◇ 新しき三人のサムライ剣士加わる!


          これかな、これが大切なんじゃないのかな?!

12月・・奥羽山脈の麓にあるR町はすっかり雪にうずもれています。稽古場に使わせていただいているR小学校の体育館も、雪の上かと思うほどの冷たさです。それでも、ナントわずかに残った7人の団員のうち小学5年生の女子1人と4年生の女子2人、それに1年生の男子1人の4人は、どんなに寒くても、どんなに横殴りの吹雪でも稽古に通ってきてくれます。「寒いベエ?」と尋ねても、みんな「当ったり前だあ〜!」と言いながら元気に体育館を走り回ったり、ふざけあったりしています。ほっぺたはもう真っ赤です。

だいたい、寒くないはずがありません。今でこそどんな体育館にも大型のヒーターや暖房設備が整っているのですが、その頃暖房が効いている体育館なんていうのは町内に1箇所しかありませんでしたし、この小さなスポ少がそういった体育館を使える時間帯などあろうはずもありませんでした。たぶん、この体育館の温度と外の気温にそれほどの差はないでしょう。稽古をしてるよう様子を傍らからみると、ハア、ハアいいながら切り返しをする4人の息が面金から白い煙のように吐き出されているのがわかります。しかも稽古着だって上下合わせて7千円程度の極薄のものなのです・・。

稽古終了後、「メーンとれ!」という声で一列に正座していた4人が面をはずしました。どの子もニコニコ笑っています。1年生の男子が言いました。「先生!足の裏、全然感覚ねーや!」、他の子も「わたしも、なんか自分の足でないみたいだー!」などと言いながら手ぬぐいで顔を拭いたりしています。その手ぬぐいも、地元の農協の名前が書かれていたり、敬老会の記念品だったり、お宮の祭りの時のものだったり・・さまざまです。でも、とにかくみんな明るく、元気です。

子どもたちが強くなるってこういうことかな? こういうたくましさとか、明るさが子どもたちが強くなるために必要なんじゃないのかな? ・・あの寒中の稽古は、なんとなくそんなことをわたくしに気づかせてくれたのでありました。


          わんぱく小学3年生、裸足で雪中へ!

R町は東北の雪国です。冬の厳しい寒さの中、外にはもう1メートル以上の雪が積もっています。気温はというと日中の最高気温でも氷点下、いわゆる真冬日が何日も、何日も続いています。さてR剣道スポ少・・最近では多くて5人、少ないと3人程度での練習です。そんなとき、町のスポ少事務局から剣道に2人の入団申込みがあったという連絡が入りました。2人とも小学3年生の男子だそうです。「この寒さの厳しい時期に剣道をやろうなんて、ずいぶん変わってるなあ。しかも、3年生・・すぐやめるかもしれないなあ」というのがわたくしの正直な気持ちでありました。それでも、入団を申し込んでくれたことがどことなくうれしい気もします。

翌週の木曜日、仕事を終え防具を背に稽古場の町民体育館に行ってみると、ワアーッとかギャーッとか叫びながら子どもたちの騒ぐ音がします。のぞいてみると、学校のジャージだけで防寒コートも着ていない男の子2人が、竹刀を振り回しながら防具を着けた団員たちを追いかけまわしています。わたくし「お〜い、何しているんだあ!!」。するとその2人の男の子は頬を真っ赤に染めて、ハアー、ハアー白い息を吐きながらわたくしの方に駆け寄り、意外にも「ヨロシクお願いします!!」という元気な声とやや大雑把だけれども深いお辞儀。

「オメエたちが、SOくんとNORくんか?」と尋ねると、今度はこっくりうなずきました。「よくこの寒い冬から剣道を始めようと思ったなあ。剣道は最初は竹刀の持ち方やすり足、それに姿勢なんかの練習ばかりでつまらないぞ、それに寒いし・・大丈夫か?」との問いには、2人とも「寒くねえヨ!」と威勢のいい返事。そこで続けてわたくし「でも、昔は強くなるための精神修行に裸足で雪の上を走ったっていうからナ、それよりはマシだ。よしっ、頑張ろう!」。すると何を思ったかSOくんが「オレ、走ってくる!」と体育館を飛び出しました。「オレも行く!」とNORくんも追いかけます。お、おい!2人ともやめろ!!外へ行くと2人とも雪の中を裸足で踊って?います。バカッ!ホントやめろって−。少しして戻ってきたSOくんとNORくんは足を真っ赤にして「冷てえ!!」と床の上を転げ回っています。わたくし・・呆れ顔。

傍にあった雑巾で足を拭き終わった2人がわたくしに向かって異口同音に言いました。「これでオレたち少しは強くなったか?先生」。


          続いて登場、にこにこ笑顔の甘えんぼうくん

さて、この2人の3年男子の行動は、それからもわたくしを大いに驚かせました。原因はあまりの元気のよさとわんぱくさにありました。わたくしたち指導者の話しなどいつも聞く耳持たずでふざけ合いますし、いくら大声を出し注意しても竹刀を振り回して駆け回ったりします。・・なんだこの子ら!? しかし稽古を何回か重ねるうちに、一つだけこの子たちが他の団員たちと違うことに気がつきました。そう、それはこんな一言をいうとしゃきっと居直り、また真剣に稽古に取り組むという点でした。それは・・「おまえたち、強くなりたくないのか!?」のひと言です。「先生、ゴメン!おれ強くなりてえ」、「おれもだ、先生!」。

そんな頃、年明けの2月か3月だったかもしれません。また1人の男の子が入団しました。2年生のGENくんです。初めての日、GENくんはお母さんに連れられて町民体育館にやってきました。ぽっちゃりとしておにぎりのような男の子です。お母さん「はい、GENちゃん、よろしくお願いします!は?」、GENくん「ヨロシクお願いしまあす!(にこにこ・・笑顔)」・・てな感じです。わたくし「わ、わかりました。GENくん、じゃあ竹刀を持って向こうへ行くぞ!」、GENくんはお母さんの方を振り返り、振り返りしながら体育館の真ん中へ連れて行かれました。表情が少しずつこわばっていくのがわかります。わたくし「お母さんはもう行っちゃったぞ、さびしいか?」、するとまたにこにこしながら「大丈夫!」とかぶりを振りました。でも、やっぱり心細そうです。・・大丈夫かな?

ふと見ると、またあのわんぱく3年生2人が、竹刀を振り回し防具を着けた上級生の女子団員を追い掛け回しています。お〜いオマエら、ちゃんと練習しないかー!!・・と、わたくしの剣道着のすそをGENくんが引っ張ります。「先生、水飲んできていい?」。ふう〜、たいへんだ、こりゃ。


          少しだけ剣道のチームらしくなったカナ?

春、R剣道スポ少の団員もそれぞれに進級し、6年生女子1人、5年生女子2人、4年生男子2人、補欠として3年生男子1人に2年生男子1人というメンバーがそろいました。4年生以下の3人の男子が上達したことに加え、上級生の女子もそこそこできるようになってもきました。まだまだ他の道場に比べると見劣りはするものの、なんとなく剣道のチームらしくなってきたような気がします。なにより以前よりも小学生らしい元気があります。声も大きく出ますし、「強くなりたい!」、「オマエには絶対負けない!」、「先生、こいつと勝負させてくれ!」といった言葉がぽんぽん出るようになりました。それに応えてわたくしも「よしっ、ウチより弱いチームは郡市にはいないし、ここで誰がこの地域で一番弱いか決めるか!」と笑って言うと、子どもたちも笑いながら「げえー、やべぇー!!」と返してきます。

考えてみれば、他の道場やスポ少の選手だってこの子たちと同じ小学生です。毎日、近くの小学校に通い、勉強し、遊び、先生たちにほめられたり、ときには怒られたりしているはずなのです。だから少なくとも「絶対にかなわない」はずはないんだと、その頃指導者のあいだでも思えるようになっていました。もちろんわたくしの中にも「この元気さがあればきっと頑張れるはず!」という気持ちが生まれはじめていました。

しかし、そうはいってもやはり現実は厳しいものです。なんとかそろったこのチームにも、まだまだ大きな試練が待ちわびていたのでありました。勝負の神さまの声が聞こえます・・「剣道はそんなに甘いもんじゃあーりませーん!!」。


          あとの結果など知る由もなく・・・

確かに勝負の神さまに言われるまでもなく、そんなに甘いものではないと思ってはいるものの、なんとなくチームの姿が見えてきたようで少しホッとしたような、少しワクワクするようなそんな気持ちがわたくしの中に芽生えはじめておりました。そんな平成10年の春・・なぜかわたくしのところに郡市剣道連盟から手紙が届きました。見ると「第3回郡市学年別少年剣道大会」の通知です。おおー、去年は連絡がなかった大会だあ!なんとなく、周囲のチームや先生たちにR剣道スポ少が認められたような気がして嬉しくなりました。

次の稽古日です。さっそく団長先生はじめT指導員に手紙を見せ、「この大会にも出ましょう!」と今度はわたくしが大のり気です。やっぱりこういう大会の連絡をいただいたからにはどんなに未熟でも、弱くても出ておいた方がいいんだ!・・というのがこの1年間でわたくしが学んだ?ことでした。なんでも参加してみんなにウチのスポ少のことを知ってもらうんだ。そうすれば経験も積めるし、きっと団員だって強くなる。

オーイみんな、大会だぞー!!・・団長先生の承諾やT指導員の同意も得ることなく、すでに子どもたちにこう叫び、一人突っ走っているわたくしなのでありました。もちろん、このあとの結果がどうなるかなど知る由もなく・・。


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