平成15年8月号より

中川 昌子 奈良
草むらに潜み緑の羽のぞく雉子の傍を息ひそめ過ぐ
金田 一夫
舟溜りにいか釣り舟の舫いいて硝子の火屋の春日に淡し
蛭子 充代 高知
手始めに金目鯛より箱入れす蓋にキロ数書くは吾が役
奥村 道子 愛知
軽き音たてて機械の苗を挿す地雷などなき日本の田植え
竹川 玲子 大阪
見上げたる発電風車の大き羽風なき時を静止しており
奥嶋 和子 大阪
若者向けデザイン多き靴の中はき易き一足を母にと選ぶ
白杉 みすき 大阪
春休みをわが許にすごす少女いて濯ぎ物干す庭のはなやぐ
西川 和子 広島
表情に翳り見せ居るジェイコブの座右の日本語「自分探し」
長谷川 令子 西宮
交差する高速路の向こうの夕茜うすれてビルの窓の灯ともる
織田 彰二郎 宝塚
財政の赤字の既に七百兆外債でなきをせめてもとする
池上 房子 河内長野
いとけなく父に従う春の山ひさかきは先ぶれの花と知りにき
池田 佳子 名古屋
篭に挿す芍薬の花のくずれ落つる音をききたりひとり夜更けに
高間 宏治 小金井
リストラに怯える夢より覚めしとき安堵と寂寥と交々いたる
植本 和夫 白浜
朝食は妻の欠かさぬ韮のあえ韮に満蒙の原懐かしむ
春名 一馬 岡山
若きらに交りて隠居の爺ひとり村の賦役の溝さらえする
竹中 青吉 白浜
よろめきて歩むに燕がさけてゆく往来の邪魔と言わぬばかりに
        選者の歌
土本 綾子 西宮
今日に続く明日あることを疑わず乱れし机措きて寝んとす
桑岡 孝全 大阪
間に合うや合わずともよし努むべし昨日のごとく窓明るみぬ

 

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