平成15年6月号より

松内 喜代子 藤井寺
高井田の丘に連なる葡萄畑芽吹きの前の静かさのあり
樋口 孝栄 京都
君の吐く空気を吸いて安らけく風花の散る庭におり立つ
林 春子 神戸
ひたむきに人を恋いたる若き日は歌詠むすべを知らで過ぎにき
横矢 喜代子 生駒
保育園に母の迎えを待つ児らの顔寄する窓に夕焼け映る
千原 澄子 玉野
玄関を閉めんとすれば一目散ボクを入れてと猫帰り来る
柴田 年子 西宮
本当に見えないのかと問わるること度々ありぬ我が日々の中
大森 捷子 神戸
男らは周期をもちて武器をとる平和というは倦むものらしい
菅原 美代 高石
屯する戦車の彼方横切りて影絵のごとく駱駝ゆく見ゆ
中西 良雅 泉大津
武器作る砲兵工廠死語となり跡地の公園花ににぎわう
中谷 喜久子 高槻
桜咲き満つる四月を病室の汝の視界の中の一本
赤松 道子
源流と聞く細き水底石に光の揺れて蜷の道あり
笠井 千枝 三重
朝凪の入江に小舟の棹さして海苔篊の間を縫いて進めり
並河 千津子
木蓮の莟の白くほぐるるも知らず過ごしぬ心閉ざして
許斐眞知子 徳島
どこで誰と会う為息子は出掛けるやメール時代の母は知り得ず
吉富 あき子 山口
今にして知るおおちちの寂しさか学校帰りの吾を負ぶいし

           選者の歌 

土本 綾子 西宮
茎紅き嫩葉をひろげハマボウフウ乾ける砂にはりつきて伸ぶ
桑岡 孝全 大阪
功利第一迷惑承知突貫土木工事のごときいくさをぞみし
五億年を経なばいのちをほろぼして劫暑のおおう星なり所詮

 

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