平成16年1月号より

安藤  治子
幾ひらの雲ひるがえる伽藍の空あくまで青し夫のふるさと
伊藤 千恵子 愛知
見下ろせる樟の梢をわたる風いろ濃きうすき葉群返して
池上  房子 河内長野
輝きを増す綿雲の下にしてすでに暮色となる畝傍山
池田  和枝 北九州
収穫の終りて平らな芋畑吐息なすごとま土の匂う
上野  道子
ホトトギスはじめて咲けり細々とせる花茎を光に向けて
織田 彰二郎 宝塚
二筋の真澄を保ち冬の雲南の方へ移ろいゆきぬ
遠田    寛 大阪
光年を分かたず何れは滅びゆく吾が星に見る皆既日食
竹中  青吉 白浜
今朝のこと昨日の如し宵寝して明日の来るを待つこころかな
吉富  あき子   山口
秋深み石蕗の咲く庭となる又会いえたりこの寂けさに
奥村  道子 愛知
刈りとれる稲をあつめて積む田舟せまき水路を行き戻りする
笠井  千枝 三重
夕映えの雲のつつめる神路山あおぐ頂影濃くなりぬ
角野  千恵 神戸
ひと夜さを娘と宿る知多の浜いま光りつつ星一つ降る
中西  良雅 泉大津
蜆塚作り続けて一千年縄文人に時はながかり
山田  勇信 兵庫
ほうけたる穂薄映えて柔らかし衰えてゆくもの美しく
岡     昭子 神戸
子を抱く婦人の乗り来て空間におだやかな風ただよいそめぬ
沢田  睦子 大阪
目あてあるもののごとくにかもめ飛ぶ茜に染まるかなたの空に
林     春子 神戸
わずらいのなお癒えきらぬ幼子の吹くシャボン玉に虹色ひかる
湯川  瑞枝 奈良
古えの人の祈りて手触れたる布留の神杉幹すべらかに
横矢 喜代子 生駒
連れ立ちてコスモスの花に今日をあそび心やさしくなりて帰りぬ
                 選者の歌
        
桑岡  孝全 大阪
杜のかげに聴くいつくしき日本語柿本人麻呂土家文明
流らうるかがやきは秋いくばくか老いの心もきよまるごとく
猪股氏をまたさきだててうろこ雲ひかる地表を一万歩弱
井戸  四郎 大阪
いそのかみ古の神杉神さぶるおとめ賜ばわり変若かえりなん
芸亭を開きし石上宅嗣を称うる石ぶみ心して読む
新村博士撰文の宅嗣顕彰碑称うる言を尽くしあまさず
土本  綾子 西宮
三抱えはあらん注連巻く神の杉人麿の世にはいかほどなりし
幹伝い視野の届かぬ神の杉離りて天衝く秀を仰ぎ見る
放ち飼う神の使いの鶏ら斎庭に日なかとき告ぐる声

 

                                                                                バックナンバーに戻る