平成15年10月号より

名手 知代 大阪
列なして一日限りの連帯感持ちて歩みき大台ケ原に
岩谷 眞理子 高知
吹く風に凌霄花の揺らぎいる伸びたる蔓の縋るものなく
大森 捷子 神戸
ダイヤルの戻る間合を逡巡しおそれたりしつ黒きあの電話
樋口 孝栄 京都
釣瓶竿さし入れ井戸の底いより汲むごと一つ二つの言葉を探す
西上 さく子 神戸
気力なく鏡にうつるわが顔に少しきつめの眉太くかく
名和 みよ子 神戸
に合わせてステップ踏む若きらに後れて我のワンツースリーフォオー
並河 千津子
雨しばしやみたる藪に声ありて七夕の竹選びいるらし
井辺 恵美子 岡山
溝川に近き畑に草取ればさわ蟹一つはさみをもたぐ
奥村 道子 愛知
空を仰ぐ羅漢像あり草山の月夜にはものを思いたまうや 
長谷川 令子 西宮 
泡となり洗濯機より流れ出ず旅の喜びと悔いのこもごも 
内田 穆子  大阪 
夕暮るるまでトンボ捕る子を呼びにゆきて交わりき吾若かりき
角野 千恵  神戸
軒に干すわがブラウスの吹かれつつ山紫陽花の花にさやれる 
吉冨 あき子  山口 
丑三つは海も草木も眠ると言う覚めてねむれぬ人間の業
寺井 民子 伊丹
サンルームに白きドレスの人の弾けるモーツアルトKV二八四
伊藤 千恵子 愛知
夕潮のさしくる川面波の穂のいたくきらめくひとところあり
竹中 青吉 白浜
着物着る犬が人間を従えぬ平成の世のお犬さまとも
山内 郁子 池田
薄日さす下にかすかに薫りあり並ぶ帆榾木の合間をゆけば
       選者の歌 
井戸 四郎 大阪
夜もすがら淋しき音して吹く風の朝の窓に清々と入る
桑岡 孝全 大阪
道に立つ友ありわれを見おぼえずあいだへだたるは五十年なる

 

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