平成15年11月号より

横矢 喜代子 生駒
ふる里の茶粥を炊きて待ちくるる健やかに父母の在す如くに
安井 忠子 四條畷
茂り葉に隠れて小さき柚子の実が枝をたわめて育ちおりたり
山寺 康敬 愛知
うす紅く色づき初めし遠空に稜線黒く天地を分かつ
梅井 朝子
光りつつ吹く夕風にみどり田のうねり優しき道を帰り来
鈴木 和子 赤穂
二歳児が時空を覚えはじむらし過去も未来も「きのう」と言いて
岡 昭子 神戸
弟に気配りを見せる仕種には七歳なれど長子の重み
米田 由美子 和泉
悩めるをばからしくなると娘言う我の魔法の「何とかなるわぁ」
辻 宏子 大阪
清々と吹き入る風に吾が思考明るき空に広がりてゆく
森本 順子 西宮
乾きたる音に目をやる山のなだりあまたの岩屑続いて落ちる
小倉 美沙子
北鮮は奇怪な国と笑えざり戦中の我が日本に似るを
山本 トミ子 藤井寺
長城と火炎山を見つつバスは行く砂漠の中の道ひとすじに
笠井 千枝 三重
たも振りてアキアカネ追う子等の影霧立つ原に見え隠れする
松野 万佐子 大阪
身分証首より吊りて懇談に保護者の集う時代を思う
丸山 梅吉 大阪
年金が天から降ってくるごとくわが通帳に書き込まれあり
桂 功三 奈良
夕菅の花原にこころなぐさまず待つ者のなき家に帰らん
岡田 公代 下関
嘆きのみに目を向くるなと父母の声幾度かわが内にする
浜崎 美喜子 白浜
囲われて飼わるるものの眼やさし怠惰な欠伸繰返すライオン
小川 千枝 枚方
ウミユリの化石となりて残りたる伊吹に思う億の年月
        選者の歌
土本 綾子 西宮
山肌をつつむ朝霧のしずみゆき焼岳の頂に今し日の差す
桑岡 孝全 大阪
絶滅危惧種たるべく三十一音詩に十六歳のこころ寄せにし
定型のうたにふらりとたずさわりとしつきながきこの不定形

 

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