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土本
綾子
西宮 |
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杉木立闇にしずもる参道を燈籠の灯にみちびかれゆく |
一の橋過ぎて御廟へなお二キロ暗闇の道をひたすら歩む |
「今晩は」挨拶を交しすれ違う外つ国びともやまとことばに |
闇のなか立ち止まり仰ぐ杉の秀の彼方にきらめく満天の星 |
人気なき暗闇の道によこたわるくちなわに若き友は声あぐ |
防犯灯に照らされながら庭をよぎり静もる寺房の門口に立つ |
霊宝館めぐりて両界の曼荼羅に金剛胎蔵氏の名の謂れ知る |
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高 槻 集 |
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浅井
小百合 神戸 |
焼茄子を夫と食うぶる秋の夜のわが家に嫁と呼ぶ者は来ず |
眦に力を込めて幼子は離乳の粥を飲み下しおり |
大木となりて隣家に迫りゆく黐切り倒す塩に浄めて |
南部
敏子
堺 |
庭土に襤褸置くごとすべりひゆひめしば共に萎ゆるこの夏 |
真夏日を来て赤点る交叉路の電柱の陰に身を細め待つ |
子には二回相身互いの夫の場合耳寄せ判るまで聞き返す |
春名
久子
枚方 |
堂島川を市旗靡かせてパトロールする船ありて梅雨の雨ふる |
若くして夫を亡くしし妹の言をひかえし三世代世帯 |
訃の続くこの日ごろにて心なえ古りたる家に二人のくらし |
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11月号作品より
50音順 |
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安藤 治子
堺 |
雨の響きに記憶返りぬ艦載機急降下銃撃のあられ打つ音 |
農作も漁労の人も住まぬ界隈地蔵盆祀るしきたりも無く |
伊藤
千恵子
茨木 |
再入院にわが付添いしは四日前義弟の死を告ぐけさの電話は |
病よき汝が運転に紅葉の山ゆきて滝を見し終の思い出 |
池上
房子
河内長野 |
路地裏に開く戸の内調理場にキャベツを刻む若者が見ゆ |
昏れがたのひと時暗しつくづくと淋しくなりてわれはころぶす |
礒貝
美子
桑名 |
はいはいの早くなりし曾孫の机に向うさまをはらはら見守る |
笑顔よき幼児抱きて乳ふくませるひとときは子育てをする至福の孫 |
上野
道子
堺 |
皆既月食終えて満ちくる月影を写す今宵のナイター中継 |
世辞いわず地味に販ぐ店主よしポケット多きショルダー選びぬ |
小沢
あや子
大阪 |
大川の暗き水面を提灯に照らし幾度舟の行き交う |
花火あがり炎の色に染まりつづく夜空の下を舟の行き来す |
大濱
日出子 池田 |
この年も駅まで会いにきてくれるいとけなきより交際の友 |
木先生に診てもらいし友の吾にくれしバラ十年を咲きて友亡し |
岡田
公代
下関 |
一年によろこびはかく深まりて今し立ちたる双り子を見る |
一歳の肩寄せ坐る双り子に抑揚つけて絵本読みゆく |
岡部
友泰
大阪 |
子の論理受け容れがたき世代差は今更ながら一夜ねむれず |
昔のまま縦書き通す医事新報父に倣いて今吾もよむ |
松本
安子
美作 |
山峡に一本もみずる七かまど梅雨の晴れ間の日を受けて映ゆ |
背戸川の葦除かれてこの年の蛍とぶなき水を見ている |
森本
順子
西宮 |
丈低きレンゲツツジ咲く八合目うぐいすの声しきりにひびく |
美作のくに間近なる頂に黄砂のこめて大山見えず |
山口
克昭
奈良 |
生くること大儀にありて己より太きを呑みてものかげに伏す |
朝々に急発進の隣びとわれの世代に異なる苛立ち |
山田
勇信
兵庫 |
終日をついに音なき風鈴をただに眺むる寝苦しき夜を |
遠見ゆる大阪平野の夜の闇を雷光しきる空爆のごと |
吉田
美智子
堺 |
散歩するを止められし夫庭に出てホースの水を激しく飛ばす |
爺ちゃんの寝相が悪く僕の場所狭くなったと困惑の顔 |
吉年
知佐子
河内長野 |
飛行船とジェット機のゆく夕空を白鷺ひくくわが上ゆけり |
見上げたる夕べの空に月は無く木星ひとつ大きくひかる |
安西 廣子
大阪 |
教職の三十五年時に恋う良きことばかりの月日にあらねど |
点検か解体するのかゴンドラのない観覧車海ぎしに立つ |
井上
満智子
大阪 |
いつの日か着たしと思う母の形見の紬に今日は風を通しぬ |
我が為に母縫いくれし腰紐の半世紀過ぐるも鴇色の冴ゆ |
岩谷
眞理子
高知 |
楠の木の葉ずれ涼しき夕光に藪蚊払いつつ墓石を洗う |
里帰りに草刈り機持ち来て弟は家の巡りを忽ち刈り終う |
上松
菊子
西宮 |
梅雨空に巨大なビールタンク群鈍く光りて眠たげに見ゆ |
蝉の声あしたかしまし微かなるわが耳鳴りを忘るるまでに |
梅井
朝子
堺 |
木洩れ日の中いきいきと蜻蛉追い子等の遊びし六甲の山 |
ささえやる力なければ裡に思う邪魔にならずに生きてゆかんと |
戎井
秀
高知 |
トンネルの中走りつつカーナビの声して今し県境越ゆ |
日に灼くる父母の墓石になみなみと井戸水を汲みて吾は注げり |
湯川
瑞枝
奈良 |
鸛の雛巣立ちたる様を見せテレビは地元の悦びうつす |
風鈴のひまなく鳴りて風通うくま蝉の声止みたる午後に |
山口
聰子
神戸 |
いたつきの友を見舞いし帰り道奇跡祈りて石蹴り歩む |
にこやかに挨拶返し何者とも判らず降りたるホームで手をふる |
安田
恵美
堺 |
葛しげる傾りの下の水しずか今日梅雨晴れの空を映して |
みどりごの深き眠りを守りいる母の腕は小さき宇宙 |