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土本
綾子
西宮 |
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棕櫚の花咲きて散り実となるまでの景窓に見てまた夏を迎うる |
少しずつ人に遅るるわが歩み階のぼる時さらにひろがる |
化粧せずなれば認知症のきざしとぞ聞きしをおもう朝の鏡に |
母を中に女四代写りにきその母の位地にいまわが座る |
蓄えを減らしつつ命生きつぐにやがて来ん日を思うたまゆら |
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高 槻 集 |
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竹中
青吉
白浜 |
土蔵への通路に今朝は青大将冬眠より覚めて日を浴びている |
予備の白足袋常携えての神社勤め律儀の中に話通いき |
休まず働かずの付けが来たようだ入力洩れ年金の亡霊を追え |
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浅井
小百合
神戸 |
早苗田はようやく澄みて畦道の下校の児等を逆さまに見す |
街路樹の樟は揃いて太りつつまだ故郷にならぬこの町 |
絨毯に切り飛ばしたる足の爪身を離れても夫の爪なる |
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川中
徳昭
宮崎 |
田に続く山荒れ猪の径幾つかつて遊びし里山ならず |
人よりも早く終るは気持ち良し食う程のみの田植えにあれど |
水満てる田居に山影映る朝峡ゆるがして杜鵑なく |
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9月号作品より
50音順 |
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高島
康貴
阿波 |
入梅前の今日晴れ渡る海峡は鵜の鳥居らぬ沖の夫婦岩 |
海峡の彼方に淡路の空晴れて風力発電塔ゆるゆると回る |
高間
宏治
小金井 |
貴重な剥製数多残して飄然と日本を去りし英人ベン・アリソン |
冒険と狩猟に生きし人生ありわれと対極の生きざま羨し |
中谷
喜久子
高槻 |
一人居の妹が培う菜園より今日もちくるる豌豆ちしゃ苗 |
辣韮の束にまぎれて来るもの庭石菖といくつ蟻ん子 |
長崎
紀久子
八尾 |
連歌所の今日は板戸の上りいて歌仙の額見ゆ交わす声する |
向い席の童女姿勢よく膝揃う斯く育てたる人想いおり |
西川
和子
広島 |
殊更に初めの子吾を慈しみ末を頼みとせし母なりき |
喜びも心配事も人一倍親に懸けし子としみじみ語り |
野崎
啓一
堺 |
一日を終えて日記の筆をとる書く事もなき一日の空白 |
教基法を変え国を愛せよと子等に説く年金記録も不明なるこの国 |
長谷川
令子
西宮 |
山裾の集落めざし畦をゆく今宵を宿る茅葺何処 |
植え終わる田の広々と続きおりはためく幟は道の駅らし |
鶴亀
佐知子 赤穂 |
馴染みなき赤穂の地にて頼もしき小さき友得し小学一年 |
束の間を隣合せに住みし幸互みに幼あり助け合いにき |
戸田
栄子
岸和田 |
眼をとじて思いいづるはわが母を介護したりし壮絶の日々 |
来り見る施設の母は妹達のことも皆わが名の栄子とよべり |
中川
春郎
兵庫 |
伸びに伸び切り捨てんかと思いいたるピラカンサに白き花咲く |
何処より来れるものかこがね虫ばらの花々食い荒したり |
中西
良雅
泉大津 |
梅雨晴れの一日高野山に登りたり伽藍の庭に人を見かけず |
空海の開きし頃の高野山村も無かりき路も無かりき |
名手
知代
大阪 |
負け試合も四方にお辞儀して終る幼きナイン逞しく見ゆ |
生きてますか生きているよを慣いとす独り住いの姉との通話 |
並河
千津子
堺 |
庫院への廊登り行く窓の外合歓の大木花盛りなり |
装いて形見の指輪はめて知る姑の指の太かりしこと |
南部
敏子
堺 |
マラカスを作らん孫と家中の穀類ボトルに入れ音比ぶ |
梅雨の雨音する夜半を立ちてきぬ吾はやまんばの風貌をして |
川口
郁子 堺 |
ゴンドラに揺られヴェニスの運河ゆく進入禁止の標識も見て |
政界は今も昔も墓場まで真相を包み持って行くらし |
小深田
和弘 美作 |
畑にはびこる杉菜の地下茎絶やすべく鍬深く打つ昨日も今日も |
黄のばらの花びら浮かべる皿持ちて妻は夕餉の卓に置きたり |
佐藤
健治
池田 |
耳遠くなれる先生聞き取りしことの理解はまことに早し |
木製の椅子と机をだきかかえ行列つくりて校舎に運びし |
佐藤
千惠子 神戸 |
ユングフラウヨッホに登りて自らに宛てたる便りをポストに落す |
プールサイド行きつつ友に手を振れる一瞬バランスを崩し落ちたり |
藤田
操
堺 |
雨の音聞きて心の安らぐは我が内に流るる農の血ゆえか |
雨降れば「雨喜び」と親達の田仕事休みのうれしかりにき |
平岡
敏江
高知 |
八十九の母は吾が家に日々に来て畑仕事を手伝いくれる |
部屋内へ入れたるサボテン二鉢が咲き始むるを動悸して見る |
林
春子
神戸 |
パスポート更新してよりひとたびも旅に出るなく十年の過ぐ |
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