平成16年5月号より
木山 正規 | 赤穂 |
夕づける日の差し入りて寺庭に黄の透き通るさんしゅゆの花 | |
後藤 蘭子 | 堺 |
携わり方竹さやぐ坂のぼり高樋ゆく水の音をききたり | |
横山 季由 | 奈良 |
栗駒の鶯沢町紙漉沢美しき名なり君の住む里 | |
南部 敏子 | 堺 |
初めて知るひとつばたごの落葉して鱗縞ある木肌を見つむ | |
吉年 知佐子 | 河内長野 |
ふく風の今朝寒きなか向い家に干せる花柄の傘の明るし | |
金田 一夫 | 堺 |
遠き日にためらい送りし恋文も易やすと携帯に打つ世となりぬ | |
岡田 公代 | 下関 |
わが歌を一首添えたり十二年続けて最後の相談室便り | |
戎井 秀 | 高知 |
威勢よくさばかれてゆくトロ箱の鯖の目澄みて青き色もつ | |
辻 宏子 | 大阪 |
棚卸未収買掛決算の数字を思う夜半に目覚めて | |
桂 功三 | 奈良 |
正月を子等十人と言祝ぎしこの家をいま去りゆかんとす | |
藤田 政治 | 大阪 |
静かなる曲流れいる手術室おみな三人に身を委ねつつ | |
松内 喜代子 | 藤井寺 |
麻酔より醒むる意識にわが姉は幼き春のげんげ田を言う | |
大杉 愛子 | 岡山 |
来なくてもいいよと友に断れど少し期待をもちて臥しおり | |
光本 美奈子 | 高知 |
ああ今日も無事に帰れりと自転車を降りて息つく齢となりぬ | |
名和 みよ子 | 神戸 |
ひとり暮しの気安さ楽しさ言いし後わが寂しさのにわかに湧き来 | |
山田 勇信 | 兵庫 |
今日も子の命絶ちたる親ありてゴヤの画きしサトゥルヌス思う | |
浜崎 美喜子 | 白浜 |
何処かで見た様な景に佇みぬ国吉康雄のペン画親しき | |
山寺 康敬 | 愛知 |
農道の土の感触なつかしく枯れ草を踏む歩巾大きく | |
森口 文子 | 大阪 |
賜りし護符ことごとく携えて出で立つという自衛隊員 | |
許斐 眞知子 | 徳島 |
生きて帰れと言えるが今の慰めか黄色のハンカチ手に靡かせて | |
選者の歌 | |
土本 綾子 | 西宮 |
殖えふえて六鉢となれる折鶴蘭亡き叔父の庭より採りて来しもの | |
戦死せる叔父の住みいし長崎の家訪いゆきし日もはるかなり | |
軍服の馬上の姿凛々しかりき若きうつしえのみに残れる | |
井戸 四郎 | 大阪 |
寒さただ訴うるのみの葉書一枚年々の冬に思い出だすも | |
交通の不便の中に連れ立ちて来たりし二人も遠くはるけし | |
心電図乱れのありともあらずとも今日吹く風に春遠からず | |
桑岡 孝全 | 大阪 |
日差しなき地下の街にもありなれておみなの靴の硬き音きく | |
疎かにかつて聞きにしエエトコへユケヨと柩によびかくる声 | |
世の闇につぶさにふれて受賞せる二人は二十そこそこにして |