◇ 超個性派チビッコ強気軍団の挑戦

          オレ、来年大将だからがんばらなきゃなあ・・!?

平成18年度も新年も明けたころ・・我が家の夜の食卓では春からの小学生チームについてああでもない、こうでもない・・とわたくしと春から福祉系の専門学校に進学した娘のYUMとでちょっとした議論をしておりました。「ちょっと、これけっこう難しいよなあ!」と言うわたくしに、「まあ、しょうがないから小学生と中学生のそれぞれから主将を出すのは今年は止めといて、中1のTAKに両方見させたらいいじゃん」と娘、「だけどなあ・・できればなあ・・」とわたくしが決断できずにいるところに息子のTAKがやってきました。「ナニやってんの?」と尋ねる息子に「いや、今年の小学生チームの主将なんだけど・・」とわたくしが返すと少し笑みをたたえながら「ああ、それなら6年生のTOMONに決まってるべ。6年生はTOMON1人だし・・」と息子が即答。「ええっ!?」と思わず顔を見合わせるわたくしと娘。缶ビールをひとくちゴクリと飲み込んでから「いやあ、オマエそう言うけど、TOMONくんじゃあ・・」

TOMONくんというのは昨年まで次鋒を務めていた団員で今年の6年生は彼1人です。小学校2年生のときに入団してきた子で、キャリアはあるのですが身体がずいぶん低い(140cmくらい?)こともあってかとっても、とっても甘えん坊な少年です。練習中でも少し強く打たれるとその痛みがとれるまで休んでしまいますし、指導が厳しかったり、試合稽古や本番の試合でも劣勢に立つと泣きながら戦うこともしばしばでしたから、「小学生チームの主将はTOMONくん」と自信をもって話するTAKのことばにわたくしと娘が驚いたのも仕方のないことなのであります。

そんなわたくしたちの表情を見てニヤニヤしながら息子が言うことには「だって、先月だったかな・・スポ少の練習のときにTOMONさ、下級生に"春からは6年生のオレが主将だし、大将だからたいへんだ!TAK兄さんみたいに勝てるかなあ〜"みたいなこと言ってたし・・。これで主将でもない、大将でもないってことになったらアイツかなりショックを受けると思うよ。オレとしてはTOMONに任せてあげた方がいいと思うけどな・・」


          先生、準備運動の順番がわからねえ〜

さて、いよいよ新6年生TOMONくんが主将の新チームが始動しました。初めての稽古日、「おいTOMONくん、時間だろ。みんなを集めて練習を始めて!」と声をかけると、少し緊張気味のTOMONくんが小さな声で「集まれ・・・、集まれって!おい・・・」、見かねてわたくし「おい、おいそれじゃみんなに聞こえないんじゃないか?集合!!って大きな声で叫ばなきゃ(苦笑)」、「ああ、はい!集合!!」とTOMONくん。「よし、今日からTOMONくんが小学生の主将だ。みんな協力して盛り上げるように!いいか?!」、団員「はあい!」。と、そこへTOMONくんが寄ってきて「ちょ、ちょっとIKE先生」、わたくし「なんだ?」、TOMONくん小さな声で「オ、オレ、準備運動の順序がわかんねえ・・・」、わたくし驚いて「ええっ?キ、キミだって2年生のときからほとんど同じメニューだぞお?!」、TOMONくん「は、はい・・・」、ここで自信を喪失させちゃいけないと慌ててわたくし「おい、おい、大丈夫だって!頑張れ、今日のところは中学生の力を借りよう!おい、YUYAくん、キミ今日主将代理でやってみてくれ!」と中学校1年生のYUYAくんに号令を頼みました。(そうです、ウチのM剣道スポ少では、防具を着けて小学生と中学生の練習が分かれるまでと、終わってからの所作は小学生の主将が担当することになっているのです。)

こんな具合でM剣道スポーツ少年団の平成18年度が始まりました。小学生チームは6年生のTOMONくんを筆頭に5年生のRYUTくん、4年生のYOSITくんとYUTくん、そしてチームで一番背が高い3年生のRIKくんのちょうど5人です。このうちRYUTくんはミニバスにも所属しポイントゲッターでもあるといい、RIKくんはご両親が陸上と水泳のインストラクターで、そのクラブにも所属しています。大会がかちあったりした最悪のときには3人で戦わなければいけないというリスクを背負っての船出でもあります。


          マイペース、負けず嫌い、自信家・・個性派ぞろいの剣士たち

今までもかなりの個性派剣士を見てきましたが、このたびの小学生チームはトップクラスです。6年生で主将のTOMNくんは2年生から剣道を始めました。身体が小さく、ちょっと見はまるで幼稚園の年中組さんみたいな感じでした。いけないことですが、指導者の間では「また入団してくるにしても、今回は半年持たないな・・・」といった会話をしていたのでありますが、なんと、なんと剣道の技量はさておき、気持ちは強く、とうとう6年生のこの年まで頑張ってきたのでした。ただ、防具のつけ方が上手くできず、5年生のときなどは試合中にいきなり相手に背中を向けて竹刀を振り始め・・・主審の先生が慌てて試合を中断してみると、面金の奥にTOMONくんの顔はなく、一面に手ぬぐい・・・まるで座等市のような状態で試合をしていたのでありました。試合後、「なんで審判にタイムをお願いしなかったんだ?」と尋ねるわたくしに「ええっ?試合中にタイムかけれるんですか〜?」

4年生のYUTくんは3年生のときに入団してきました。ビックリするほどの甘えん坊で、ちょっと人よりも上手くできないとすぐに泣いて稽古を止めてしまう子でした。防具を着けて稽古を始めたその年の初秋の頃に練習試合があり、ちょっと無理かな?とは思ったのですが相手も同学年だったので試合に出してみました。惜しくも1本を取られ負けてしまったYUTくんに「頑張ったな!」と声をかけ、手招きするわたくしのところまでやってきて正座をしたかと思うとYUTくんが突然前にガクッと倒れました。驚いて「お、おいYUTくん!!」と抱きかかえ、いくら揺り動かしても目をつむったままぐったり・・・どうやら気絶してしまったようです。幸い近くに養護教諭をしている相手チームの保護者の方がいて介抱してもらいYUTくんは回復してくれましたが、わたくしの心臓はバックバック。こっちが気絶しまいそうになりました。

同じく4年生のYOSITくんは太い眉毛と二重まぶたの大きな眼が印象的な子です。しかし、芯が強く、無口ではありますが、少々のことではへこたれません。ただ、いつもケホ、ケホと咳をしています。しゃべる声も心なしか鼻声です。いつか「風邪ひいているのかい?」と尋ねてみると「・・・うん」、「あんまり無理しなくていいぞ。で、いつから?」とさらに尋ねてみると「2年前から!」と言って駆けていきました。「2年前からの風邪が治ってないの・・・はあ?」呆気にとられてたたずむわたくし・・・。

3年生のRIKくんは身長が160cmほどもあろうかというジャンボくんです。スポーツ一家に育つRIKくんの運動能力は上級生を明らかに上回っているのですがスピードと体力に劣ります。いや、劣るといっても小学校3年生ですから無理もありません。少し厳しい稽古のときなどはすぐに息があがってしまいます。15秒くらいのかかり稽古を3〜4回くらいやろうものなら顔をしかめ、涙を流し、鼻水を垂らしてハー、ハー、ゼイ、ゼイ・・・。ところが見た目には今にも這いつくばりそうに見えても、稽古後「RIKくん、大丈夫か?かなりきつかったべ?」と尋ねるとにこり笑って「ぜんぜん!」と首を振って否定します。わたくしが「そ、そうかあ?でも、少しは疲れただろ?」と再び問い返しても「ううん、ぜんぜんくたびれてないよ!」とケロリとしています。じ、じゃあ、あの激しい息づかいと涙と鼻水はナニ・・・?

そして、ミニバスとかけもちの5年生RYUTくん。この子はいつも飄々としていて稽古に来てもあまり一生懸命といった感じではありません。しかし、ミニバスを頑張っているだけに本気?になったときの思い切ったメンには思わず眼を見張ってしまいます。その自信からか、明らかに練習不足なのにもかかわらず郡市大会でも、全県大会でも決まってわたくしに尋ねるのは「ねえ先生、みんな強い?オレどこまで勝てるかなあ〜?」、わたくしが「ああ、そうだなあ。まず目の前の試合の1つずつを頑張って勝とう!」と気を引き締めるように話しかけても「う〜ん、ベスト4までは4つ勝たなきゃいけないのか〜」。いやはやRYUTくん、キミのその自信はいったいどこから来るんだい?!


          初戦は完敗!個性派少年剣士の戦いが始まる・・

さて、この超個性派のちびっ子軍団も5月のはじめにはいよいよ大会への参加が始まります。桜の名所KAKU町での県南選抜小中学校剣道大会がM剣道スポ少にとって毎年の始まりの大会です。伝統のあるこの大会から招待を受けたのは5年ほども前でしょうか。連絡をもらったときは、「うわっ、ホントにぃ〜!?」という驚きとともにウチのような小さなスポ少を呼んでいただいたことを本当にありがたく思いました。

しかし、感謝の気持ちばかりを抱いていたのではいけません。せっかく招待してもらったのですから少しでも他のチームにとって歯応えのある試合をすることが望まれます…が、果たしてこのチームはそれだけの剣道をできるのだろうか…?指導者の誰もがそう思っていたのですが、稽古日にその話しをすると子どもたちは「で、先生!オレ、どこやるの?」、「あ〜あ、試合かあ…ボク出たくないなあ〜。でもやるしかないか!」、「…(ニヤ、ニヤ)」と言葉はまちまちながらみんな大会に出るのが嬉しそうです。まあ、ちょっと心配なところもあるけれど、この物怖じしないちびっ子剣士たち、けっこう頑張るかもしれないなあ〜などと思わずわたくしも苦笑いです。

さて、オーダーは…ここは、小学生を主に担当しているTAHTU指導員に任せました。ただ、「TATHU先生、大将はTOMNクンでお願いします。本人、完全にその気ですから!」というわたくしのひと言にTATHU指導員もハハハ…(苦笑)。というわけでこの大会、先鋒は5年生のRYUTクン、次鋒4年生YUTクン、中堅同じく4年生のYOSITクン、副将3年生のRIKクン、大将には6年生のTOMNクンという布陣で戦うことに決まりました。う〜ん、ちょっと勝てる気がしないというか…い、いや!指導者がこんなことを言ってちゃいけません。だいたい5人ちゃんといるのですからなんとも嬉しいことです。去年のこの大会には、6年生のTAKと5年生のTOMNクン、4年生のRYUTクンの3人で出場したのですから。

そして当日、試合が始まりました。そして、みんな一生懸命に頑張りました。しかし、いかんせん5、6年生を中心にチームを組んだ県南の強豪が集まっての大会です。残念ながら予選の3試合、すべて完敗という結果でありました。稽古場では自信満々でいた団員たちがうつむく様子を見てTATHU指導員やKUROS先生が「頑張った、頑張った!」と励ましています。…と、大将のTOMNクンがわたくしの方に顔を向けました。どうやらその視線はわたくしにではなく、わたくしの傍らに注がれているようでした。ふと横を見ると去年の大将、今では中学校1年生になったTAKが立っています。中学校ではチームを組めなかったためこの大会には出場できず、今日は小学生の試合を見学に来ていたのです。TAKは黙ってTOMNクンの視線を受けています。しかし、ついぞ彼に声をかけることをしませんでした。再びTOMNクンはうつむきかげんに防具を片付け始めました。

帰りの車中、わたくしがTAKに「なんか声をかけてやればよかったじゃないか…」と問いかけると、TAK「別に…ない」、思わずわたくし心の中で「こいつ冷てぇー!!」


          小さな身体で大きく成長!?主将が張り切る・・

「TOMN、けっこう強くなったんじゃない?」と夏頃、遅い晩ご飯をとりながら息子のTAKがこう切り出しました。実はわたくしもそう感じておりましたから、「うん、父さんもそう思う。少しは身長も伸びたのかな?」と返してみると、「いや、身長はそんなに・・。でも、なんか気持ちが少し違ってきたような気がする」と生意気に息子。しかし、まんざら当たっていないわけでもありません。キツイ稽古はいたって嫌いで、去年まではなんや、かんやといい訳を作っては練習から外れることがしばしばだったのですが、主将となった今年は日を追うごとに気持ちがしっかりしてきたような気がします。

練習を始める前の整列が遅い下級生に「やるぞ、早く集まれよ!」とか他の団員に注意を促してくれますし、「先生、基本技までできました!」と敬語で練習の進み具合を報告してくれます。少し気分屋のせいもあって、いつでも絶好調!!とはいきませんが、それでも以前に比べるとだいぶオトナになったような気がします。ある日の練習日、「おいTOMNくん、6年生ひとりで大変だろう?」と声をかけてみると「あっ、いえ!?」とはにかみながらもニッコリ。おおっ?なんか堂々として主将らしくなったような気がするぞ・・。厳しい練習だけが子どもたちを強くしたり、成長させたりするわけじゃないんだなあ・・と思うようになったのは遅ればせながらこのときだったのかもしれません。

剣道の技量にしても、団員の先頭に立って一生懸命頑張っているせいで確実に上がってきたようです。特にそれまでお世辞にも上手とは言えない足さばきで胴打ちにばかりこだわっていた剣道から、小さいながらも積極的に面へ向う姿勢が出てきたことがなにより成長したことを物語っています。4年生の終わり頃、大会中に「先生、いいこと考えた!相手の胴を狙ったふりをして足とか叩いて、痛がってるところに引き面を打つってえのはどうだろ?」と真剣に耳打ちしたTOMNくんからはとても考えられません。(ちなみにその耳打ちに答えて「そんなことしたらオレが次の練習日、同じようにキミの右足を思いっきり叩いて、思いっきりの面を打ってやるぞ!」と凄んで見せると、「わっ、いいです!やりません!!」と首をすくめていたTOMNくんでありまして・・)。

さて、平成18年の初秋、いよいよ大会が目白押しの時季となりました。小さな身体で大きな成長を見せてくれているTOMNくん中心になんとか団体で1勝!!を合言葉にみんな張り切っていくぞ〜!


          やったぜ、個性派小学生!・・・Mスポ少初の団体戦3位入賞

この小学生チームの団体メンバーは本当に個性派ばかりですが、同時に魅力的な面もありました。実際の勝利には結びつかないまでも、団体戦の"勝ちパターン"を持っていることでした。それは、郡市少年練成大会個人戦5、6年生の部で5年生ながら鋭く跳び込んでの面打ちだけでベスト4になった先鋒のRYUTクンをポイントゲッターに、なんとか大将の6年生TOMNクンまでつないでいくというものなのであります。その"つなぎ"の途中で中堅の4年生YOSHTクンがたま〜に勝てるようになったことから、この勝利の方程式は相手にとっても脅威!・・・とまではいかないものの、油断はできないぞ!・・・ぐらいのレベルまではあったわけなのであります。

そして11月中旬。いよいよ郡市では最後の団体戦であるSENS道場少年剣道大会の日を迎えました。まだ初雪を見るには至っていないものの、とても寒い日でありました。朝7時、R体育館前に集合した5人の小学生剣士たちはみんな頬を赤くし、白い息を元気いっぱいの蒸気機関車みたいに吐き出しています。今日の監督は小学生を主に担当しているTAKH指導員です。TAKH指導員の「おはよう、集まって!」という声に選手たちが駆け寄りました。「よし、全員いるな。みんな今日はがんばろうな!」という呼びかけにみんな「は〜い!」。

会場のSENBK体育館での開会式の後、いよいよ予選リーグが始まりました。みんなかなり調子が上がっているようです。特に大将のTOMMクンは決定力こそないものの状況判断がすばらしく、終始落ち着いた試合運びができています。3年生1人、4年生2人、5年生1人、6年生1人、しかもその中で3年生が1番背が高いというちょっと変わったMスポ少ではありましたが、4試合を全力で戦って2勝2敗。なんと勝者数で予選リーグを2位で通過、全体ではベスト8という好成績を確保しました。

決勝トーナメントの初戦はKAKD道場です。「まあ、このチームでよくここまで来たもんだよなあ〜。上出来、上出来!」などと勝手に決めつけながら観戦していると・・・。よしっ、先鋒のRYUTクンがメンで2本勝ちだ。やったあー、次鋒のYUTクン・・・頑張ったぞ、引分けだ。あら、あら・・・中堅のYOSHTクンも、3年生の副将RIKクンまで引き分けた!・・・つ、次はいよいよ大将戦だ。相手はTOMNクンよりも頭ひとつも大きいぞ。試合が始まって数十秒後、メンあり!!・・・あ〜、1本取られたか・・・。いや、気を取り直してTOMNクン頑張れ!うわっ、危ない、よしっ・・・。そして主審の先生の止めえ!の声。やった〜、勝った!!勝者数で同点だけど、本数で1本上回ったぞ!!「やった〜、すごい!!」という保護者の方々の歓声です。礼をして帰ってきた選手たちも意気揚々としています。・・・と、大将のTOMNクンが息を切らしてわたくしのところにやってきて「IKE先生、オレたち勝ったよな?!」、「ああ、本数勝ちだ!よく頑張って1本しかとられなかったな!よくやった!!」と少し興奮気味で褒めるわたくしにTOMNクンはいたって涼しい顔で「はい。でも、1本とられても勝ちだってわかってたし、それにあの相手なら2本とられない自信もあったから・・・」。ちぇっ、言ってくれるじゃないか、大したもんだ。キミも歴代の大将たちに負けない立派な大将だ!

結局、準決勝では古豪KAK道場に完敗したものの、R剣道スポ少から現在のM剣道スポ少までの12年間の歴史の中、小学生と中学生を合わせたM剣道スポ少史上初めて団体戦で3位入賞という成績を収めたのでありました。(残念ながら?この記録は今でも破られていないのでありまして・・・)  現在の小学生の団体戦チームには、当時4年生だったYUTクンとYOSHTクンが6年生としてずいぶんたくましくなり、それぞれ中堅、大将として頑張っています。そして、先鋒のRYUTクンは中学1年生でバスケット部に入部、一番背が高かった副将の5年生RIKクンは陸上とミニバスのスポ少に入り頑張っています。大将のTOMNクンはM剣道スポ少ただ1人の中学2年生として今でも剣道を頑張っています。なんとか来年、新中学1年生の男子が2人以上入団してくれますように!!−合掌−


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