平成16年8月号より

竹中    青吉 白浜
にごりあげ身を隠す小川の鯉に見るここに微かに残る自然を
平野    圭子 八尾
額紫陽花小花開きて露をもつ日の差す前の庭のひそけく
吉田  美智子
それぞれの花期少しずつ早まれば温暖化する地球思えり
長崎  紀久子 八尾
工廠に物資運びし水門の苔むして大阪城の濠に残れり
長谷川  令子 西宮
オール揃え朝あけの大川をゆくボート葉桜の陰に見えずなりたり
安藤    治子
かえりみて淋しくはなきか自己中心闘争的言葉をテレビに晒す
米田  由美子 和泉
ようように相会うこの日子らの目に親の祖国は如何に映りし
高島    康貴 徳島
異教徒の何処の壇に祀られしシヴァ神像か吾が書架に今
山内    郁子 池田
路地裏はみどりの蔦の絡まれるカフエのならびボレロきこえ来
堀       康子 網走
父看取る母と疲れて帰る家草の幾本出で入りに引く
中谷 喜久子 高槻
さりげなく足のむくみを確かめるナースは布団なおす仕種に
村松    艶子 茨木
哀歓をつたうる電話のプッシュ釦磨り減りており病棟の隅
川田    篤子 大阪
歩く距離短くなれる老い母の花屋への往き来どうにか保つ
名手    知代 大阪
筍を包みてありしふる里の新聞を読みふけるひととき
鈴木    和子 赤穂
煮立ちたる塩湯に放つ青豆の色の冴えくるこの時が好き
坂田    澤司 枚方
コンビニの菜試みて妻にいうたまには楽せよこれもよからん
林       春子 神戸
変化なき日々を休まず編みつぎて糸は確かなる形なしゆく
井上  満智子 大阪
健やかに共にあり得し五十年庭の楓に五月風吹く
岡       昭子 神戸
乗り合わす人との視線をそらしつつエレベーターは一階につく
奥嶋    和子 大阪
赤黄青色の坩堝と変わるとき万の風船は大音響発す
竹永    寿子
ひたすらにベルトの強いる歩を進むこのマシンに馴染む事なく
上野  美代子 大阪
片隅に小さく載れる記事一つわがボランティアグループに春の褒状
                 選者の歌
土本   綾子 西宮
才たけて明るき君を及びがたき先進とただに憧れたりし
神明町の君の家に二人徹夜して校正したることもはるけし
西の湖の舟の遊びの楽しかりき君すこやかに在りしひと日の
井戸   四郎 大阪
施しの食待つ長きながき列すべ無きわれの見て通るなり
救世軍の歌声ひびく会堂の前の兵士ら吾に呼びかく
キリストの救いを伝うる教会の扉は昼間閉ざされており
桑岡   孝全 大阪
さくら花すぎての寒さ何の木の青葉と知らずゆうかげに揺る
ふわふわとしたる一日のおわるべく眼鏡の春のほこりを拭う
うす色のサングラスせる古り妻と道に会うわが知らざりし妻

 

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