桑岡
孝全 大阪 |
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青銅像にたびまねく会う旅程終えん駅頭に眼鏡の山頭火像 |
よいしょっと聞ゆる女声スーパーの前より自転車を漕ぎいだす |
手掴みで食わしむる店と今更に思ってもみるマクドナルドで |
空腹感絶無なる身となげかいし土屋文明のよわいはまだまだ |
条約改定の七十年へ収斂するごとく生きにし歳月も過去 |
尖鋭化きそえる青年教師らにセポイを名のる一団ありき |
映像のヒトラー万事に自己顕示どこかの若い知事さんのよう |
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井戸
四郎 大阪 |
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水仙の細き芽生えの青き葉の俄かにも伸ぶこの二三日 |
銀行のショーウインドーの三色すみれ明るきなかに萎るる早し |
後期高齢者医療保険証いち早く呈示し診療費払う |
二ヶ月あとのレントゲン写真心電図予約し今日の診察終わる |
年齢相応の脳萎縮あり耳うとく白内障あり自転車にゆく |
足腰は年齢相応と納得しペダルを踏みて昼を出でゆく |
ペダル踏む力弱まるこの日頃交通少なき裏道を行く |
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土本
綾子 西宮 |
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海に沈みし幼き帝を祀る宮竜宮城を模してあかるし |
敗れたる平家に情(こころ)よするという町びとに守られ古戦場址 |
曝されて刻める文字も読み難く平家七盛の塚の鎮もる |
七盛の塚のうしろに女人ひとり刻字うすれて二位の尼の碑 |
椎の大木伐られて平家一門の墓処にやわらかき春日のとどく |
記憶よりいくらか小さく桜散る庭に晋作馬上の勇姿 |
高杉晋作ここに挙兵の世を伝え守られて国宝のみ寺に鎮もる |
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高
槻 集 |
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安藤
治子 堺 |
聖火リレー護ると外つ国の地の上に翻す旗の傍若無人 |
卯月の光すがしと思う吾が瞳の更なる収縮を医の君は告ぐ |
曼荼羅華の二葉は恙なく萌えぬ夏の花見ん視力保たな |
丸山
梅吉 大阪 |
マンションの玄関にわが植えし梅早く生いたつ実をむすぶまで |
肆意にわが植えたりし梅伸長す肆意と見る人今やなきまで |
昼食にはかわるがわるに人見えて三度の食事われは据膳 |
松内
喜代子 藤井寺 |
病室の窓に小鳥の声を聞く娘の産み終えて迎うるあした |
さんご樹の芽吹きの下に抱きたる赤子が光に目を細めたり |
ちちははを知る町びとに支えられ新区長夫の任(まけ)のはじまり |
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7月号
作品より
(五十音順に順次掲載) |
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白杉
みすき
大阪 |
通学にそなえて長き夏休みを草履つくりにあけくれたりき |
叶うなき飛翔を試すコウノトリか先を詰まれし翼を広ぐ |
菅原
美代 高石 |
蓄音機この重きものよくもまあ電車乗り継ぎ持ち帰りしよ |
こぼれ梅と優雅なる名に呼ばるるを味醂かすとは長く知らざりき |
田坂
初代
新居浜 |
昨日まで元気で現職一夜にて冷たくなりし心の友は |
儚しと言えどあまりに淋しかり長年寡婦で旅館守りし |
高島
康貴
阿波 |
遊山弁当済ませて小高く登り来ぬ若葉ありベンチあり鳥が音のあり |
傍らに俯く妻は微かなる寝息立つ若葉の木蔭のベンチ |
高間
宏治
小金井 |
六十年を超えるつき合い肩組みて寮歌を歌う安田講堂に |
春浅き三四郎の池暗く濁りおたまじゃくしの群れいまだ見えずも |
竹中
青吉
白浜 |
老人に寒きまで南風(みなみ)のつのる一日わが山林(やま)の桜咲くと伝え来 |
看護師のお菓子のような耳朶にみとれている間に採血終る |
奥村
広子
池田 |
買物に食事につきて来る息子畑仕事は逃げの一手か |
庭に咲く薄紫のレモンの花かすかに風に香りたつ日々 |
奥村
道子
弥富 |
無花果の枝にラジオを吊りて聞き胡瓜畑の草取りをする |
いくたびか父を見舞いの道のりを木炭バスに行き帰りしき |
小倉
美沙子
堺 |
測り売りの浅蜊は勢い泡を吹くスーパー開店の呼び込み競りに |
心まで錆びつくような今日の雨一つ家にいて夫静かなり |
笠井
千枝
伊勢 |
軒下に干さるる蓬香にたちてわが足とむる昼の宿場町 |
旅に持つ文庫本二冊読む予定なかばに終ること多けれど |
梶野
靖子
大阪 |
わが視力拡大鏡をたのみとし賜える歌集一息に読む |
庭掃除はヘルパーさんの規定外のびたつ草をただわが眺む |
川田
篤子 大阪 |
マヤ王の翡翠の仮面輝きて眼鋭く口に牙持つ |
夢にたつ母若かりき割烹着纏う起ち居の生き生きとして |
忽那
哲
松山 |
鮎かなと独りごつ吾に事もなげに鱒だよと古老教え下さる |
心身の疲れありなど盛りなる春の日記に書くのはよそう |
安西
廣子
大阪 |
ゆきすぎる景色の中の寺の屋根昔のままにふるさと近し |
あかあかと片側映ゆるビル群の長き影より夕闇は来る |
井上
満智子
大阪 |
一幅を二年余かけて織り上げし源氏絵巻の前去り難し |
声荒くなり来し夫を耳遠くなりたるせいとある時知りぬ |
岩谷
眞理子
高知 |
筆先の捩れに字体整わず一日の雨に湿気帯ぶらし |
はえ縄漁の針のつきたるしかけ並ぶ堤防は春の光集めて |
上松
菊子
西宮 |
電池切れあるを恐れていつよりか目覚まし二つ枕辺に置く |
誕生日祝うカードに子の年を記して今さらに我はたじろぐ |
梅井
朝子
堺 |
二年を過ぎぬ彼の日の斎場に咲き乱れいし紫陽花の庭 |
親の手を離れて歩み勇む足小さきもののみな美しき |
戎井
秀
高知 |
咲き盛る桜に雨のけぶる道傘に花びらをつけて子等ゆく |
川岸になだれるごとく咲く藤の彼方に祖谷のかずら橋見ゆ |
藤田
操
堺 |
神官の祖父持つ孫は拝殿に見よう見真似の柏手を打つ |
わが指を握りて離さぬ孫一歳半とうとう駅まで送りくれたり |
増田
照美
神戸 |
過疎の地に閉校されし中学の同窓会の案内届く |
手際よく客に応うる行員にわが知る少女のおもかげを見つ |
松田
徳子
生駒 |
網入れる漁船の上をゆったりと夕陽のなかに鳶の群がる |
暮れなずむ広場のベンチに小さなる野球帽子が置き忘れらる |
三宅
フミコ 岡山 |
タクシーを差し向けるから来て欲しいと電話に細き妹の声す |
朝の九時命閉じたる報らせ来ぬ逝かせし寂しさ身の置き処なし |
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