| 桑岡
孝全 |
大阪 |
| つねに見るわが町ならず黒いろのさむきくもりに昼の月透く |
| ゆえ知らず啄むかげの失する冬置きやる蜜柑そのままにして |
| 電線に音符のごとくならぶのを見しはひとたびさびしき冬ぞ |
| 駅に入ると床につたわる制動の鉄のきしみの喃語めく午後 |
| 外出より帰りて帽子をかむるままかっこみもする個食の習い |
| 井戸
四郎 |
大阪 |
| 朝まだき銀行戸口に福祉金待ちて並べり寒く降るなか |
| 高架線路岐れる広きガード下改札口に灯のともりたり |
| 街路樹の辛夷の白き花ばなは葉の出ぬ枝に咲きそろいたり |
| 旧き友病み臥す日ごろ花白く咲ける辛夷の淋しかりけり |
| 窓に見る並木の辛夷に夕映えの白々うつり病み臥すという |
| 吹く風の我には寒き昼近くこぶし並木をリハビリに行く |
| ゆるゆるとペダル踏みきて土佐稲荷のさくらに隣る丸山翁訪う |
| 土本
綾子 |
西宮 |
| 日の在り処おぼろに茜のうつろいて水平線の今し明るむ |
| 冬の海波おだやかに暮れてゆく雑賀の浦に漁火を見ず |
| きさらぎの風なお寒き岬の端(はな)草丈ひくく寒あやめ咲く |
| 紀の国の青石ゆたかに敷きつめて明るき苑の階踏みのぼる |
| 紀の国の青石を運びわが家の垣を造りき四十年前 |
| 黒船の見張り番所(ばんどこ)の跡という芝生なだらかに平成の苑 |
| 忘れいしものに会うごと家並みひくき町空を鳶の舞いめぐる景 |
|
|
高 槻 集 |
|
|
| 竹中
青吉 白浜 |
| 病棟より見下す田辺湾の眺め悲しみの今日が見おさめとなる |
| 田辺湾囲める山の雪しぐれ来りて姉のみ魂つれ去る |
| 槙高雄遠く中辺路の雪景色哀れの心に思いがけなし |
| 手に持つが面倒か否流行か曳きずりながら乗り場にいそぐ |
| 川中
徳昭 宮崎 |
| 友に持たす竹の酒筒水筒を明日の葬りに請けて作りぬ |
| 過ぎし日に心違いて淡あわと交わり来り今日は涙す |
| 小鳥罠共に掛けしを思い出づ花納めつつさよならを言う |
| 労農派の経済学者を懐かしみ眺むるのみに古書店を出づ |
| 佐藤
健治 池田 |
| 縛らるる四肢つきだして転がれる肉屋の軒のいのししあわれ |
| 青き空にすももの花の日に映えて見上ぐるわれの雑念の消ゆ |
| 戦いの終わりて兵は復員す軍馬は一頭だにも帰らず |
| 伯母とわれ暑き日に畦の草を刈り軍馬に飼うと駅に運びし |
|
| 6月号作品より
順序不同 |
|
| 安藤
治子 |
堺 |
| 転害門は滅法太い丸柱刺客隠るるも可なりと見上ぐ |
| 子猫の域は過ぎたりと思う五六匹大門の柱の裾に日を浴む |
| 逞しき角持つ一匹眷続を護るが如く草生に立てり |
| 伊藤
千恵子 |
茨木 |
| プランターに茎立ち咲けるアネモネに風花舞いて静けし路地は |
| 夫逝きて三たび迎うる花の季移りし街にわが障りなく |
| 再びを咲きそめし鉢のカランコエ光春めくベランダに出せり |
| 横山
季由 |
奈良 |
| 峠二つ越え来て能勢の野間の村樹齢千年の欅枝はる |
| 茅葺きの家幾軒か残る里訪ねて新年の挨拶交わす |
| 霜焼けせし柿の実残る木立あり猪よけのトタン巡らす傾りに |
| 池上
房子 |
河内長野 |
| バス去りて光澄み透る村の道秋の終りの虫の音きこゆ |
| 山蔭の小道は昼も霜どけの泥に散り敷く桜の紅葉 |
| 人声の乏しき河内の山の村家ごとに橙の実りゆたけし |
| 岡田
公代 |
下関 |
| 歌集を編まんこころ決まりぬ春の陽にきらめく流れを君とみし日に |
| かく拙き歌集と言えど君書きし跋文はよし声出だし読む |
| わが歌集を見ん日近しも眼内レンズを通る光の今あらたにて |
| 後藤
蘭子 |
堺 |
| 壁の般若面恐れいし児のかく育ちその下に見するビ−ルマンスピン |
| 唐突に逝きませばふくよかに柩のみ顔にただ手を合わす |
| 慈しきうつしえに相応う院号を心にきざみ額ずきていつ |
| 坂本
登希夫 |
高知 |
| 九十二が劣えし足で田をうなう耕運機のハンドルを頼り |
| 独りの米は今年も穫るべし九十二の親の威厳なお保つべし |
| 籾づきの精米機で精白の温みある米を吾が洗い居る |
| 寺井
民子 |
豊中 |
| 母かたに似て背高く良き男の子まだ独り身に四十となる |
| 勤めより遅く帰り来てパスタ作るとぞ共に食ぶるは母のみにして |
| パスタに入れるトマトも伊太利産を買い来るという男の子四十 |
| 岡部
友泰 |
大阪 |
| 二千年前のイエスの影残す聖骸布と謎ある今も信ずる多し |
| トリノの聖堂に納まる亜麻布一枚イエスを包みししみの残れり |
| ブロンズの童子像のもつ水瓶より光りて冬の水のしたたる |
| 掘
康子 |
網走 |
| 凍て緩み透きとおりたる粗目雪その下に見ゆ蕗の薹ふたつ |
| 逸早く苺の畝より雪解けて艶光りする黒き土出づ |
| 自殺者のふえいるという教育者自衛隊員ゆたかに暮すに |
| 遠田
寛 |
大阪 |
| 遠くありて思う故里に雪のマーク吾が待つ花の便り遅れぬ |
| かかわりに疲るる日ごろ花過ぎて受贈雑誌の嵩高くなる |
| 藤田
政治 |
大阪 |
| ベッドにて本を持つ手の冷ゆる夜この冬の寒さ長くきびしき |
| 長きものは読む根気なく短編の名作に親しみ眠るこの夜も |
| 森口
文子 |
大阪 |
| 手帳より落ちたる紙片
筋力が衰えぬための記事の切り抜き |
| 産みたての卵分つと玄関に置きて息子の帰りゆきたり |
| 角野
千恵 |
神戸 |
| 竹製の二尺差買えば裏面に取引規格外と刻める |
| 譲るべき娘のために袷の裄出だすとふた日もはらに居りぬ |
| 奧野
昭広 |
神戸 |
| 冬の日のひかり差したるカーテンにうたた寝をする猫の影あり |
| 盃の形の月が西に照り飲めとごとくに三月三日 |
|
|
ホームページに戻る
|