平成15年12月号より

石村 節子 高槻
赤とんぼ一つ見つけただけなのに何かうれしく青空仰ぐ
梅井 朝子
抱きよせてささやけるごと子守るうた児の細胞の隅にのこるや
鈴木 和子 赤穂
「約束を破っちゃだめよ!」と抗議せる幼は紙裂く仕草をしつつ
原田 清美 高知
風にのりて吾が家に聞ゆるアナウンス次の種目は百米走
安田 恵美
伸び盛りなる少年のごときとも韮のつぼみのすんすんとして
本村 則子 佐賀
淋しさが花を買わせる秋の宵バラの香りにつつまれており
池田 富士子 尼崎
暮るるまでテニスコートに白球を共に追いたる君に逢いたし
米田 由美子 和泉
平常心を心の底にどっかりと据えねばめぐりの動きに耐えず
山田 勇信 兵庫
帰りくる犬にまつわる草の種の日ごと変りて今日は刈萱
吉田 美智子
指貫を外して今日の仕事終う妻らしきこと久びさになして
大谷 陽子 高知
杉桧実生の芽吹き数多見ゆ宮の掃除に落葉寄すれば
山口 克昭 奈良
神祀る水湧く巌の上はつり高速道路を通して畏れず
坂本 登希夫 高知
低空で朝の空気をうちふるわせ変電所を的の米機の訓練
池田 和枝 北九州
久びさを晴れたる朝庭の木を洩るる日差の畳にうごく
山内 郁子 池田
蓑虫のまだちいさきが糸垂らし暑きひなかを動くことなし
野崎 啓一
山鳩よぽうぽうぽーと昼を鳴く身内に深くつのりくるもの
木山 正規 赤穂
ほぐれ来し穂芒そよぐひとむらは逆光のなか風に傾く
遠田  寛 大阪
高原の青きに広がる今朝の視野ながく病み来し眼いたわる
        選者の歌
土本 綾子 西宮
百歳となりても杖を持たざりし母の気力を思う今さら
南ゆくフロントガラスに位置占めて今宵火星のひときわ明し
井戸 四郎 大阪
海近き運河のきしの倉庫群午後の日差しに物の音なし
用持たず来る海近き運河の街夕べになりて潮の匂う
桑岡 孝全 大阪
帰り住むことなきおのがふるさとをおもいて應擧雪松の前
ふり捨つるちからをぞみる思うざま筆をはぶきし梅の二木に
まさめにはみざりし虎を「写生」して蕪村應擧の苦心それぞれ

 

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