平成15年7月号より

阪下 澄子
もちの木の落葉掃きつぐ幾日か梢にのびたる若葉濃くなる
吉田 美智子
山門に向かう階段今年また小さき竹の子三つ四つのぞく
名手 知代 大阪
若者と語り合う時に我が言葉宙に浮くことしばしばありぬ
上野 美代子 大阪
同室の媼三人の人となりおぼろに解す入院二日目
浅井 小百合 神戸
深き息ゆっくり吐きて一区切りつけたし夜半の湯船の中に
鶴亀 佐知子 赤穂
ただ淋しき花とせし著莪いつよりか心惹かるる花になりたり
牧野 純子 大阪狭山
ヤママユのあやしきみどり風強き山の木かげに息ひそめおり
南部 敏子
海と空見分けのつかず靄込めぬ光なき入り日の丸くおぼろに
田坂 初代 新居浜
うっすらと笑まえるごとき終の面九十年の決算書とも
木山 正規 赤穂

滝の音渓水の音ひびき合う径を包めり楓若葉は

松浦 篤男 香川
先を見ぬ国の施策に看護学校新築十年閉鎖されたり
小川 千枝 枚方
「考える人」の見下ろすは地獄ぞと知りてロダンの生きし世思う
藤田 政治 大阪
復活祭近づく今宵の満月は東空低く家路を照す
       選者の歌
土本 綾子 西宮
明朝の書体の源という聞けば優しうつくし鉄眼版大蔵経の文字
井戸 四郎 大阪
交差路にミモザの花の咲きさかるいとまある午後わたるともなく
桑岡 孝全 大阪
かかる身の置きようもあといくたびぞ尾灯ずらりと点る渋滞
木 善胤 大阪
罅割れしまま保ちいるわが体心臓の雑音澄むことあらず

 

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