平成15年2月号より
木 善胤
病み勝ちのうつし身にして永らえぬ七十を過ぎ八十歳越ゆ
桑岡 孝全
肘枕しずかにあしたこときれていませりという長きみいのち
白き箱を支うる数にくわわりぬ遠くきたりてわれは請われて
井戸 四郎
竜頭をかざる墨斗をあやつりて造りし匠の名は伝わらず
飛火野の松にまじれる黄櫨もみじ今日の夕日に照りて暮れゆく
土本 綾子
伝えくるたよりはもはや起ち難しと聞けば会いたし行きて会いたし
あるときは用なき電話に遊びにき叶わずなりて長く君病む
猪股 静彌
ここはこれ人磨死去の鴨山と茂吉の定めし石州湯抱
この村を訪ねし茂吉の定宿は閉ざされ庭にみのる溝蕎麦