平成15年5月号より

津萩千鶴子 神戸
寒き日の桜の枝の切り口に又新しき樹脂のにじめり
馬橋 道子 明石
雨音のひねもす聞こえ寒き日は大根の煮しめ甘く仕上げぬ
松岡 啓子
[NO WAR」凍れる街に溢れたるプラカードと人、人トプラカード
富安 輝子 大阪
不安なき未来などなく切れぎれの夜空がビルの間に光る
小深田 和弘 岡山
端に寄れスピード出すなよそ見すな小言うるさし助手席の妻は
山田 勇信 兵庫
澄みわたる空をただよう風花の地に着くまでの光なるかな
池田 富士子 西宮
「生物」の履修拒みし医学生が人間を見るよとはなりたり
岡部 友泰 大阪
えーほんと、うっそーと言う相槌に吾は戸惑い時に苛立つ
冨川 美知子 高槻
立ち返り立ち返りする一ところ憎む心の枯れぬ悲しみ
葛原 郁子 名張
青がすむ果てなる稜線に刻々と呑まれゆくなり春の落暉
安田 恵美
機のしたはわが住むあたり春の陽の底いにあおきい古墳しずけし
小泉 和子 豊中
ほどきゆく父の形見の着物より折れたる楊枝の膝に零れし
山内 郁子 池田
うしろ手におとがいあげて麦踏める老いの面差聖者のごとし
森口 文子 大阪
咲き盛る冬の菜の花遺伝子の組み換えられて香りの失せぬ
遠田 寛 大阪
茶房より見える川面の水明二人の時間距離もちて過ぐ
        選者の歌
井戸 四郎 大阪
早く亡き父のふる里の墓どころ石二つ三つに久く行かず
桑岡 孝全 大阪
高天原ならず古代史学びはじめのユーフラテスぞ兵押し渡る

 

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