か弱い女子3人・・やがてはRスポ少の柱に
かつて、Rスポ少始まって以来の入団希望者があったにもかかわらず、1人抜け、2人抜けしていった話しはもうしました。いつか帰ってきてくれるかな・・という思いもかないませんでした。そんな寂しい話しばかりでありましたが、決して全員が退団しまったわけではありません。残って剣道を続けてくれていた子だっていたのです。それが3人の女子でした。6年生のHIROさん、5年生のSIKIさんとYUMです。なぜYUMだけ"さん"付けでないのかというと、実はわたくしの娘だからなのであります。この3人の女子、我が子も合わせ大変に、大変に失礼だとは思うのですが・・運動のセンス?みたいなものがほとんどないのでありました。しかし、それでもこの3人の女子は夏の暑い日も、真冬の極寒の日も休まず稽古に通ってくれました。
主将で大将のHIROさんは、きれいな面が得意な子ですがかなりの甘えん坊で気持ち的にもムラあります。5年生のSIKIさんは、3人の中で一番気持ちがしっかりしているのですがなんといっても腕力がありません。SIKIさんのお父さんが3尺6寸の竹刀を削って、削って超軽量にこしらえ直してもそれでも重そうで、技どころではない状態です。3人目のYUMも、キミには運動神経というものがないのか・・という感じでありましたが何故か人のまねが上手いことだけがとりえなのでありました。それでもそれぞれ前の学年のときHIROさんは3級、SIKIさんとYUMは4級と昇級したことで春になってもやる気は満々です。技量だって心なしか上がっているような気さえします。
初めて通知をもらった「第3回郡市学年別少年剣道大会」に出場を決めたときも、もちろんこの3人の女子選手が出場することになりました。(昨冬入団したあのわんぱく剣士2人も出したかったのですが、この年は級を取得していないと出場できなかったのが残念でした)。見た目はか弱いけど・・がんばれよぉー、大会はもうすぐだ!
学年別大会!タスキはタンポポ学年のはちまきです
第3回郡市学年別少年剣道大会の日です。午前8時30分からの審判監督会議ということで町民体育館前を午前7時に出発しました。昨秋の郡市大会で多くのことを学んだ剣道初段監督のわたくしもけっこう心に余裕があります。出発時間も、会場のO市小学校体育館に7時15分に到着、それから控え所に行って防具を着けさせ練習を開始させるのが7時40分頃、準備運動や竹刀振りで15分、5分で面を着けて30分稽古をすれば・・よしっ、ばっちりです。
選手を車に乗せて会場へ向かうのも2回目。3人の選手のうち6年生のHIROさんは昨年の郡市大会に団体戦で出場、しかも善戦してますからずいぶんリラックスしてほかの5年生の2人に心構えなどアドバイスしています。「練習のときは混んでるから場所とるのがたいへんなんだよネー」とか、「開会式はみんな並んで審判長のあいさつなんか聞くんだよ、ねえ、先生」、5年生2人「へえー」。わたくし「そろそろ着くよ。3人とも忘れ物はないよな。手ぬぐいや垂袋はちゃんと持ってるか?」、3人「持ってきたよ、大丈夫!」。
するとすかさずHIROさんが「それより先生、ちゃんとタスキは準備してくれましたか?」と尋ねます。「あのね、去年は先生がタスキを持ってくるのを忘れてたいへんだっ・・」などとひそひそ話しているのが聞こえます。わたくし「ちゃんと持ってきたよ!」。・・去年はエライ騒ぎだったからなあ。でも今年は大丈夫です。R小学校から運動会のときに使う赤組と白組のはちまきを借りてきました。その頃のわたくしは剣道のタスキをどうやって準備するのかまったく知らなかったので、事前に近くの洋品店や運動具店を回ってはちまきを探して歩いたのですが見つからず、YUMの担任の先生に事情を話して借りてきたのでした。ただ、このはちまきにはマジックペンで大きく「タンポポ学年」と書いてあることをまだ選手たちには教えておりませんでした。
なんでみんな、負けてもいいからって言うのぉ?
それなりの稽古をしてきたせいか、3人の女子選手は意外と落ち着いています。練習のときも相変わらず他チームの選手と接触すると「あっ、すみません!」、「ごめんなさい・・」とか言って首をすくめたりしているのが少々気に入りませんが、それなりに指示していたとおりの練習をなんとかこなしています。声もけっこう出ています。よし、なんとかいけそうだ・・そう思ったわたくしは3人に「いいぞ、このまま自分たちで練習してろ。先生はちょっとあいさつしてくるから!」と言って子どもたちのそばを離れました。そうです、昨年の末から稽古を見せてもらったり、指導方法を教えていただいた各道場やスポ少の先生方にあいさつするのを忘れてはいけません。
RENSE道場はじめO市剣道スポ少、KAKU道場、SENSI道場の先生方や保護者の方々は、それぞれわたくしのことを憶えてくれていて「ああ、おはようございます!」とか「どうも、どうも!」と声を返してくれ、なんとなくわたくしも落ち着いた気持ちになりました。とりあえず去年は周りのどこを見ても知っている人など1人もいなかったのですから精神的には雲泥の差です。・・と、「ただ今から審判監督会議を始めますから、審判、監督の皆さんはステージの上にお集まりください」のアナウンスがありました。よし、がんばるぞ!
開会式も無事終え、いよいよ試合が開始されました。この大会は、小学校4年生以下の部、5年生の部、6年生の部の3つに分かれた男女混合の個人戦です。午前中に5年生の部の1回戦があります。わたくしは2人に「いいか、負けてもいいから、一生懸命頑張れよ!!」と励ますと、SIKIさんが苦笑しながらこうわたくしに訴えました。「昨日からお父さんや、お母さんや、おじいちゃんみんなで負けてもいいから、負けてもいいからっていうんだよぉ!はは・・」。マズイ!そうだよなあ・・この子たちはみんな勝つつもりで来てるんだ。それを指導している自分が戦う前から負けてもいいからなんて・・。「SIKIさん、ごめん。3人とも頑張って1本とるぞ・・いや、ごめん。勝つぞぉぉ!」。
ああ、教えてなかった場外反則・・
5年生は第2試合場です。まずSIKIさんの試合が早い順番でやってきます。「試合の仕方はスポ少で練習したとおりだからね。攻めなくちゃダメだぞ。大きな声を出して戦うんだ!」というわたくしに向かってSIKIさんは手ぬぐいを着けながらニッコリ笑って「はいっ!」。おっ、落ち着いてる!これでなんとか試合になってくれるといいんだけどなあ。傍らで面と小手を着けたSIKIさんが立ち上がり軽く竹刀を振ったり、ジャンプしたりしています。
と、HIROさんが「先生、タスキは?」、わたくし「あっ、忘れてた!」。さっそく白のタスキをバックから出してSIKIさんの背中に着けようとすると今度はYUMが「なにそれ!うちの学校のはちまきじゃあない?あっ、タンポポ学年って書いてある!ウソー、恥ずかしいナア・・」。わたくし「しょうがないだろう、我慢しろ」。3人「ふぁ〜い!」。よし、試合だ!
いよいよSIKIさんの試合です。そんきょすると審判の先生のはじめ!の声。相手は同じ女子選手でしたが強い選手です。SIKIさんも頑張りましたが3回の場外反則を犯し無念の1本負けです。もう1回場外へ出ると危うく場外反則で2本負けを喫するところでした・・えっ、場外反則!やばい、場外反則のこと教えてなかった!続いてYUMの試合。相手は男子選手でしたが、最近コテメンの上達が著しく期待がかかります。2分を経過し延長戦。相手の子は引きドウが得意らしく、これにYUMは追い面で対抗しています。初めての我が子の試合に指導者の立場を忘れて手に汗握るわたくし・・(これが後にR町内でも有名な"剣道親バカ"のきっかけになろうとは、わたくし自身そのときは気がついていないのでありました)。と、ところが・・1分ほど経過したとき、YUMも場外反則で1本負け。
あぁー、ゴメン!またしてもわたくしの大失態であります。場外反則・・ああ、場外反則を、教えてなかったよおー。
悔し涙でたったひと言・・情けない
3人の選手のうち2人が場外反則で1本負け・・しかも、指導者のわたくしが、それを教えていなかったばっかりに。あ〜ぁ、また今年もこんな調子かなあ。すると、「ねえ先生、どうしたの?わたしの試合は何時ころ?」と6年生のHIROさんです。そうだ、落ち込んでる場合じゃなかった。まだ、HIROさんの試合があるんだ。「HIROさんは6年生だから、まだしばらく時間があるみたいだ。もしかしたら、午後からかもしれない。いいか、5年生の試合を見ただろう。場外反則には気をつけるんだぞ!」、HIROさん「うん、わかってる!」。そこへ「どうも、ご難儀をおかけしています」という声。振り返るとHIROさんのお父さんとお母さんです。「5年生のふたりは残念でしたね」、「すみません、場外反則のことよく教えてなくて」・・といった辛く悔しい会話です。
大会は2つの試合場で行われていたため、6年生のHIROさんの試合は午後の1時30分過ぎになりそうでした。もう、開会式から4時間近くにも経っています。それでもHIROさんはときどきストレッチをしたり、竹刀を振ったりしています。5年生のころはあんなに甘えん坊だったのに、成長したなあ・・と思わずにはいられませんでした。
さて、いよいよHIROさんの試合です。相手は男子選手です。がんばれよお、1本でも取れたらすごいぞ。礼をし、帯刀して試合場の中央でそんきょ・・はじめ! (約20秒後)・・勝負あり! ああ、なんということか、相手は強豪も強豪、中学生並みの強い選手で、HIROさんはあっという間にメン2本を取られ完敗です。最後の礼をし、足早に引き上げてきたHIROさんは一目散にお母さんのもとへ行き、面を着けたまま抱きついて大泣きです。わたくし「HIROさん、ダメだ!こっちに来なさい」と体育館の隅に座らせました。「よく頑張った!でも相手が強すぎたよ、仕方ない」というわたくしの言葉にHIROさんは面を着けたまま大きく首を振りました。面金の向こうに顔を真っ赤にして泣いているHIROさんの顔が見えます。「と、とにかく面をはずして・・」という言葉にも大きく首を振って拒否します。わたくしの傍には、心配そうなお父さんとお母さん・・。「オレが話しますから、大丈夫です。ちょっと離れていてください」。わたくし「なんで面をとらない?」、HIROさんはまたしても大きく首を振りました。「悔しいのか、頑張ったろ?」、続けて「勝負なんだから、勝ち負けはあるよ。君だってわかってるだろう?」・・(無言)・・5年生が少し離れたところで心配そうに見ています。押し問答を続けて20分以上も経ったでしょうか。「もう、剣道はイヤ?やめる?」と尋ねるとまたしても大きく首を振ります。剣道をやめる気がないことを確認できて少しほっとしました。「さあ、面をとって、先生に何か話してごらん」、「○×◇△」、わたくし「えっ、なに?」、HIROさん「ぅぅ・・情けない・・」。思わず涙が出そうになりました。そうか、情けないか・・、情けないのか。わずか小学校6年生の女の子が体験するにはあまりにも辛い出来事であったに違いありません。
これ以来、わたくしが保護者のみなさんに応援をお願いしたことはありません。同時に、剣道の指導がどんなにか難しいことであるかを思い知らされたのでありました。
度胸試しだ、全県大会に挑戦!
郡市学年別少年剣道大会が終わり、出場した3人の女子はいずれも1回戦負けでありました。まだまだ相手から1本取るには時間がかかりそうです。ただ、この3人の女子団員、特に自らを「情けない」とまで言った6年生のHIROさんも他の5年生の2人も、次の稽古日に元気な顔を見せてくれました。「おう、どうだったよう?」、「負けたんだってなあ、へ〜ん」と、あのわんぱく4年生団員にからかわれても、「うっるせー!」、「オマエたちにいわれたくねーよー!」とか言いながらわんぱくボウズを3人で追いかけ回しています。・・ああ、よかった!みんな元気だ。よ〜し。
それから2カ月ほどして、去年初出場したあの郡市少年剣道大会の通知がありました。この大会は、級を取得していなくても出場できますし、なにより去年よりもどの程度チーム全体の力がついているのか、はたまた変わっていないのか・・わたくしたち指導者にとっても楽しみにしていた大会でした。ところが、その日は9月15日の敬老の日・・R小学校の学習発表会(かつての学芸会)の日と重なってしまったのでした。学習発表会では仕方ありません。みんなと相談するまでもなく欠場です。残念だなあーと思っていたそんなところに大会の連絡が入りました。伝統ある第44回全県少年剣道大会の通知です。わたくしは、団長先生に許可を得て出場することにしました。この大会も、級の取得が出場資格となっていたため女子3人での挑戦です。この大会に出ようと思ったのには一つ理由がありました。それはいわゆる度胸試しです。常々思っていたのは、大会とか、昇級審査会とか、講習会の場での団員たちのおどおどした態度が、いざっ!というときに十分な力を発揮できずにいるのではないかということでした。正直、それは指導しているわたくし自身にもあったような気がします。全県大会という大きな試合を経験していれば、それよりずっと規模の小さい郡市大会で精神的に落ち着いて頑張れるのではないかという思いからでした。
試合開始!・・最後まで試合場にいたのは
大会当日、会場はR町から1時間半ほどのところにある県立体育館です。さすがに、すごい熱気です。Rスポ少女子3人も圧倒されている様子です。もちろんわたくしも・・。いや、度胸試し、度胸試し!「いいか3人とも、ここで勇気を出していつもどおりの剣道ができればきっと強くなれるから!行くぞ!!」、一番先にHIROさんが「はいッ!」。
開会式での有名道場の選手たちは、そろいの剣道着やはちまきなどあつらえての出場です。会場の周りには、「必勝」とか「剣心」とか書いたのぼりも垂れています。いよいよ、試合開始です。予選は3チームのリーグ戦です。相手はYUB館W道場とKAN東スポ少Bです。第1試合はYUB館W道場です。全敗はしょうがないなあ・・というわたくしの予想をはるかに上回り、3人とも30秒以内で勝負がつきました。すげえ!なんだ、こりゃ!?次はKAN東スポ少B、このチームも全員が5年生とはいえ目を見張る強さです。先鋒YUM、中堅SIKIさんはまたしても30秒弱で勝負が決する2本負け。こりゃ、2試合の試合時間が3人合わせて3分程度かもしれないなあ・・と思っていたとき、大将のHIROさんの試合が始まりました。立ち上がりすぐにコテを取られました。そして、2本目の勝負。HIROさんは立て続けに得意のメンで相手に攻め込みます。ヤアッー!という声も、気持ちがのっているときのHIROさんの気合です。メン、コテ、ドウ・・と相手の大将もすばらしい技とスピードで襲い掛かってきます。対するHIROさんも必死にメンだけで勝負です。・・しばらくして、ピー!という笛の音にやめえ!という主審の声。HIROさんは2分間試合場に立ち続けました。相手から決して逃げることなく存分に戦ったうえでの1本負けです。礼をし、帰ってきたHIROさんを5年生の女子2人が「すごーい!」、「やった、やった」と勝ったように出迎えています。がんばったなあ、HIROさん。君は決して自分のことを情けない・・なんて思っちゃいけない。君は立派な少年剣士だよ。
(実は相手の両チーム、翌日の朝刊で知ったのですがYUB館W道場がこの大会の優勝チーム、KAN東スポ少Bのレギュラーチーム、KAN東スポ少Aは準優勝チームなのでありました。)