平成15年3月号より
木 善胤
今年より楽天主義に徹すべし「これ以上?」と妻のあきれるまでに
桑岡 孝全
ただあさき老のねむりを綴ろいて小床におればにいどし到る
いとけなきものの嗚咽の如くにも鳴る気管わが老いたる気管
しわぶきて眼に紫のかげさすと冬のあしたをあやしみて臥す
井戸 四郎
家ごもり足弱るわれ飛火野の冬のみじかき芝にしたがう
降りやみて寒さのゆるむ夕つかた西に小さき青空の見ゆ
積もりたる黄葉をかきて銀杏を拾うホームレス夫婦なるらし
土本 綾子
思わざりき二〇〇二年の終る日に君を葬ると和泉野をゆく
いとおしき者の待つらん世に行くは安けしと詠みて旅立ちましぬ
つつましくやさしき仕草いつの日も変るなかりき永久にへだたる
猪股 静彌
円山川潮に入りゆく静けさを湛え霧らえる丹後国原
規矩正しき岩の柱はひしめきてどうすることもならぬ洞窟
百万年かまえの巌に玄武洞と名づけし栗山のことを知りたし