平成16年4月号より

高間 宏治 小金井
八幡平展望台の雪踏みて四囲雲海のただ中に立つ
丸山 梅吉 大阪
歩くこと幸せとして百近くひとりぐらしの気楽さにいる
野崎 啓一
静寂つき二声鳴けり夕鴉この拘りをあざ笑うにや
池田 富士子 尼崎
除夜の鐘聞きつつにぎる鰤の鮨祖母はは吾へと受け継ぎしもの
名手 知代 大阪
新しき年の晴着を枕辺に朝待ちたりし我の少女期
金本 都子 高知
霧たてる川面を飛べる白鷺を清しと思う歳旦にして
松野 万佐子 大阪
三が日過ぎし斎庭の木々に結うみくじ幾万の願い連なる
村松 艶子 茨木
いち早くのぶる薺を祖母と摘みし思い出ありて七草を買う
松岡 類子 高知
四枚こはぜきっちりさし込み新しき地下足袋軽く脚立に上る
白杉 みすき 大阪
少しずつ滴らしむる蛇口より寸ばかりなる氷柱下がれり
小川 千枝 枚方
靴脱ぎて裸足に搭乗検査受くテロに怯ゆるホノルル空港に
春名 久子 枚方
わが夫のいくさのはなし聞く孫ら夕近き部屋緊張感ます
尼子 勝義 赤穂
校門を閉じよと通知一枚に官僚らは何を守らんとする
米田 由美子 和泉
どこからが過去か未来か目瞑りて魂の行くままわれは遊びぬ
小深田 和弘 岡山
何処より湧き出ずる雪かと灰色の空仰ぎ見き少年われは
奥野 昭広 神戸
あの時に拾いし子猫の九年経て共に恙無し一月十七日
奥嶋 和子 大阪
母が編み父が着ていし半纏はふたりのかたみぞ湯上りにはおる
小倉 美沙子
しんしんと降る雪の土に溶けてゆく大地はすでに春の温もり
鈴木 和子 赤穂
庭隅の蕗のとう未だ小さくして今朝は摘まずに指触るるのみ
石村 節子 高槻
池沿いの柳の枝に心ひかる今日は緑のたしかになりぬ
山口 克昭 奈良
山峡に早き春田の役終うる牛を里田の鋤に返しぬ
                 選者の歌
土本 綾子 西宮
乱れ伏す紫蘭の枯葉とりてゆく根方に角ぐむ春の芽避けて
額よせて披露宴のプランを練りている二人を見つつ皿洗いおり
てきぱきと事はこびゆくを目守るのみその父ははも吾ら祖父母も
井戸 四郎 大阪
茶色濃き鉄錆にぶく艶をもつ七支刀ありわが目の前に
鉄剣にのこる六十一の文字国の宝の証ともなる
復原してしろがねにてる七支刀遠世の王の誇りとも覚ゆ
桑岡 孝全 大阪
頭の灯る蛇なすカメラ身のうちを這わしめたりし二十分ほど
わが腸の内視つづくる青年とふたりのみいてことばかわしき
若かりしわれの浮薄を見知りたる人々も世を去らんころおい

 

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