平成16年3月号より
池田 佳子 | 名古屋 |
関が原越ゆれば雲の垂れこめて野の上に淡く虹のたちたり | |
吉富 あき子 | 山口 |
照りかげりまたさんさんと降る雪のその美しき今生きている | |
菅原 美代 | 高石 |
われに向きて月昇り来るそれだけで心ときめく童女のごとく | |
堀 康子 | 網走 |
霜枯れしあじさい今朝は雪に埋もれ芯の緑の透きて氷れり | |
西川 和子 | 広島 |
飽くまでも自己主張する熱帯の花の彩り奇抜なホルム | |
長崎 紀久子 | 八尾 |
灯を消しし部屋のあちこち機器に点くダイオードの緑の光 | |
松浦 篤男 | 香川 |
世は遷り招かれ帰るらいゆえに夜半に隠れて出でたる道を | |
名手 知代 | 大阪 |
父母の座右に侍りし大火鉢所在なきまま土蔵に古りぬ | |
川田 篤子 | 大阪 |
整えし畦を遊びて崩ししを叱られしより祖父を拒みし | |
三宅 フミコ | 岡山 |
古毛糸もて編みたりし冬帽子日も夜もはなさぬ舅でありき | |
並河 千津子 | 堺 |
天井裏走る鼬の音たつる木枯の夜は薮も寒かろ | |
小泉 和子 | 豊中 |
ガラス戸の煽られ閉まる音のしてとるに足りない思い消えたり | |
木元 淑子 | 赤穂 |
新設の幼稚園には六十の監視カメラが作動している | |
浅井 小百合 | 神戸 |
塾終えてビルより出で来る子供等の圧縮されたるもの弾けだす | |
蛭子 充代 | 高知 |
車座に焚火囲みて朝餉摂る漁夫の作れる味噌汁匂う | |
長谷川 令子 | 西宮 |
声高に釣りの話をするもありリハビリ室の朝のにぎわい | |
安田 恵美 | 堺 |
日の丸が柩の上にひろげられイラクに死したるふたり帰国す | |
本村 則子 | 佐賀 |
捨てきれぬ想いを抱きて立つ庭の紅萩ゆらし風の吹きゆく | |
選者の歌 | |
土本 綾子 | 西宮 |
滲みいずる水にうるおう落葉の径土に通えるいのちを思う | |
拝殿のうしろの杜の一ところさやぐ葉群に光踊れる | |
落葉焼く煙なずさう院の庭冬ざくら一木ひそやかに立つ | |
井戸 四郎 | 大阪 |
デジタルの放送を囃したつる声わが耳うときが幸いにして | |
電車線くぐり点らぬ墜道を近道にして夕べ帰り来 | |
浅き夜の冷え来と独りもの言いてシクラメン一鉢うちに取り込む | |
桑岡 孝全 | 大阪 |
死ににゆくからだ美々しく鎧いにしいにしえ人も悲しみ深し | |
わが耄をあなずる夢か明時をすてごさうるすふたつながまる | |
男児なれば泣くべからずと幼くていましめられしよりの鬱積 |