平成16年7月号より

木山    正規 赤穂
水量を増して流れが堰を落つ濁れるままの飛沫をあげて
池田    和枝 北九州
うすら陽の庭に小草を抜きおれば蜜柑の花の背に匂えり
大森    捷子 神戸
ベランダに蒔きし小松菜いちどきに芽吹けるを告ぐ妻となりし子
藤田    政治 大阪
家庭もつ娘とふたりの時過す思わぬ手術に臥せるベッドに
小倉   美沙子   
穏やかに時の流るるこの日々を或る時は退屈と思う不遜さ
安田    恵美
時はやく黄砂来たるというしらせ雲にはあらぬ空の色する
廉林      悌 大阪
いくばくか寒さの緩む居間の窓淡き夕日の長く差し入る
松内   喜代子  藤井寺
校庭に生うるくすのき芽吹くころ十五の吾は人を恋いいき
樋口    孝栄 京都
新しく白線塗られし横断歩道高く手をあげ一年生行く
松野   万佐子 大阪
朝々をかまどに竹の屑焼べて茶粥炊きにき夫ありし日に
横矢   喜代子 生駒
ちち母のみ墓に名残りの桜ばな散りて吉野の春の終りぬ
伊藤   千恵子 茨木
株わかち根尾より来りし薄墨桜の花にあいたりこの薬師寺に
上野    道子
修二会待つ心ゆとりにたそがれの齋庭に立ちて仰ぐ東塔
角野    千恵 神戸
半纏の若きら燭に油注ぎ夜の修二会の内陣きよむ
池田    佳子 名古屋
暗きに馴れおぼろに見ゆる様々の瓶の造花の影を目に追う
中西    良雅 泉大津
灯明のかすかに揺れて丈六の薬師三尊黒き陰なす
森口    文子 大阪
蝋燭の乏しき明かりに経典の文字ひたすらに追う南無薬南無薬
山口    克昭 奈良
往反に明幽の地をかえり見き田原西陵切り取通しみち
奥野    昭広 神戸
四年経て再び参る技芸天どうしていたかと見下ろし給う
小川    千枝 枚方
ダイエット好む細身の少女達技芸天女の豊けきを見よ
                 選者の歌
土本 綾子 西宮
豊かなるみ腰嫋やかに立ち給う天女を仰ぎ時のとどまる
清らかに古りて木目浮く回廊を踏むあなうらに伝う感触
佐保山のなだりゆるやかにしつらえて石階はやさし老の歩みに
井戸 四郎 大阪
南無薬師如来のみ手に掬われてもつるる足をなお歩みなん
薬師寺の花の会式にわが足を案じる孫らを連れに詣りぬ
白もくれんしどろに散れる花びらを朝に夕べに掃き捨つという
桑岡 孝全 大阪
月かげは十日あまりかうすずみの名を負うさくら一樹の匂う
野を広く占むるみ寺にためらわず修二会のよるの鉦をうつかも
薬師過悔いまたけなわのもののおと怒るがごとく呻けるごとし
僧若く指しなやかにむこうむくままに散華を高だかと投ぐ
月の夜をたつ東塔のひそけきをこころに人の世にかえるべし

 

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