっても小学生離れした選手ばかりがそろっています。特に先−中−大の要がしっかりしている県下でも上位に位置する強豪です。そんなチームにR剣道スポ少がかなうはずもありません。試合場で観戦している人のおそらく全員が「KAKU道場の5−0勝ちだな」と思っていたでしょう・・・もちろんそれはわたくしも含めて。

と、ところが・・・先鋒の4年生RYUTクンこそ2本取られたものの、次鋒の5年生TOMNクンはナント引き分け、続いて中堅のHIROTクンは終了間際にメンを取られて惜しくも1本負けというかたちで副将戦です。相手は女子のMIZHサン。この選手にはRYOクンやTAKが4、5年生のときに何度か対戦し敗れている相手です。しかし、この日のRYOクンは2年ぶりの剣道とはいえコテメンと飛び込んでのコテを中心に積極的な攻撃で相手を追い詰めています。考えてみるとRYOクンもHIROTクンもこの2年間毎日野球部の厳しい練習を経てその心身を鍛え上げてきたのです。その強い心と身体をもって懸命な戦いを挑まれれば、いかに強い小学生剣士でもそう簡単に勝てないのは当然かもしれません。

結局、RYOクンはまさに互角以上に試合を進めたものの惜しくも引き分け、試合はここで決まりました。そして大将のTAKです。「試合は決まった。とにかく休まず攻めて勝ちに行け!」というわたくしの耳打ちにコクリとうなずいてTAKは試合場に入っていきました。相手大将のKIMクンは郡市内では敵なしといってもいいほどの少年剣士です。はじめっ!コテメ〜ン!!会場のみんなが呆気にとられました。あろうことか、開始早々TAKの早いコテメンがあの強いKIMクンから一本をもぎ取ったのです。「行け、TAK!もう一本取りに行くんだ!!」。このときの大将のTAKはとにかく攻めの剣道・・・と言うか、周囲から「TAK、落ち着け!!」という声がかかるほど、とにかくがむしゃらな剣道を貫きました。結果、相メンで一本を返され、1−1の引き分け。しかし、KAKU道場戦での0−2の敗戦は、それからのR剣道スポ少の大きな糧になったと言っても過言ではないように思う一戦となりました。


          めざすはチームの勝利・・悔しさが芽生える

9月のこの郡市大会も終わり、約1ヵ月後にはSENS道場の招待試合がありました。ここでも予選リーグでKAKU道場との対戦がありました。そしてこの日も中堅まで0−2で副将のRYOクンに回ってきました。相手はもちろん宿敵MIZHサンです。試合も中盤…RYOクンがメンを取られました。う〜ん、やられたかあ…と思っているとメーン!やった、RYOクンがメンを返したぞ!!…そして試合終了の合図。惜しくも引分けです。見ると大将のTAKが中天を見上げて残念がっています。RYO、RYO、オレまで回せ!!TAKは心の中でそう叫んでいたのかもしれません。結局、大将のTAKは相手大将のKIMクンの上手い引きメンを決められ1本負け。試合は0−3で敗れました。あの強いKAKU道場相手にここまでやれれば大善戦なのですが、そんな気持ちなど少しも湧かず、団員みんなが負けたことの悔しさばかりを感じる一戦となったのでありました。考えてみるとこれこそがこのチームの成長の証だったのかもしれません。

そして11月…KARI剣道スポ少主催の招待試合の日がやってきました。この大会がこのチームで戦う最後の団体戦です。予選リーグはSENS道場、KARIスポ少Bチーム、OMAスポ少Cチームと一緒です。ここで2位以内に入ると午後からの決勝トーナメントに残ります。しかも初戦のSENS道場を倒せれば1位で予選リーグを突破できるはずです。


          RYOクンの苦手は女子剣士・・それでも予選を突破

SENS道場との試合が始まりました。中堅まで0−1です。そして副将のRYOクン…よしっ、少し手間取ったけどコテを決めての1本勝ちで勝者数が1−1になりました。でもまだ本数で1本負けています。TAK、まずは落ち着いて1本をていねいに取って…えっ?な、ナニやってるんだTAK!?見ると主審の先生のはじめっ!の声と同時に大将のTAKが何かに憑かれたかのようにがむしゃらな戦いを挑んでいっています。間合いも、剣先も、足さばきもあったものじゃありません。自分の持っている力とスピードに任せて相手に打って出るTAKに「おいっ、TAK!落ち着いて…こらっ、落ち着けって!!」監督のわたくしだけではなく周囲で応援している保護者の方たちからも「TAKクン、慌てないで!」とか「ていねいに1本でいいよ!」といった声が飛んでいます。考えてみると、勝負がかかったときのTAKは本当に熱くなる少年剣士です。5年生のときも大きな体格の6年生相手にどうしようもなくなり、何を思ったか右上段に構えて戦いを挑み周囲を驚かせたこともある子なのですから、初めて狙って予選突破を果たそうとする大将のTAKにとってこれくらいは当たり前なのかもしれません。その証拠に隣ではRYOクンたち選手が「その調子だ!行け、TAK!!」と叫んでいるのですから。…とそのときメーンというTAKの声と同時に3本の赤い旗が一斉に上がりました。渾身の引きメンです。そのあとも同じく引きメンを決め、最大の関門SENS道場を相手に2−1で勝利を収めたのでありました。よし、次は強いOMAスポ少とはいえ4年生が中心のCチームです。ここは大丈夫だ…と思いきや、な、なんと0−1で引き継いだRYOクンがか弱い女子剣士相手にメンを先取したにもかかわらずメン2本を返されてまさかの敗戦…勝負はここで決まってしまったのでした。天を仰ぎながら帰ってきたRYOクンがTAKとすれ違うときに右の小手を小さく上げました。おそらく「ワルイ!」とでも言ったのでしょう。軽くうなずいたTAKは敗戦が決まっているものの力いっぱいの戦いで2本勝ちを収めて帰ってきました。

試合後「あんた、何やってんの!?」という声に振り返るとRYOクンのお母さんがRYOクンを叱っています。「あっ、お母さん、怒らないでください。RYOクンだって精一杯やったんですから…」というわたくしの声をさえぎってRYOクンの母さん「センセ、この子ったら6年生になった今でも女の子相手だと…」、「ああっ!」とわたくし。そうでした・・・これは冗談でもなんでもなく、RYOクンは1年生から4年生まで剣道を続けてきたのですが、どういうわけか女子にめっぽう弱いというジンクス?のようなものがあったのです。見た目はいがぐり頭に一重の切れ長のまぶた、顔は真っ黒に日焼けしていて中学生と見間違うようながっちりとした体格をしています。運動能力ももちろん抜群です。・・・で、ですが女子には本当に分が悪い・・・というか弱い!!それが6年生になった今でも続いていたなんて・・・。

気を取り直しての予選3戦目、KARIスポ少Bチームです。BチームとはいえR剣道スポ少が楽に勝てる相手などどこにもいません。またしても0−1で副将のRYOクンでしたが、ここは上手くさばいて1−1です。続いて大将のTAK。ここでも試合が始まると周囲からは「TAK!落ち着けえー!!」コールが周囲から湧き上がりました。しかし、TAKはそんな声などお構いなしにひたすら打ち続けるだけの剣道です。「TAK、行けえー!」というRYOクンの声援を背中に受けてこれも2本勝ちでチームを勝利に導いてくれました。


          三度目のKAKU道場戦・・勝負は決したものの

結局、R剣道スポ少は2勝1敗でSENS道場と並んだものの勝者数で下回り、予選2位で決勝トーナメントに進むことになりました。「みんな、予選突破だぞ、午後から決勝トーナメントだ!」というわたくしの声に4、5年生の先鋒、次鋒は大喜び。6年生3人も会心の笑みを浮かべています。先鋒のRYUTクンが「IKE先生、次の相手はどこ?」という問いかけに「あっ、まだ見てなかった・・・ちょ、ちょっと待って!」と組み合わせを確認しようとしたわたくしにある保護者が「KAKU道場です。会場の後ろの方に張り出していました」、「そ、そうですか・・・」とわたくし。参ったなあ・・・3大会連続KAKU道場と戦うなんて考えてもみなかったよなあ・・・。昼食の前にわたくしは団員たちを呼びました。「決勝トーナメントの相手は今度もKAKU道場だ。確かに強いけど勝負はやってみなくちゃわからない。みんな勝つつもりで一生懸命に頑張れ!」続けて「負けたらこれがこのチームで戦う最後の試合になる。特に6年生は思いっきり行け!!」というわたくしの言葉に3人の6年生は力強く「はいっ!」

決勝トーナメントが始まりました。驚いたことに・・・いや嬉しいことなのかもしれません。試合前に整列したKAKU道場の選手たちを見ると、先鋒から大将までの全員にこれまでにないような真剣さや気迫を感じます。試合開始・・・やはりそうでした。先鋒、次鋒ともに激しく、そして厳しい勝負を挑まれ、簡単に2本を取られ完敗。後がない中堅戦・・・HIROTクンが必死に頑張ります。飛び込んでのメンとコテ、引いてのドウしか攻め技がないなか、それでも懸命に戦っています。もう少しだ、このまま引分けで・・・と思った瞬間、メーンという相手中堅の鋭い気合い。・・・見事に相い面を制せられて1本を先取されてしまいました。2本目!という主審の声があって数秒後・・・止めえ!!ここで団体戦の勝負は決しました。

「気を抜くな!勝ちにいけ、RYOクン!」というわたくしの声にコクリとうなづき、そして副将戦・・・団体戦の勝負がついたとはいえKAKU道場の厳しい攻めは続きます。明らかにKAKU道場は5−0の完勝を狙ってきているようです。珍しく防戦にまわるRYOクン。「勝負だ、攻め返すんだ!RYOクン!!」。その後、RYOクンも気合い十分に盛り返しをはかり、互角の戦いへと持ち込みました。惜しい!RYOクンの鋭いコテメンに・・・審判の腕がぴくりと動きました。危ない!相手副将の女子剣士が鋭い出がしらのコテを返しました・・・今度は審判の反対の肘がぴくり・・・結局、この試合は引分けに終わりました。後日、RYOクンがR剣道スポ少を去るとき、「KAKU道場のMIZH(副将)と決着をつけれなかったのが残念だった・・・」とわたくしに話してくれましたが、顔に悔しさはなく、清々しささえ感じさせる話し方だったのを今も憶えています。


          副将、大将が頑張る・・TAKが無我夢中の勝利

・・・そして大将戦です。審判の声と同時にTAKが早いコテメンを相手大将KIMクンに打ち込んだところから試合が始まりました。闘志満々の中にも今までとは違ってどこか落ち着いているように思えるTAKです。一進一退の攻防が続く中、KIMクンの出がしらにTAKのメンがかすりました。惜しい!!・・・と次の瞬間、コテー!!と今度は文句なしのコテをTAKが相手の出がしらにとらえました。そして2本目・・・TAK、これが最後だ!もう1本取りに行け!!

2本目の声があってから数十秒後、TAKはまたしても相手大将から出がしらのコテをもぎ取り、見事な2本勝ちを収めたのでありました。KAKU道場相手に勝者数1−3と完敗ではありましたが、試合直後、選手たちが畳から立ち上がり整列しようとしたとき、RYOクンがTAKに歩み寄り、その肩をポンと叩きました。TAKも面越しにRYOクンの方を向いてコクリ。HIROTクンも2人の方に顔を向けてニッコリ微笑んでいます。それが全てだったと思います。

TAKが1人で頑張ってるから・・・たった・・・たったそれだけの理由でR剣道スポ少に再入団してくれた2人の6年生。整列し、KAKU道場の選手たちと互いに礼をしたとき、周囲から暖かい拍手をもらいました。そしてそれは、R剣道スポ少の保護者の人たちよりもずっと、ずっと多い数の拍手でした。「IKE!」と声をかけられ振り向くと審判に来ていた高校時代の先輩が冷やかし気味に「最後にR剣道スポ少がみんないいとこ持っていっちゃたな!」と笑って声をかけてくれました。

みんな、よくがんばったな。最後まで元気に頑張るR剣道スポ少らしい剣道を見せてくれてありがとう。6年生は中学校に行ってもそれぞれが選んだ場所で一生懸命頑張れよ。そして下級生は・・・あれ?そうだ、ウチにはあと5年生1人と、ミニバスと掛け持ちの4年生1人に加えて最近防具を着けたばかりの3年生2人と2年生1人しかいなかったんだ〜!!こ、こりゃあ来年も大変だ〜!!!


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